(3)キャンプ場へ
目的地は袴狭遺跡。そのさらに奥に小さく表示されたキャンプ場のマーク。
――営業中止、なんて情報は出てこない。
「まあ、行ってみればわかるか」
独り言のように呟く。しばらく歩くと分岐に看板が立っていた。
< 白糸の滝 → >
時間はもう十四時を過ぎている。山の中では日が傾き始めるのも早い。地図で見る限りキャンプ場まではまだ距離がある。
テント設営。
水の確保。
暗くなる前の準備。
「遺跡は帰りでいいか」
忠史はスマートフォンをしまい歩く速度を少し上げた。山道は緩やかな登りになり、やがて川沿いの細い道へと変わる。
さらさらと水の音。
岩に当たって砕ける流れ。
木々の間を抜ける風。
こういう時間が好きだ、と忠史は思う。
誰もいない場所。
情報のない空間。
ただ、音と匂いと自分の呼吸だけ。
やがて視界が開けた。小さな広場。背の低い草地と平らにならされた地面。端には簡易的なトイレがぽつんと建っている。
「着いた!」
すでにテントが二つ設営されていた。ひとつはカーキ色のドーム型。もうひとつは濃い青のソロテント。
「よかった……」
思わず声が漏れる。閉鎖されてはいなかった。
管理事務所のような建物は見当たらない。受付もない。どうやら利用者が自主的に使うタイプのキャンプ地らしい。
広場の奥、木立の向こうからは滝の音がはっきりと聞こえる。思ったより近い。忠史は空いている平地を選びテントを広げる。
ペグを打つ。
ポールを通す。
フライシートを被せる。
去年何度も繰り返した動作だ。手が覚えている。
途中、カーキ色のテントのファスナーがわずかに開き、中から人影が動いた気がしたが声はかけられなかった。静かな場所では挨拶のタイミングが難しい。
設営を終え荷物を中に入れる。空を見上げると雲はあるがまだ明るい。十七時前だった。
「なんとか暗くなる前に張れたな」
ほっと息をつく。
川のせせらぎは絶えず続いている。
滝の音も、一定のリズムで響いている。
まずは水の確保と周囲の確認。それから少し滝の方を見に行ってみよう。せっかくここまで来たのだ。
忠史はリュックからボトルを取り出し、滝の音がする方へとゆっくり歩き出した。




