鏡をなくした神さま
鏡をなくした神さま
むかしむかし、
かみさまは ひとりで そらに すんでいました。
まいにち かがみを のぞいては、
「きょうも うつくしい せかいだ」と つぶやいていました。
あるあさ、 かがみは こなごなに われていました。
神さまは おどろいて さけびました。
「わたしの かおが みえない……!」
せかいの いろも、 すこしずつ うすれていきました。
風が ふきぬけて ささやきました。
「かがみは そらから おちて、
にんげんの こころの なかに かくれたよ。」
神さまは 筆をにぎり、
「それなら さがしにいこう。」と そらを おりていきました。
神さまは ひとりの ひとりぼっちの 少年に あいました。
少年は いちまいの こわれた かがみを もっていました。
「おじさん、これ、空からおちてきたんだ。」
神さまは そのかがみを のぞきこみましたが、
なにも うつりませんでした。
神さまは 町へ いきました。
人びとは いそがしく、 だれも まわりを みていません。
「ねえ、きみの かがみを みせておくれ。」
神が たずねても、 みんな こう いいました。
「ごめんなさい、いまは じぶんの ことしか みえません。」
夜になり、 神さまは ひとりで 泣きました。
「わたしは せかいを つくったのに、
だれも わたしを しらない。」
そのとき、 小さな ねこが よってきて、
そっと 神のひざに のりました。
ねこが いいました。
「かがみって、うつすための ものニャ。
じぶんを みるための ものじゃ ないニャ。」
神さまは びっくりしました。
「うつす……ため?」
神さまは もういちど 少年を さがしました。
少年は ひとりで うたを うたっていました。
「おまえは だれを うたっているの?」
神さまが きくと、 少年は わらって いいました。
「ぼくを みてくれる ひとを うたってるんだ。」
そのとき、 神さまの まわりに ひかりが あつまりました。
こわれた かがみの かけらが、 少年の 目のなかで きらめいていたのです。
「そうか……。
かがみは、 じぶんを みるためじゃ なく、
せかいを うつすために あったのか。」
夜が くると、
神さまは ちきゅうの 光を みおろして ほほえみます。
「みんなが だれかを みているかぎり、
せかいは うつくしい。」




