9初めての夜会(age12
普通はお茶会に何度か出たり、昼間のパーティーに出たりするのだが父のロジャーが初めてのエスコートを何としてもやりたいと駄々をこねた結果、仕事が比較的に早く終わる今日この日にお披露目も兼ねて出席する事になったのだ。
キラキラと光るシャンデリア、美味しそうな軽食コーナー。今日のエスコートの相手は勿論父だ。
心臓はドキドキと煩くて、それでもダンスをしたり友達が出来たりするかもしれないと勝手に気持ちは沸き立つ。
可愛らしいドレスの集団をチラチラ見ていると。
「お姫様はご令嬢方が気になるのかな?」
「お友達が出来たら良いなと」
恥ずかしくなり少しだけ俯いてしまう。
「そうだなぁ。あ、あそこに2人で談笑してる子達が良いと思う。同じ派閥の子だし何より面倒見が良いと聞いているよ」
「はい! 行ってきます」
ソワソワしながら父から離れた。教えて貰った令嬢方を目指して一直線に向かう。
「あの......宜しくて?」
顔を真っ赤にして目には薄っすらと涙の膜を張った美少女が突然現れ面喰らう2人。少ししてハッとして微笑む。
「えぇ、どうかされました?」
「お、おと......ぉお友達になっても宜しくてよ!」
それはもう可愛らしい虚勢の張り方で子猫が一生懸命に威嚇してるようにしか見えない。銀髪に紫の目とくればローズ公爵家の色だ。
同じ派閥という事もあり2人は直ぐ受け入れる。
「あらぁ、まぁまぁ。えぇ是非ともお友達になりたいですわ。ねぇ? ミリー?」
「そうね、エリシャ? とても可愛らしい方だわ」
瞬間、花が咲いた様に思わず微笑むアンナ。しかし、それは直ぐに引っ込んでしまう。急にキョロキョロと辺りを伺うとフフンと胸を反らして得意満面の顔を父に向けた。
そんな様子も可愛らしくて仲良し2人組はアンナに心臓を撃ち抜かれた。
「なんって可愛らしいの......」
「えぇ、もう困ってしまうわ」
それからは、ずっと髪を撫でたり手を握ったりしながら2人は可愛らしいアンナを愛でていた。
2つ程年上という事もあり、もはや保護者の気持ちである。
「今日のドレス、目と同じ色にされてるのですね?」
「そうなの、お母様が頼んで下さったの!」
事あるごとにフフンと胸を反らして答える様子に身悶えてしまう。とても可愛いのだ。
「あの......お2人は、おいくつなの?」
「アンナ様の2つ上ですわよ」
「まぁ! あ、あの......お......おっお姉様とお呼びしても?」
顔を真っ赤にして聞いてくる様は母性本能を擽られてしまう。
「勿論ですわ!」
「えぇ! 好きな様にお呼び下さいませ」
ヘニャリと顔を崩して、とても嬉しそうに笑うアンナ。
そんなアンナを少し離れた場所から見ていた女たらしが1人。
「ほぉ、可愛いな」
光を受けてキラキラと輝く銀髪に大きな目は菫色。まるで人形の様な美しさに加えて何とも愛らしい表情だ。
それに見た所、擦れていない。これから自分好みに育てる事が出来そうだ。
ダニエルは狙いをすませて、ゆっくりとした足取りでアンナに近付いていく。
「可愛らしい、お嬢さん?」
若い青年と、まともな交流を持った事等無いアンナは惚けてしまう。誰に言ったのだろうと他人事に考えてしまうのも、やむなしな話である。
「あの......貴女に話し掛けているだが」
ニッコリと優しげな笑みを浮かべて一歩アンナに近付く。
ハッとしたアンナ。
「あら、ごめんなさい。何かしら?」
「ダニエルとお呼び下さい。美しいお嬢さん、どうか私に貴女と踊る栄誉を頂けないだろうか」
更に一歩詰め手を掬い上げ、手の甲に口付けた。上目遣いに見上げれば瞬間ボンッと音が聞こえそうな程、真っ赤になって涙目になったアンナと視線が絡む。
ダニエルは恋に落ちた。
「アンナ様! 大丈夫?」
エリシャはダニエルの手を払い除けアンナを自分に向かせる。ミリーがすかさずダニエルに背を向ける形でアンナを守る様に動いた。
鉄壁のガードである。ダニエルは先程見た余りにも可愛いらしいアンナの衝撃から回復出来ず立ちすくんだままだ。
柄にもなくバクバクと心臓は早鐘を打ち段々と顔も赤らんでいく。先程、見た可愛さの権現とも言える様相が何度もフラッシュバックする。
思わず片手で顔を覆った。アンナ様と呼ばれていたなぁと頭の片隅では冷静な自分も居る。歳は幾つだろうか。早く申し込まないと誰かに取られてしまう。
思考がそこまで行き着くとスッと頭が冷えた。婚約を申し込まねばならない。
年が離れていたら断られるだろうか。
チラリとアンナの方に視線を向けると目が合う。嬉しくて思わず自然と笑い掛けてしまった。
大きな目を見開いた後、恥ずかしそうに視線を外される。しかし、ご令嬢方にガードされていて簡単には近付けそうもない。
「アンナ嬢......と呼ばれていましたね」
ピクリと反応して頷いてみせるアンナ。折角、元の色白の肌に戻っていたのにジワジワと赤くなっていく。
この時、アンナはパニック状態にあった。何せ、まともに年の近い異性と会話した事等無いのである。因みに殆ど記憶の無い前世でも異性とのやり取り等、実は片手で数えられる位しか無いのである。
異性に対する免疫が可哀想に成る程、無いに等しいアンナ。
ご令嬢方にガードされているアンナはひしっと2人の手を思わず握り隠れてしまった。
エリシャとミリーは雷に打たれた様な衝撃を受ける。可愛過ぎた。
人形かと思う程に可愛らしい年下からの全幅の信頼を寄せられたと思って良いだろう。涙目でプルプルしながら、お姉様.....と呟かれたのだ。張り切るなと言う方に無理がある。
サーッとアンナを連れて公爵家当主の元へと連れて行ってしまった。
「おや? お嬢様方?」
「アンナ様が危険ですわ」
「えぇ、危ないです」
どういう事? と首を傾げる当主に可愛さが爆発していると必死に訴える。このままでは、何処ぞの馬の骨にかっ攫われてしまうと力説した。
未だプルプル震えて顔を赤らめた愛娘に目をやれば、あぁ確かに可愛過ぎると納得する。
「今日はもう帰ろうか? お姫様」
ハッとして父を見る。
「あの、でも......まだ踊ってないわ」
そう華麗に踊ってみせる為にかなり練習したのだ。記憶の中に居たアンナは自分を美麗に優雅に見せる技術が卓越していたのである。
無様な姿等、アンナにさせる訳にはいかないと寝る間も惜しんで自主練習してきたのだ。満を持して披露するというこの晴れの舞台を逃してしまうと焦る。
「ふむ、じゃあ私と踊って頂けますか?」
「喜んで」
パーッと顔を輝かせて差し出された手に重ねる。
容姿が、とても整っている親子のダンスは注目を浴びた。しかも大事に囲われていた娘が出てきたとあってザワザワと煩い。楽しそうに父に笑い掛ける美少女は、動きも洗練されていてフワリフワリと裾が広がるドレスと相まって妖精の様だ。
エリシャとミリーは素敵だわと2人ではしゃぐ。
ダニエルは目を奪われて、また動けなくなっていた。
曲が終わり2人の手が離れた瞬間、数名の男性がアンナと踊ろうと近付く。父はそれを許さずアンナの腰を抱き寄せるとササーッとご令嬢方の所へと戻った。
「お姫様? 素敵な踊りでしたよ」
「ありがとう」
フフンと胸を反らして得意満面である。
「エリシャ嬢、ミリー嬢、良ければ我が家へ招待しよう。娘と3人でお茶会したらどうかな?」
「是非!」
「楽しみですわ」
それを聞いてアンナは、花が咲いた様に笑う。しかし、直ぐにフフンと胸を反らして口を開いた。
「お姉様なのだから来るのは当たり前よ」
「そうね、私達は姉妹なのだものね」
「こんなに可愛い妹が出来る何て嬉しい限りだわ」
すました顔を頑張って維持しようと思っているのに、嬉しくてニヤけてしまう。
そんな様子をあら可愛いわぁと見守るご令嬢方であった。




