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アンナの理想(全年齢向け  作者: もちごめ


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6(age9-10

「サニー先生?」


「あ、申し訳ありません。どうされました?」


上の空でボーっとしていたサニーは慌てて小さなお嬢様に目線を合わせる。


「ここが分からないの」


既に同年齢の子達が習う所は過ぎていた。つい先日始まった授業だというのに凄まじい進捗具合である。

アンナは思ったのだ。本の中のアンナはそれは美麗で完璧な女性だった。性格以外は。

あのアンナに頭が悪いなんてことあって良いものか! と。無様な所等、周りに見せて良い筈がない。

本の中に居た美麗で華麗なアンナを思い浮かべては自分を叱咤する。ここで諦めるのか、アンナをその程度の存在にして良いのかと。


サニーもポーションを買っては、せっせと女性の元へと足繁く通い遠慮されては貴女のお陰で公爵家の家庭教師になれたのだから、そのお礼だと説き伏せて問答無用に飲ませていた。


数ヶ月経つとまた歩ける様になり泣きながらお礼を言われ、サニーはまた色々教えて欲しいとお願いする。ジェニファーから教えを受ける事は、とても楽しいのだ。


そうしてあっという間に学び始めて1年が経つ頃には、アンナの飲み込みが早すぎてサニーに教えられる事が少なくなってきた。この事をジェニファーに相談すると女性は悪戯を思い付いた様な笑顔を浮かべる。


「伝承を調べてみたらどうかしら」


「伝承ですか?」


「そう、ほら! 聖女様の事とか。あれは実際に目の前で見た人達の証言も沢山あったから本当に起きた事だと思うのよね」


成る程と頷くサニー。しかし、軽い気持ちで始めた、これがちょっとした騒動に繋がる。


資料を元貴族のジェニファーと共に集めて整理していく。様々な情報を集めていく過程で聖女が町医者の娘だと分かった。100数年前に実際に存在していた人物なのだと確証を得る。


「凄いわね」


「はい、お嬢様も喜ぶ筈です。ありがとう御座います」


「お礼を言うのは私の方よ。久しぶりに凄く楽しかったわ」


2人でニコニコと、また集めてきた成果に目を通す。こうして数年かけて少しずつ情報を精査していく事にした。

中には余りにも事実とは信じ難い事も混ざっており教会が大袈裟に触れ回った事もあると思われる。


この伝承を伝える前に色々な場所で語り継がれている話や伝説を軽く纏めた物を用意する。聖女伝承を伝えるまでの繋ぎにするのだ。

余りお嬢様には必要無さそうなサバイバル術等も教える事にする。



ジェニファーは恩師に手紙を書いた。


先生、お元気ですか?

内緒にしていましたが実はベッドから起き上がる事が出来ない程、衰弱していたのです。

ですが、前に手紙に書いていたサニーという私の教え子が助けてくれました。

彼女は何とも驚いた事に公爵家の家庭教師として働いていてポーションを買って来てくれるのです!

サニーのおかげで、また歩ける様になりました。

きっと先生は私が動けなくなっていると知ったら助けに来てくれたと分かっています。

だからこそ、本当の事は書けずにいました。

灰色だった私の日常に彩りをくれたのは先生だけです。これ以上、貴方に迷惑や負担を掛ける事が怖くて、もしも、そのせいで貴方にすら見捨てられたらと思うと苦しくて仕方なかった。

元気になった今、とても貴方に会いたいです。愛しています。





手紙を受け取り彼女からだと分かると自室へと直行した。


読み終えると歓喜に胸が震える。


「彼女が、ジェニファーが僕を好き?」


両思いだったのかと後から後から嬉しさの波が押し寄せて鼻歌を歌い。

会いに行きたいと思っても行動出来ずにいた自分に不甲斐なく思い項垂れた。

また、愛していますと書かれた文字に手を這わせて喜びに震えて。

彼は1人部屋の中で忙しくしていた。


「やっと日の目を見るな」


実は会いに行こうと思って魔導列車のチケットだけは買ってある。何度も行くぞと気合いを入れては、いや迷惑かもしれないと諦めたチケットを手に持ち必要最低限の荷持を抱えて家から飛び出した。

丁度、学び舎は昨日から長期休暇で神様から御膳立てをされている様な気になる。


「ジェニファー、待っていてくれ」


逸る気持ちを抑えつけつつ列車に飛び乗った。







「確かここの近くだったはず......」


せんせぇと呼び掛ける子供達の声が聞こえて、そちらを見れば。


「ジェニファー」


優しい顔で笑い掛け庭先で子供達に囲まれる彼女を見つけた。体は勝手に走り出していて。


「ジェニファー!」


「え?......どうして」


ガバリと抱きしめて腕の中に閉じ込める。


「僕も君を愛している。本当は何度も会いに来ようと思っていたが、僕には勇気が足りなくて......会いたかった。本当に会いたかった」


サッと離れて跪き指輪を取り出す。


「少しの間、離れてしまっていたがジェニファーと離れている間も1日だって思い出さない日は無かった。どうか僕と、これから先ずっと一緒に生きてくれないか?」


「はい......ずっと一緒に居ます」


「ありがとう」


指輪を嵌めて嬉し涙を流す2人。固唾をのんで見守っていた子供達から歓声が上る。


「先生! おめでとう!」


「良かったね!」


ワーワーと騒がしい中で見つめ合う。


教会に向かい2人だけの結婚式をした。誰にも見せる必要は無いのである。2人には一緒に居る事が出来る、その事実が大事なのだから。

名実共に夫婦になる事が出来た事を噛み締めて手を繋いで、ゆっくりと歩いて家へと戻る。


「ジェニファー? 僕は今の学び舎から去ろうと思う」


「どうしてですか!」


「君が追い詰められている状況を何度か上に掛け合っていたんだ。君を失いたくなくて僕も、あの時は必死だったからね」


「有難うございます」


じっと視線を合わせてから、また口を開く。


「でもね、全く意味が無かった。君は居なくなってしまって上の連中は、あからさまにホッとしていて腹が立ったんだよ。実は前々から辞めようとは思っていてね。ちょうど良いタイミングだ」


「良いのですか? 教師は生き甲斐だったのでは?」


「君の側に居る方がよっぽど大事だよ」


お互いに照れてしまって暫し無言になる。ジェニファーは天にも昇る気持ちで落ち着かない。


「ジェニファー、君の家に転がり込ませて貰えないかな?」


変な所で考えなしな為に普通は言えない様な事もポロッと言えてしまう困った人なのである。


「あっ、はい、えぇどうぞ居らして下さい」


「あぁ良かった。有難う」


住む場所も何も探す事無く決めたせいだ。新しい職場だって決めていない。

しかし、希望で胸が一杯である。これから先は愛してやまないジェニファーと生きていけるのだから。


今日は荷持も殆んど持って来れていない。幸いにも彼女の家は余っている部屋がいくつかあり住むにも問題は無さそうであった。


「ジェニファー僕はこれから家に戻ろうと思う。荷持を纏めないといけないし学び舎にも辞める事を伝えてくるよ」


「分かりました」


かくして愛し合う2人の生活が始まったのである。

そして愛に生きる男サムが聖女伝承を調べる作業にノリノリで参加した事により、どんどんと事実が明らかになっていった。作業効率も上がって3人で楽しく調べ上げていく。

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