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アンナはダンカンからの教えを受けメキメキと成長していた。
教えを受け始めて1年が経ち。正直、そこら辺の大人であれば余裕で勝てる位には強くなっている。末恐ろしい6才児だ。
「見て、練習したのよ」
キラキラ光るポニーに跨り庭を駆け回る。
「ほほう! 素晴らしい!」
魔力を練り上げないと人を乗せるには脆い造りになるというのに、とんだ才能だ。
「これはご褒美が必要ですな」
ニコニコと機嫌良くポケットから取り出したのは可愛らしいポシェットだ。白くフワフワとした物でピンクのリボンが付いている。
「可愛いわ! ありがとう!」
ポニーを消してダンカンに駆け寄る。
ギュッとポシェットを抱き締めて喜ぶ姿にダンカンも孫を思うじぃじの様な気持ちになった。
「お嬢様?」
「なぁに?」
「このポシェットには私の魔法が組み込まれておりますぞ!」
ニヤリと笑ってみせるとポシェットには入り切らないだろう短剣を渡される。
「ポシェットに仕舞ってみて下され」
言われた通りにポシェットに入れる。スポッと全部入ってしまった。
「え! 先生! これ! え! え!」
大興奮である。
「これは大人が背負う大きなリュックと同じ位の容量になっております。物を出す時は仕舞った物をイメージすると出て来ますじゃ」
アンナは、やはり目をキラキラさせて短剣をイメージする。スポッと短剣が出てきた。
「凄いわ! これ! とっても凄い!」
キャーッとダンカンに抱き着くアンナ。よもや可愛い生徒から抱擁されるとは思ってもみなかったダンカンは心底驚きつつも、抱き上げ高い高いをしてしまった。
嬉しくて仕方ないらしく、喜色満面といった様子で笑い声を上げる。
ストンと降ろされた後も興奮冷めやらぬアンナはポシェットを掲げてはハァと幸せそうな溜め息を零した。
ダンカンとアンナの可愛らしい触れ合いを当主夫妻は窓から見つめる。
「私の宝石ちゃんは罪作りな女になるわね。きっと、大きくなったら色んな男を手玉に取る様になってしまうわ」
「な! アンナはそんな風にはならないさ。いつまでも無邪気にニコニコと笑顔を振り撒く可愛いお嬢様のままだよ」
残念な物を見る眼差しを妻から向けられ何だかいたたまれない気持ちになる。
「アンナに悪い虫がつかないようにしないとな」
視線から逃れる様に言葉を紡いでフイッと顔を反らした。
そして本格的にどうしたら男と関わらせる事なく成長させる事が出来るかと頭を悩ませる。
「やはり女学校か......」
「まぁ! アンナを小さな世界に閉じ込めてしまうつもりなの?」
「そ、そんな事は.....思って......なくなはないか」
ハァと大きな溜め息を零して無邪気に先生にじゃれ付くアンナを見つめる。愛娘が少しでも傷付く事はあってはならない。
心を痛める事もあってはならないのだ。
男と関わる事になってみろ、確実に気持ちを揺らし何かがある事請け合いである。周りの貴族連中の話を聞く限り妻一筋の奴は中々居ない。
第二夫人を取る事も少なく無いのだ。
貴族の中にも良く探せば一途な男も居るだろう。希少価値はべらぼうに高いだろうが。
言ってはなんだが私はその希少価値高い男だ。妻を愛している。
そうか、俺の様な男を探せば良いだけか。
有能で、それでいて実は奥手の真面目な男か。居るだろうか。
ふむと無言で悩み始めた夫の様子をなんとはなしに眺める。思えば自分は運が良かったのだなぁと考えた。たまたま出た久しぶりの夜会で目の前の男に一目惚れされ、積極的なアプローチを受けて結婚にまで至ったのである。
穏やかな幸福の中に居れたのは目の前の夫のおかげだと断言出来る位には自分も夫を愛しているのだ。
可愛い可愛い宝石ちゃんにも恵まれて何とも幸せな毎日である。
魔法の教えを受ける様になって更に数年経った、ある日の事。
「ダンカン先生、少し見て欲しいの」
「何ですかな?」
フフンと胸を反らしてから杖を使わずに光る小さなウサギを出した。
「ほっほう! もう杖がいらなくなりましたか!」
素晴らしいですぞ! と何度も褒められてアンナは嬉しくて仕方ない。
「お嬢様! こんな物は出来ますかな?」
手の平の上に透明な何かが出来上がっていく。色は無い、その何かがあるだろう場所だけがユラユラと景色が歪んでいるのだ。
「見ていて下され!」
フワリと風が巻き起こったと思ったら雨が降り始めた。手の平の上にだけである。
「私の魔力量ではこれが限界ですじゃ」
少しだけしょんぼりとした先生の姿にアンナは胸がギュッとして自分も悲しくなってしまった。
「お嬢様ならば、もっと凄い事が出来ると思うのです。やってみせて下さらんかのう」
「えぇ、任せて! どうやったら良いのかしら」
パッと顔を上げてダンカン先生が喜ぶならやってみせようと意気込むアンナ。
「それは細かい水の玉が沢山集まる事をイメージしてから雨が降り出す様を考えるのです」
「分かったわ!」
アンナは両手を上げて沢山の小さな水玉が集まってくる様を、とても多い量でイメージしてしまった。
「これは......」
そのまま雨が降り出すイメージをして、空に放った。瞬間的にゴォッと強い風が吹き荒れ雨粒が顔に叩き付けられ痛い程である。
アンナは驚きでポカンとしてしまう。
ダンカンは楽しくて仕方ない様子で笑っていた。
「素晴らしい! 素晴らしいですぞ!」
両手を広げて吹き荒れる天候の中でクルクル回っている。
「先生! 早く止める方法を教えて!」
「おっと! 私とした事が、晴れ渡る空をイメージして魔力を空に放って下され」
言われた通りに直ぐに実行した。先程までの嵐が嘘みたいにカラリと青空が晴れ渡る。
「ドレスがビチョビチョだわ! 全くもう! なんてこと! 髪だって綺麗にして貰っていたのに!」
ムキーッと手をぶんぶん振って怒り出すアンナ。それとは正反対にダンカンはニコニコと終始嬉しそうである。
「いやはや天才と呼べる方と関わりを持てる、この幸運に感謝しかないわい。何とも素晴らしい方ですじゃ」
褒め言葉に弱いアンナ。一瞬でご機嫌である。
「もう! 私が偉いというのは良く分かっているわ」
ポシェットを弄りながらフフンと胸を反らして得意満面だ。
「お嬢様......このダンカン誠心誠意、全力を注がせて頂きたい」
「良いわよ」
やはりフフンと胸を反らして返事を返すアンナ。
次の日からは、ありとあらゆる魔法を詰め込まれていく。ダンカンが解ってはいるが魔力量の関係で出来なかった物まで、それはもう幅広く何なら1人で小国なら潰せる位には成長した。
齢9才の化け物が誕生した瞬間である。
ダンカンは全く後悔していなかった。むしろ更に未知の魔法を寝る間を惜しんで研究し、その結果をまたアンナに教え込む始末である。
魔法馬鹿を極めているだけあるというもの。楽しくて仕方ないのだ。研究の結果もアンナに実際にやって貰う事で自分は正しかったと分かるし何より、スポンジの様に、どんどん吸収して強くなっていく生徒が可愛いのだ。
アンナはアンナでダンカン先生に褒められる事でモチベーションが下がる事無く魔法の勉強が出来、何とも最高の環境だと心の底から喜んでいた。
反対に両親は少しだけ怖くなっていた。こんなに強くなって大丈夫なの? 私達も戦争に駆り出される事もあるから多少はありえるだろうが限度があるというもの。次元が違うのだ。反逆とか疑われないかな? この子と結婚する相手にも出来るだけ実力ある者にしないといけないけども、痴話喧嘩何かしたら一瞬でお亡くなりする事になりそうだなとか。
「あの、貴方? そろそろ魔法は学ばなくて良いんじゃないかしら?」
「それがアンナが止めたくないと泣くんだよ」
「まぁ......それは続けて貰うしか無いわね」
何だかんだ娘に甘い両親、嫌がる様な事は出来ないのだ。




