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「先生? 欲しい物は本当にない? 魔石とかでも良いと思うわ」
「魔石! ならコモドレッドの魔石が欲しいのぉ」
コモドレッドは十数頭の群れで生活しており成長するとドラゴンになると言われている魔物だ。
足が早く大きくなると優に5メートルは超えるし口から火を吐くのである。群れが一丸となって敵を排除しに掛かる為、討伐も難しい。
手練れの冒険者が徒党を組んでも成功するかどうかというレベルである。
故にコモドレッドの魔石の希少価値はべらぼうに高いのだ。
「嬉しいのぉ、こんなに嬉しいのは生き返って以来じゃの」
ホクホクと嬉しそうに表情が崩れるダンカン。
ダニエルに視線を移すと、ニヤリと少し悪い笑みを浮かべた。
「私は土地が欲しい」
「土地?」
「そこに屋敷を造り魔力が高く行き場のない者を集めて働いて貰う」
じっとアンナを見つめるダニエル。
「私の可愛い天使。アンナ嬢が大変な思いをするのを、ただ見ているだけなのは正直辛い」
「ぇ、ぁ......ぅ」
もうアンナは真っ赤である。
アンナの働き過ぎ問題をどうにかしたいという思惑がある。要は一緒に過ごす時間を確保する為なのだ。アンナの体調を慮る気持ちもあるがダニエルはいつだってアンナに飢えている。欲に忠実なのだ。
「人選は私に任せて貰いたい。人を見る目は良い方だと思う」
何とか回復したアンナは髪をバサリと払った。
「お願いしますね......私は土地に建てる建物にしようかしら」
フフンと得意気に笑う。
「土地と建物は直ぐに準備しよう。土魔法が得意な者を集めて早急に作らせれば良いな」
「ちょうど余らせていた土地があって良かったです。問題は魔石の方かと」
第1王子と王の2人で褒美について議論する。
「うむ。コモドレッドの魔石、これはなんとも、いや公爵家からの信頼を得る為にも必ず用意しなければ」
直ぐに臣下達を集め話した。
「良いな、何としてでも魔石を集めてくるのだ。この際、高い報奨金を餌に冒険者達に頼む事も考えよう。もう一度言う、何としてもコモドレッドの魔石を集めるのだ」
ドンッと机を叩いてグルリと視線をまわす。
これは一大事のようだと臣下達が理解して足早に部屋を出て行く。
早急に魔石を集めなければと意気込み、直ぐに依頼書を作りギルドへと出す者。
慌てて屋敷へと帰り手練れの騎士達を編成して送り出す者。
平民の中にも手練れの者が居るだろうと新聞社に記事の掲載を頼む者。
こうして大々的にコモドレッドの魔石探しが行われる事になったのである。
もはや国を上げての行いだ。ダンカンが新聞に目を通して驚いたのは言うまでもない。
「それで? やるのかやらないのか」
「誰がお貴族様の為に働くかってんだよ。他を当たれ」
「ふむ、そうだな」
クルリと踵を返して、その場を離れるダニエル。何も嫌がる相手に拘る必要は無いのだ。それに喜んで仕事に飛び付いて感謝しながら働いてくれるような者の方が都合も良い。
正直に言えば態度の悪い奴を条件の良い、この仕事につかせるなんて嫌なのだ。
それにどうしたって、情報を抜き出そうとする者達は湧いてくる。こういった者達に簡単に情報を売ってしまいそうな輩は端から選ぶつもりは無い。
それからも危険を顧みずに所謂スラム街を周り金に困っていて魔力が高い者を探し続ける。
「は、働かせて貰えるんですかい? 俺が?」
「あぁ、魔力が高いと噂になっていた」
「そりゃぁ魔力はあるが、俺は孤児上がりで字も読めねぇ。魔法も使えねぇのに」
話していて情けなくなってきたのか俯く男。ガリガリに痩せており生活に困っているのは一目瞭然だ。
「別に読めなくて良い。魔力を込める作業をしてもらいたいだけだからな」
ガバリと座り込み頭を下げた。
「ありがてぇ、ありがてぇ。俺、沢山頑張るから」
泣きながら馬車に一緒に乗り込む。
「そうだ、名前を聞いて無かったな」
「トゥーリだ」
「ふむ、トゥーリ宜しく」
洗われる事の無い汚い手なのに躊躇する事もなく握手を貴族に求められ面喰らう。
「お、俺の手はきたねーから」
「なんだ? そんな事が気になるのか」
ダニエルは貴族の中では魔力が少ない方だが生活魔法位は難無く使える。
杖を取り出しトゥーリに向けてクリーンの魔法を使った。
「トゥーリ、お前生活魔法を知らないのか?」
「へぇ、俺に魔法を教えてくれる物好きなんかいませんよ」
何処までも卑屈なトゥーリに少し眉間に皺が寄る。
「魔力が高いのに誰も気に掛けなかったと?」
「お貴族様には分かんねーかもしれねーけど、孤児は簡単に死ぬ。俺みたいに何とか大人になっても直ぐに死ぬ。見目が良い奴は拾われてくが碌な扱いを受けない。おれは顔も良くねーから......」
聞けば路上で物乞いをしたり捨てられた瓶を集めたりして生計を立ててきたらしい。
「まぁこれからの生活は天と地程の差があるぞ。良かったな。安心していろ」
座席がフカフカの初めての馬車の中でトゥーリは夢かもしれないと不安を抱えながら揺られていた。




