27お揃いの
「本当にアンナ嬢に何もなくて良かった」
「もうダニエル様ったら、ずっと同じ事を話しているわ」
「話を聞かされただけで生きた心地がしなかったのだから当たり前だと思うが」
恨めしげに見つめられ思わず笑ってしまう。
「私は何ともありませんわ。ダンカン先生の方が危ない目に遭いましたもの」
本当に元気になってくれて良かったわと零すアンナ。
ダニエルも話を聞いただけで見ていないから詳細は知らず想像するしかない。しかし愛する婚約者に危険が及んだとあって胸が押し潰される様な気持ちになるのだ。無事に戻ってきてくれたし今は安全だというのに。
「アンナ嬢、1つ提案があるのだが」
「なにかしら」
ハラリと髪を流すアンナ。
「その......対になるアクセサリーを購入して互いに何処に居るか分かる様にするというのは、どうだろうか」
慌てたように両手を掲げるダニエル。
「いや、ほら、危ない目に合う事はこれから先も......何があるか分からない事だと、お...思って」
「えぇ構いませんわ。作りましょうか」
アンナは内心喜んだ。またダンカンと新しい魔法の実験が出来ると楽しみにしている節がある。この時は軽く考えていたのだ。
「良かった」
目の前で温かな湯気を立たせる紅茶を飲み、ホッと安心して一息つくダニエル。
ダニエルは離れている間アンナが何処に居るのか知りたかったのである。危険な目に遭い心配になったという思いもあるが、会える回数が減った事により少しでもアンナという存在を身近に感じたかったというのが本音なのだ。
「ねぇダニエル様?」
「うん?」
「早速お揃いのアクセサリーを選びに参りませんこと?」
「そうだね。見に行こうか」
2人は立ち上がり自然に恋人繋ぎをして歩き出す。下町のカップルがしているのを見て真似する様になったのだ。
何せダニエルの押せ押せ状態は継続中である。
露店が集中している通りに向かう方へとアンナに連れられていく。
「こういった店で買うつもりなのかな?」
「以外と可愛い物が多いのですわ! 掘り出し物を探すのも楽しいのよ」
フフンと得意気なアンナ。
「なるほど」
ダニエルもアンナの様に積極的に見ていく。
貴族男性特有の凝り固まった考えに囚われないのがダニエルの良い所である。
「これ可愛いわ!」
「お! お嬢さん! お目が高いねぇ。何を隠そう、このブレスレットはあの番いになったら離れる事がないホワイトクロウから取れた魔石から作られた物さね」
真っ白でツルリとした表面だが良くみると虹色に光る。まるでオパールだ。
「ホワイトクロウ?」
「ホワイトクロウというのは魔物の1種でね。番い、夫婦になったら一生相手を変えずに片方が亡くなった後も亡き骸から離れようとしない位に想いが強い事で有名だよ」
「お兄さん詳しいね」
「まぁこれでも魔物と戦ってるからな」
アンナはときめいた。ダニエル様は魔物にも造詣が深いのね博識で素敵。
「ダニエル様、私これが良いです」
「そうだね、私達にぴったりの物だ」
ニコニコと笑い合い露店にしては少々お高めの値段だったが気前良く購入する。勿論ダニエルの支払いであった。
「良い物を買えた」
「早く魔法を掛けて着けたいですわ」
「楽しみだ」
馬車に乗り込んでからも2人で早く着けたいねと話し込む程、ブレスレットへの思い入れが強まっていく。
「どうかしら、出来そう?」
「いやはや面白い事を考えますなぁ、婿様は」
「そうでしょう? 私の夫になるのですから当然だわ」
フフンと得意気なアンナ。
「しかしながら互いに何処に居るか分かる魔法......大まかな物でも良い物か。方角を教える程度でも」
うーむと唸って暫く考え込んでしまったダンカン。
アンナも一生懸命、頭を捻る。
「危ない目に遭ったから、思い付いた様だったの。だから、そうね...光が指し示す様にしたらどうかしら。それかパッと相手の状態を分かる様にするとか」
「そうですなぁ。あーどうしたら」
2人でうんうん唸る。
「こうしたらどうじゃろう」
徐ろに部屋を出るダンカン。少しするとブワリとアンナを何かが包んだ。
するとダンカンが見えたのである。扉の前で手を振っている様子が見えた。思わず手を振り返してしまうアンナ。
扉を開けて部屋に戻ってきたダンカンに興奮して話しかけるアンナ。
「凄いですわ! なんですの! さすがダンカン先生!」
「いやぁ照れますなぁ。しかし一方通行になってしまうのがのぉ。見たいーーーと強く念じるか、見せたいーーーと見れる様にするのが限界ですな。会話等は難しいですぞ」
「でも、危険な状態を見れるというのは凄いわ! これなら、同じ様な事になっても多少は安心出来るのではなくて?」
凄い、凄いと繰り返して喜ぶアンナにダンカンが魔力を流して教えた。
「こういう物ですじゃ。これをブレスレットに流し込んで下され」
「勿論よ!」
フフンと胸を反らした後、ブレスレットに多量の魔力を流し込む。普通の魔石であれば直ぐに終わるのだがホワイトクロウは大型の魔物なのだ。それだけ魔力の許容量も大きい。
魔力を暫く流し続けてアンナが飽き始めてやっと終わった。
「ダンカン先生? これ一度試したいわ。1つ持って先程の様に部屋から出て下さる?」
「お安い御用ですぞ!」
タッタカ小走りで部屋から出るダンカン。
アンナが見たいと念じた瞬間、鮮明に映し出された景色に驚く。ダンカンの今日着ていた服のボタンまでハッキリと見えるし扉の模様も確認出来た。何なら少し離れた窓の外の景色も見える。
ダンカンに掛けて貰った時は此処までハッキリ見えて居なかったのである。
流す魔力によって変わるのねと深く考えずにアンナは成功した事に喜んだ。
「ダンカン先生! 成功したわ!」
淑女にあるまじき声量に久しぶりのメアリーからの小言を食らったアンナ。
「わざわざお嬢様が声を張り上げる必要等ございません! 私達を使って呼びにいかせるべきです!」
「気をつけるわ」
満足気に頷いてまた壁際へと戻って行ったメアリー。
「お嬢様! どんな風にみえましたかな!」
「凄かったわ! ハッキリ見えたの! ダンカン先生が居る周りの景色もバッチリよ!」
「ほっほー! さすがは天才ですじゃ!」
キャッキャッと2人で喜びを分かち合い大いにはしゃいだ。
直ぐ様、ダリア侯爵家へとダニエル宛に贈られた。
「もう出来たのか、凄いなぁアンナ嬢は」
試しに魔力を流した瞬間。映し出された映像に慌てて消す。
「おい! 見えたか? 今の?」
慌てて近くの侍従に声を掛けた。
「今のとは?」
侍従からは只々ブレスレットを眺めている様にしか見えなかったのである。
「いや、気にしないでくれ。それと部屋から出ていてくれないか。少し1人になりたい」
「かしこまりました」
サッと出て行った事を確認してソファに腰掛けてまた魔力を流す。
アンナが全身マッサージを受けていたのだ。
「私も触りたい」
ポツリと溢れた言葉は切実なものだ。




