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アンナの理想(全年齢向け  作者: もちごめ


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ムッツーリは沸々と沸き立つ怒りの感情に支配されてしまっていた。


何処までも相手にされる事の無い事実とアンナの婚約者という立場に収まっているのが脳筋だと思われる魔力の低いダリア侯爵家の次男坊。

何故? 自分の方が魔力は高いし見た目も、それ程劣っているとは思えない。一度アンナに自分という人間を知って貰い実力を見せつける事が出来れば状況も好転するだろう。アンナは私に一目置いてくれるだろうし婚約者という立場でさえ取って代われるかもしれない。


「あぁ、筆頭公爵家という肩書きが手に入るなんて。それに加えて、あの美しさだ。やはり彼女こそが私に相応しい」


ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべ自室で公爵家に入ったら、どう暮らしていくかという妄想に耽る。

使っても使っても有り余るだろう金貨の山、幾つもある領地から入ってくる税収。


普段から私をぞんざいに扱って来た者達を結婚式に招待状を送ってやるのだ。そして驚くが良い。

王族ですら無下に出来ない存在になった私を敬う様になれば良いのだ。跪いて謝罪をするなら付き合いだって考えてやらん事も無い。私は寛大なのだから。


しかし、実際問題としてアンナと会話をする事すら難しい。話し掛けた所で無視されるか虫呼ばわりされるかの二択だ。

どうしたものか。

いっその事、誘拐して傷物にしてやれば良いのでは?

そうしてしまえば貰い手等いなくなるだろう。何食わぬ顔をして私が名乗りを上げるのだ。救世主の様に見られる事だろう。


「素晴らしい」


魔力封じの石を手に入れる必要があるな。どう考えても、あのアンナに魔法で敵うはずもない。

誘拐する為には相応の準備が必要だろう。


この日からアンナへのストーキングが始まった。しかし元来の影の薄さによるものか誰にも見咎められる事無くアンナの生態を記録していったムッツーリ。


いくら考えて作戦を練り直しても圧倒的な魔力や類稀なる魔法のセンスの前ではどうにもならないという事実に行き着いた。


どうしたら良いか頭を抱えていた、その時ムッツーリは思い付いてしまった。

平民の家庭教師なら問題無く生け捕れる。アンナの教師をしてるとはいえ所詮平民。

貴族である私の敵ではない。


「ダンカンといったか」


行ける。聞く処によれば老体らしい。

あばら小屋を用意して繋いで置くための鎖も準備した。


早速ストーキング対象をダンカンに替えて散歩のコースや買い物に出るタイミング等、1人になる瞬間を調べ上げた。


転移の為の魔法陣を書き上げダンカンが上に立った一瞬を狙って飛び掛る。ダンカンは咄嗟の事でもアンナに向けて救助要請の信号を発する事に成功する。この魔法に気付いたムッツーリは力任せに殴り付けた。

そのまま、あばら小屋へと転移する。


「平民風情が」


魔力封じの石を握らせ取れる事の無い様に紐で両手をグルグルに巻く。


鎖を付けた所でダンカンが全く動かない事に気付いた。


「くそ」


ダンカンは気絶していた。ムッツーリは息を引き取ったと勘違いをしてしまう。




紅茶を楽しんでいた所に突然の救助要請が届き驚く。これはダンカンと最近編み出したばかりの魔法。


「ダンカン先生!」


慌てて立ち上がり探索魔法を展開する。ダンカンは魔力封じの石を握らされてる為に痕跡すら見つけられない状態だ。


「なんてこと......」


「お嬢様? どうかされましたか?」


とりあえず探索魔法を展開させたままに頭を巡らせる。どうする。魔力の残滓ですら見つけられないのに。


そんな時、1通の手紙が届いた。



美しいアンナ嬢


やぁ、ご機嫌如何かな?

君の敬愛する平民は私が貰い受けた

そうそう私と婚約し直すなら

無事に返す事もやぶさかでは無いよ

どうする?

孤児を遣わしたからソイツの後を

ついてきたまえ

くれぐれも1人で来るように



「お嬢様、大丈夫ですか? 何かありましたか? 様子がおかしいです」


今更ながらに取り繕い平静を装い紅茶に口を付ける。


立ち上がって突然、魔法を展開させていたのに座り直したアンナの様子に訝しむメアリー。


「大丈夫よ、私の勘違いだったみたい。気にしないでちょうだい」


本人が言うならとメアリーも渋々ながら大人しく引き下がった。




アンナは1人になった瞬間を見計らって窓からヒラリと飛び降りる。勿論、身体強化の魔法のお陰で傷一つない。


大人しく孤児にしては身綺麗な子の後をついて行く。


いつもなら誰かに相談しただろうがダンカンの信号を受け取った時点で冷静ではいられなくなっていたのである。

早く助けなければという気持ちで頭が一杯なのだ。





アンナが居なくなって直ぐにメアリーが手紙の存在に気付いて当主夫妻の元へと急ぐ。


「お嬢様が!」


ノックもそこそこに扉を開け放つメアリーの様子に驚くも話を聞く。


2人は一瞬の内に広大な探索魔法を展開させた。


「見つけたわ!」


シャーリーが転移魔法陣を組始める。ロジャーも連れて行く気で手を伸ばすが首を振られた。


「騎士団を連れて行くから私の事は気にしないでくれ」


「分かったわ」


シャーリーは可愛い娘に何かあっては大変だと気持ちばかりが焦る。あの子に、私の可愛い宝石ちゃんに傷一つつけてはいけない。




アンナは孤児に連れられてムッツーリと対峙したのだが存在を無視して、あばら小屋の中へ駆け込む。


「ダンカン先生!」


呼びかけに応える事も無くグッタリとした様子に背中が粟立つ。


「先生?」


一歩ずつよろめきながらも近付いて膝をついた。


「ダンカン先生? アンナよ? 助けに来たのよ?」


固く縛られていた紐を切り手を握る。


「先生?」


目を覚さないダンカンに信じたくはない事実を突きつけられる。アンナも勘違いしてしまった。


「駄目よ! 起きなさい! まだ私に教えたい事があるのでしょう! 何寝てるの!」


肩をガクガクと揺さぶり起こそうと試みる。




小屋の外ではロジャーに率いられた騎士団にムッツーリが羽交い締めにされていた。シャーリーはあばら小屋の中に入ろうとノブに手を掛けた所だ。


「先生は駄目だと言っていたけど知った事では無いわ」


突然、眩いばかりの光が小屋の中から溢れ出た。目を開けて居られない程のそれはアンナから発せられている。


「アンナ!」


シャーリーは驚きつつ娘に何かあったのではと心配になり中へと駆け込むも目を開ける事も叶わずにいた。





「どうしたのですかな?」


優しい声が聞こえて顔を上げればニコニコと微笑むダンカンと目が合う。


「先生」


「はいですじゃ」


ギュッと抱きついて安心して気が緩んだのか泣き出してしまったアンナ。


「もう...お話もっ......出来ないと思って」


ポンポンと優しい手つきで背中を叩かれ更に涙腺が緩む。


「いやはや生き返った気持ちですじゃい。さすがですなぁ」


まるで他人事の話し方に思わずアンナはダンカンの頭をペチリと叩く。


「私が、どんな思いで蘇りの魔法を掛けたと思っているの!」


「これは申し訳ないのぉ。しかしながら実感も無くて、すこぶる快調で」


さすがは天才といった所ですなぁと笑うダンカン。




ムッツーリは死罪が決まった。公爵家の次期当主に手を出した末路である。

連座にならなかったのはダンカンが生きておりアンナの意識が復讐に向かわなかったからに他ならない。

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