24初の授業
「アンナ嬢どの様な魔法を教えるつもりだい?」
小鼻をひくつかせるギリー。
「とりあえずは攻撃魔法をメインにやっていこうかと思っていますわ」
「派手なやつかな?」
「どうでしょうか、実践的な......炎の剣や地割れを起こすものにしようかと」
「地割れ! 素晴らしい。見せて貰いたい」
ズイッとギリーが近寄る、スッと距離を置くアンナ。
「構いませんわ」
地面に手をかざすとゴゴゴッと凄い音と揺れを生じさせて大きな亀裂が走る。
「す...凄い...なんと素晴らしい」
目をランランと輝かせてアンナににじり寄る。またスッと距離を置くアンナ。
「あぁ直さないといけませんね」
また手をかざすと何事も無かった様にあっという間に元に戻った。まさか幻でも見ていたかと思ってしまう程に違和感無い出来である。
ギリーは完璧な魔法に舞い上がった。
「教師である私も出来なければ示しがつかないと思うのだが、どうだろうか。先に教えて貰えないか?」
こうしてギリーの押しに負け初の授業をする前に予行練習が図らずも出来たのである。
ギリーという本当の教師目線の質問や分かりにくいという指摘を受けてアンナなりに考えさせられる時間となった。
が、しかしアンナは思った。教えを乞う側が考えて理解する努力をするべきなのでは?
「今日はアンナ嬢が先生だ。皆よぉく話を聞いて見て学びなさい。正直に言えば私よりも遥かに魔法の扱いが上手いぞ」
ギリーからの忠告を受けてしっかりとアンナを見つめる生徒達。
「では、よろしくて? 初歩的なものから見せるわ。冒険者を目指している方達にはうってつけだと思うわよ?」
フフンと胸を反らして炎の剣を出す。
「さぁほら、やってみなさいな。どうして突っ立ってるだけなのかしら」
そう言われて慌てて挑戦し始める。
「え? やだ! どうして出来ないの? 私は1回で出来た事なのに」
出来ない生徒達の方を見て心底驚いた顔をするアンナ。
ソフィアの方に視線はずらせば、ちゃんと出来ている。実力に差があるらしいぞとアンナは気付いた。
「ギリー先生、宜しくて? 出来ない方達にコツを教えて差し上げて下さる?」
「私よりアンナ嬢の方が魔法の扱いは上手いだろう。どうして私が教えるのかな?」
「困った事に私、魔法に関しては失敗した事がございませんの。出来ないという状態を理解出来ないのですわ」
ギリーは驚いた。どれ程のポテンシャルを秘めている令嬢なのだ!
「そういう事なら、私が教えた方が良さそうだ」
「さぁ、では出来ない方達に足並みを揃える事は致しません。出来た方達は此方へ」
半数は成功させたらしく、それなりに集まってくる。
「先程は炎の剣でしたわね。簡単に出来た事でしょう。という事で同じ様な内容に致します」
さっと手を振り雷の剣を出す。バチバチと音を立てるそれは、とても格好良く特に男子生徒のハートをキャッチした。
ほぉと感嘆の溜め息を零す様子に得意気なアンナ。
「まぁ見惚れてしまうのは仕方の無い事ですわね。ですが、ものにしなければ授業の意味がありませんわ!」
一度で炎の剣を成功させた者達というだけあって出来ない者は居なかった。
「宜しくてよ!」
次はこれよ! と地面に手をかざして地割れを起こす。
突然にグラグラと揺れ出しだ地面に慌てる生徒達。
「慌てる必要はなくてよ! 私の魔法だもの」
フフンと胸を反らして得意気だ。
「これは逃げ切れないという時に使えますのよ。追手をこの割れ目に落とすのです」
ハラリと髪をなびかせて周りを見る。誰1人として出来ていない。いや、ソフィアだけは出来ていた、さすがである。
「さすがソフィア様ですわね」
「いえ、これはアンナ嬢の魔力の使い方という物を前もって分かっていたから出来たのですわ」
恥ずかしそうにソワソワとするソフィアの頭を撫でる。
「とても賢い良き生徒ですわ」
「アンナ様......」
さすがにソフィア以外出来ないのは不味いかもしれないと思い近くに居た女生徒の手を握り、こういう物よと魔力を流す。
「ありがとうございます」
コメツキバッタの様にペコペコとお辞儀をして魔法を使ってみた生徒。
大きくは無いが地面に亀裂が入る。
「で、出来た」
「えぇ、素晴らしいわね。ささ、他の皆様に魔力を流して差し上げて?」
アンナは面倒に思ったのだ。対して仲良くもない者の為に魔力を流して回る等する気にならないのである。
出来る奴に押し付けてしまえば良いじゃない。
こうして女生徒が頑張り魔力を流して回ったお陰で皆が小さな亀裂を地面にいれる事が出来た。
「はい、皆様できましたわね。結構ですわ」
ふっと手をかざし小さな無数の亀裂を一瞬で直してしまったアンナ。
たまらず1人の生徒が声を上げる。
「ローズ公爵家の御息女であるアンナ嬢にお聞きしたいのだが」
「宜しくてよ、話してみなさい」
「誰に師事されたのですか?」
「あら! ダンカン先生よ?」
私の先生は凄いのですと胸を張る。
「何処の家門か教えて貰いたい」
「平民よ?」
シンと静まり返る。
「本当に平民に教えを請いていると? 嘘では無くて?」
先程、声を上げた生徒が再度聞いてくる。
「えぇ、そうよ。魔力は少ないけど、とても凄い方なの」
フフンと胸を反らして得意気なアンナ。
筆頭公爵家の魔法の家庭教師が平民。知ってはいけない事を聞かされたのでは? と不安を抱える生徒達。
ここでムッツーリが噛み付いた。
「筆頭公爵家が笑わせてくれる。貴族が平民に教えを請う? 貴族としての矜持が無い様に思えますね。私が伴侶になり、その間違った思考を正しましょう」
ザァアッとムッツーリは空高く舞い上がる。
「虫けらの分際で私に意見を言う何て腹立たしいわね。その上、伴侶? 気色の悪い事、虫と人間は一緒になれないと知らないのかしら」
困った存在ねと小首を傾げる。
勢い良く落ちてくるムッツーリ、ギリーの魔法で地面にぶつかる事は無かった。
意識を失い顔色は真っ青である。
「あら、ギリー先生? 虫は殺しても良いと思うのだけど」
「まぁ、私は教師だからね。どんな生徒でも助けないと」
周囲をグルリと見渡したギリーはパンパンと手を叩く。
「アンナ嬢の魔法は素晴らしい。どんな位の人に師事していたかが重要じゃないと分かるだろう。ここまでの実力をアンナ嬢につけた方という事実は消えない。それが如何に凄い事か」
分かるねと再度、生徒達に視線をグルリと回す。生徒達はアンナに恐れ慄いている上に教師もアンナ側に付いていると分かって皆がコクコクと頷いてみせた。
今日集まった者達は貴族だ。明確な身分社会を肌で感じながら生きてきた者達である。筆頭公爵家の次期当主に意見を述べる事は自殺行為だと、まざまざと見せつけられコロンバイン家の行末に思考は偏る。
きっと潰されるに違いないと。
しかし、アンナは知らないのだ。虫けらが何処の家門なのかを。そして大した興味も無い。
結果的には無礼を働いた家門の者を許した、とても寛大だという評価されるアンナ。
図らずとも名声が上がったのである。




