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「ダンカン先生! 何なのですか! あの教師は!」
「教師?.......あー! ギリーに会ったのですな! いやぁ、あの子も魔法にのめり込むタイプの子でしてなぁ。悪い奴ではないのですぞ」
「......良い人そうなのは分かっていますわ」
アンナは釈然としない気持ちのままダンカンと癒しの魔法の実験を繰り返す。
「お嬢様、この死んだ小鼠を生き返らせれるかどうか試してみてはどうかの」
「え!......出来るかしら」
「こういうのですじゃ蘇りの魔法とします」
ダンカンはアンナの手を握り魔力を流す。
「先に試しますぞ」
まずはダンカンが試してみるも、やはり魔力が余り多くないからか何も起こらなかった。
アンナが真剣な面持ちで鼠に蘇りの魔法を掛ける。全力の魔力を注ぎ込もうと意気込んだ、その時。
ピクリと耳が動いたのだ。アンナは驚いて魔法を止めてしまった。
「見た?」
「見ましたぞ! 動きましたな」
ダンカンと手を握り合ってぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「出来たわね!」
「やはり合っておりましたな」
鼠は魔法が止まったというのに、ムクリと起き上がって側に用意されていた胡桃を食べ始めた。
「先生! 見て! 食べてるわ!」
「なんと! これは、また! 凄いですなぁ」
ほっほーう! と声を上げて下手なステップを踏むダンカンに笑ってしまうアンナ。
「なんですの? そのダンスは」
「喜びの舞ですじゃ」
生死にまで干渉出来てしまう、この魔法もはや2人は神の領域にまで手を伸ばしている事に気付いていない。魔法馬鹿である2人は、只々実験が成功したという事実に喜ぶばかり。
メアリーは早く当主様に報告せねばと身を翻し走った。分かっているのだ、この鼠を蘇らせたという魔法が戦争をも引き起こす大変な代物だと。
「先生?......これって人にも出来るのかしら」
「ムムッ! どうですかなぁ。人だと死にたてを手に入れるのも一苦労でしょうなぁ。まぁ出来ない事も無いでしょうが、人に使うのはお勧め出来ませんな」
「あら、どうしてかしら」
「人に使って下手に生き返ってしまったらお嬢様に人々が群がる事、請け合いですぞ! しかも死にたてでないと出来ないという事実には目もくれず、墓から掘り起こす者も出てくるかもしれませんぞ」
そして、生き返らせ無かった事を責め立てるのですと締め括り神妙な顔つきを見せる。
「精々ペットまでとした方が良いでしょうな」
「分かったわ。肝に銘じておきます」
アンナも神妙な顔つきで頷く。
息を切らして走ってきたロジャー。
「死んだ鼠を生き返らせたって聞いたが」
「えぇ、出来ましたわ!」
「見て下され!」
頬をツヤツヤとさせて2人共、誇らしげである。
ロジャーは胡桃を食べる鼠と2人を交互に見て少しすると口を開いた。
「本当に死んでいたのかな?」
「死にたての物を使ったのですじゃ」
「時間が経った物には使えないの」
2人は顔を見合わせてニコニコとしている。倫理感が欠如している様子に頭を抱えたくなったロジャー。しかし、これは大発見だ。
「どんな魔法か私に流して貰えないだろうか」
隠しておいた方が厄介な事になると分かる。この2人は、いずれ人にもやりそうだぞと危惧しているのだ。
「私の魔力量で生きている人に流して大丈夫かしら?」
「すこぶる元気になるやもしれませんな」
目をキラキラさせてアンナはロジャーの手を握る。
「これよ」
ザァーとまるで身体の中を洗われている様な感覚に驚く。凄いスピードで走る乗り物に乗った後の様な爽快感もある。
「はい、おしまいよ」
「凄い......疲れが吹っ飛んだ。アンナ、ダンカン先生、これを魔法省でも広めても良いかな?」
「構わないけど、人に使うのはどうかと思うの」
「それに死にたてにしか使えないから、その事に気を付けて貰いたいですじゃ」
案外、ちゃんと考えていたのかと驚くロジャー。人に使わない方が良いなんて、この2人から出てくるとは。
「あ! お父様、私癒しの魔法を広めてしまって良いか聞きたかったの。勿論、蘇りの魔法は隠しておきますわ」
「あぁ、ダニエル君に教えたいのだったね。魔法省の中で使える者達が随分増えて来てるから、もう大丈夫だ」
「学び舎で広めても大丈夫かしら?」
「最初はダニエル君と友人だけにして貰えないかな?」
「分かりましたわ」
先に陛下に癒しの魔法を披露する必要があるのだ。もう既に教会から横やりが入っても隠し通せない人数になっているから大丈夫だろうとは思うが、念の為である。
数日経った、ある日。
「今日は集まって貰って有難うございます。それでは、お見せしますわ」
おもむろに手を切りつけるアンナ。
「まぁ! なんてこと」
「痛いのでは? 大丈夫ですか? 傷を付けるのは私にすれば良いですから!」
ダニエルはワタワタと手を動かして動揺する。何せ愛するアンナの手に傷が出来たのだ。
「お静かに! 見てて下さい」
アンナが傷つけた手に魔法を掛けるとあっという間に治ってしまった。
「これが......正に奇跡の力ですわね」
「私達に見せてしまって良い物ですの?」
「お父様に許可を貰っているので問題ありませんわ」
フフンと胸を反らして得意気だ。
今日この日、ミリー、エリシャ、ソフィア、そしてダニエルが集められ癒しの魔法を教える事になっている。
「それでは皆さん手を出して貰えるかしら」
言われた通りに皆が手を出す。
「私が魔力を流します。その感覚を忘れない内に、ご自身に癒しの魔法を掛けて下さい」
各々が頷いたのを見てアンナが順番に魔力を流していく。
ダニエルは躊躇なく手を切りつけ癒しの魔法を掛け治して見せた。アンナが居るから良い所を見せたくて張り切っているのである。
女性陣の方は、やはりお嬢様達とあって中々手に傷をつけられずにいる。
「こ、怖くて出来ません」
「私もですわ」
「アンナ様! 自分で傷付けなくて良い様に出来ませんこと?」
ふむと考えこむアンナ。ダニエルを見つめて耳元で聞いてみる。
「ダニエル様、皆様の為に小さな犠牲を払って頂いても?」
「アンナ嬢の頼みでしたら、何なりと。構いませんよ」
爽やかに笑ってアンナの手を取りキスを落とす。
「もっもう! 有難うございます。皆様の為に手に傷を付けて下さい。小さな物で結構ですわよ」
顔を赤くしながらも講義を続ける。
ダニエルはお願いされた通りに手に小さな傷を付けてお嬢様達に差し出す。
皆が一様に成功するまで続けられた。
「わっ私にも奇跡の力が」
「これで私達、聖女ですわね」
「何だか夢を見ている様ですわ」
アンナは仁王立ちして皆を見つめる。
「実は、この癒しの魔法まだ陛下に報告されていません!」
「え! 宜しいのですか?」
「少ししたら魔法省からの報告としてお父様が陛下に披露しに行く事になっておりますの」
「あぁ、良かったです」
「えぇ、本当に」
「という事なので......今この5人だけの話にして欲しいのです」
「それは勿論、アンナ嬢が言う事に私は従うよ」
ダニエルはヒシっと手を握る。
「アンナ様、私達もしっかりと守りますわ」
「勿論ですわ」
アンナは何だか、とても嬉しくなった。本当に心が通じあった様な気持ちになったのである。




