20お友達との交遊(age13
13歳。後2年で成人の年齢となるアンナ。
友人と呼べる人は片手に収まる人数だが付き合いは深いもので定期的に集まってはお茶会をしていた。時にはドレスを脱ぎ捨てて市井に繰り出している。
可愛らしい少女達がはしゃぐ姿は目立っていた。何せ見目麗しいのは決まって貴族だと住人達は分かっているのである。下手に問題を起こすのも得策ではないし機嫌を損なわせるのも恐ろしい。
故に遠巻きに見つめるのだ。
何度も現れる少女達が貴族にしては珍しく平民の粗相を見逃してくれるタイプだと分かってからは住人の方から声を掛ける事も増えていった。
「お嬢さん方! 今日は、この串焼きが安くなってるよ」
「ありがとう。頂こうかしら」
アンナ愛用のポシェットから銅貨を差し出す。自分達だけでの買い物にも慣れたものである。
言葉遣いだけは崩せずにいるが。
ベンチに皆で腰掛け先程買った串焼きを頬張る。
「まぁ! なんて美味しいのかしら!」
「えぇ、本当に。屋敷に居る人達にも食べて欲しいわ」
「そうですわねぇ。私も持って帰りたいですけど、馬車に乗り切るかしら」
「そうよね。既に買った物も載っているものね」
「あら! アンナ様のポシェットをお借りすれば宜しいのではなくて?」
それが良いわ!と、ポンと手を叩いて喜ぶアンナ。実はポシェットの容量は馬車1台、丸っと入る位まで広げられているのだ。ダンカンと限界まで拡げる実験を繰り返した結果だ。串焼きを買い占めた所で痛くも痒くもないのである。
アンナは串焼き屋さんに駆け寄り声を掛ける。
「これ、とても美味しかったわ。だから沢山欲しいの。どれ位、準備出来るかしら?」
この話を聞いていた周囲も驚き、声を掛けられた店主自身も驚いた。自分達よりも遥かに美味しい物を食べている筈の貴族のお嬢さんが、沢山欲しいと話し掛けるとは。
「あ......た、沢山?」
「えぇ、屋敷の者にも食べさせたいの」
ニコリと綺麗な微笑みを浮かべているのは親しみの持てる少女であるが、やはり貴族特有のそれで。1人店主の親父は大慌てだ。
とりあえず準備してきた分に視線を走らせ口を開く。
「い、今渡せる分は20本。ある程度、時間を頂けば後50本です」
冷や汗かきつつ答えれば、あからさまに肩を落とす目の前のお貴族様。
「そう......70本なのね。少し待っていて下さる?」
とぼとぼと皆の元に戻る。
「皆様? 悲しいお知らせよ。70本しか準備出来ないのだって」
「まぁ......とても足りないわ」
「なんてことなの」
「随分と少ないのね。侍女達にもあげたかったわ」
シュンとしょぼくれる4人組を見ていると何だか、どうにかしてあげたくなるのだ。何人かの1人店主がサッと親父に近寄り声を掛ける。
「おい、こっちにタレと串を分けてくれ。焼いてやるよ」
「こっちには肉があるぞ! これでもいけるか?」
「有り難い。十分だ。恩に切るよ」
数店舗の1人店主達が協力しあい結構な数の串焼きが焼ける事になった。
「お嬢さん方! 沢山焼ける事になったから待っていてくれ」
「まぁ! 宜しいの?」
「嬉しい、ありがとう」
親父さんを囲んで口々に声を掛け手も握り感謝を示す可愛い少女達。もう親父さんは茹で蛸の様に真っ赤だ。
急いで焼台の元へと戻る。
「おいおい、真っ赤じゃねーか」
「良いねぇ。可愛い子ちゃん達に囲まれちゃってよぉ」
「お、俺が焼いた串を気に入って貰えたんだから良いだろうよ」
なんだかんだと声を掛け合いつつ手際良く、どんどん焼かれていく。
少女達は焼かれた串を出来上がった側から買い取ってアンナに渡す。
ポシェットに吸い込まれていく串焼き達。
「何度見ても不思議ねぇ」
「えぇ、本当に」
「1つあれば、とても便利だわ」
「良い事、思い付いたわ!」
なになにと顔を寄せ合う少女達。
「お揃いの鞄を作るのよ! そして私が魔法を組み込むわ」
キャーッと歓声が上がる。
「ねぇ勿論、私達で手作りするのよね?」
「なんて素敵なの!」
「生地を買いに行きましょう」
パッと立ち上がる4人組。口々に楽しみね、どんなのにする? と会話に花を咲かせながら広場から出て行った。
「あれ? 串焼きは?」
「おいおい、あくまで貴族様だぞ。俺達は黙って焼いておくんだよ」
「そうそう、それにだ。時間に余裕が出来たと考えた方が良い」
確かにと各々が頷く。
「いらっしゃい、ま......せ」
突然の貴族様の訪問に顔が引き攣る店主。第一に顔が整っているし着ている物も下町風だが生地が上等だ。
「な、何をお探しですか?」
声が裏返りつつも何とか会話を繋げる。
4人は顔を見合わせてクスクス笑い合って上機嫌だ。
「私達ね、お揃いの小さな鞄を作るのよ」
「勿論、可愛い物をね」
可愛い生地を見せて下さると請われて直ぐに用意する。切れ端を見やすい様に一覧に纏めた冊子を出した。
「此方が当店にある生地の一覧でございます」
「ありがとう。見させて頂くわね」
立った状態では大変だろうと奥の来客用の部屋に案内される。
「まぁ! この生地可愛いわね」
「本当に、あっ! 此方も可愛いわ」
「私ね、アンナ様がお持ちの様なフワフワとした物も気になるわ」
「可愛いものねぇ。分かりますわよ」
延々と可愛い可愛いとはしゃいで、中々決まらない。店主はそっと席を外して店番の仕事へと戻る。正直、付き合いきれなかったのだ。
「ねぇ。此方の雪豹は、どうかしら?」
平民が一生掛かっても買えないだろう金額になるが、そこは貴族のお嬢様方である。ポイッと買えてしまうのだ。
「可愛いわ! 手触りも良いわね」
「この斑の点々が可愛いくて素敵だわ」
「決まりね、此方にしましょう」
「お待ちになって毛皮だと作るのが大変じゃないかしら?」
ハッとする。確かに自分達で手作りすると決めたのだ。毛皮では糸を通すのも大変そうである。
「ここはもう目を瞑って決めるのは如何?」
「どういう事ですの?」
「4人がそれぞれ作りたい生地を決めて番号を振っておくのです。アンナ様に魔法を組み込んで貰うのですから、アンナ様に目を瞑った状態で番号を指差して決めるのよ」
「あ、くじで決めて貰ったら良いのでは?」
クスクス笑い合ってそうしましょうと決まった。4人それぞれが一番可愛いと思う生地を選び紙に番号を書いて小さく畳む。店主に借りた木箱に入れてアンナが目を瞑って1枚引く。
「開いて見せて!」
「4番ね! 」
「ミリーお姉様の物だわ!」
アンナは目をキラキラさせてミリーを見つめる。
「私は此方を選びましたの」
白い生地に白の繊細なレースが施されている物で大人っぽくもあり可愛らしい物だ。
「素敵!」
「ミリーはセンスが良いわね」
「楽しみだわ」
「どんな鞄が良いかしら」
「先にこの布を買ってしまいましょう」
そうね、そうしましょうと店主を呼び戻して布を購入した。
この布はポシェットに仕舞わず、それぞれの護衛騎士に持たせる。
「どの様な形にします?」
「そうですわねぇ、やはり肩掛けの物が良いかしら」
「そうよね。小さく作って仕舞えば大きくなっても鞄自体を更に鞄にしまう方法で長く使えますしね」
あーでもない、こーでもないと延々と鞄のデザインを考える。
「皆様? 串焼きを買占めなくては!」
「忘れていたわ! 早く行きましょう」
スタタッと小走りで広場に戻り山盛りの串焼きを買い占めて、一旦帰路に着いた。それぞれの屋敷でアンナがポシェットから串焼きを取り出して渡す。
さすがに屋敷の者全員には配れず家令や執事、侍女等の側付かえの者達に行き渡った。
無論、貰えた者達は大層喜んで仲間達に話して回った。
噂の串焼きを求めて連日長蛇の列になるまでに時間は余り掛からなかった。これには嬉しい悲鳴を上げる店主。




