18二度目まして
月日が経ち第2王子のお披露目パーティー開催の日。
互いの色を使った装いの2人。
ダニエルは黒のスーツで銀色の刺繍が入った物で対してアンナは薄緑色から裾に行くにつれて濃い緑色になるドレスだ。
今日もエメラルドのバラのピアスが揺れている。
「ローズ公爵家御一行ですね」
「あぁ、そうだ」
確認されて城内へと進む。
綺羅びやかな内装にアンナは物珍しさに視線を彷徨わせそうになるも、淑女として澄ました顔を見事にキープしてみせた。
両親の後をダニエルのエスコートを受けて、ゆっくりとついていく。
「アンナ嬢、とても見られていますよ」
「え?」
淑女であれと頑張っている為に余り周りを見る余裕が無いのだ。それにジロジロと他人を見るのは失礼じゃないかしら? と思う。
「これはアンナ嬢が美しいせいですね。今日も妖精の女王のようです」
ダニエルの褒め言葉にポッと頬を染めるアンナ。
「私が美しいのは分かりきっていますわ」
フフンと胸を反らす。
両親が止まるのと同じくアンナ達も歩みを止めて4人で会話が始まる。すると待っていましたと、ばかりにワラワラと人が集まってきてアンナは身を固くした。少し怖かったのだ。
「大丈夫ですから」
スッと守る様に身を寄せられ安心する。
「ご当主様、今日は御息女もご一緒なのですな。お相手の方は婚約者で決まりですかな?」
「魔法省では画期的な新しい魔法を作られたとか、どの様な物か教えて頂きたいですなぁ?」
大方、話し掛けられる内容はこの様な2種類だ。ロジャーは、貴族らしく微笑みを絶やさずに1人1人に対応している。シャーリーも同じ様に微笑んで淑女達に対応していた。
アンナとダニエルの防波堤になってくれている様だ。しかし、どうしても若い2人が気になる様でチラチラと視線が引っ切り無しに送られてくる。
「アンナ嬢此方に」
ダニエルがそっと人の輪から出してくれて、さりげなく両親の背後へと移動する。
ギラギラとした視線に晒されて居心地の悪い思いをしていたアンナはほっと一息つく。
「ダニエル様、有難うございます。私もう疲れてしまって」
「大丈夫ですか? 私に寄り掛かって下さい。鍛えているので手摺りとしては優秀ですよ」
冗談だと分かる物だがアンナはダニエルの優しさにキュンとして甘える様に寄り掛かる。
ダニエルは危なげなく腰に手を回して支えた。
仲睦まじい2人の様子を遠巻きに見つめる野次馬達。あれが婚約者で決まりらしいと囁き合う。
しかし貴族派の侯爵家の次男だ。もしかしたら、まだ望みはあるかもしれないと野望を滾らせる者も居た。
アンナは大パニックである。腰に! 腰に手が! いやぁぁあ! どうしたら良いの! 表面上はダニエルに微笑み掛けるだけなのだが。頭の中は大変に騒がしい。
ダニエルは顔がニヤつきそうになるのを必死に堪えていた。アンナからの接触に有頂天になっているのである。
ラッパが高らかに響き渡る。
どうやら陛下達の登場の様だ。
階段の1番上の扉が開かれ陛下と王妃が隣だって入り、第1王子、第2王子の順番で登場された。
皆が拍手を送り出迎える。
「今日は我が息子の為に集まってくれて有難う。紹介しよう。第2王子のラッセルだ」
紹介されたラッセルは一歩前に進み出てクルリと見渡してから軽く頭を下げた。
ラッセルは今現在、甘いマスクのモテそうな青年といった所である。現に数人の淑女が感嘆の溜め息を漏らしている。
眩いばかりの金髪に綺麗な湖を思わせる青い目。鼻筋も通っており見目麗しい。
ラッセルは突然ビクリと肩を揺らした。幸いにも気付いたのは近くにいる家族だけで、少し離れた所にいる貴族達には分からなかった。
「どうしたのだ」
陛下が小声で問い掛ける。
「あの時の......化け物が、きっきてる」
ガクガクと膝が笑い出した息子に驚き直ぐに声を上げた。
「今日はめでたい日だ。美味い酒に美味しい料理を用意してある。皆も楽しんでくれ」
不自然にならないように手を貸し何とか座らせる。真っ青な顔色に唇も震えていた。
「挨拶は後回しだな」
「そうですわね」
王妃は心配そうに何度も息子に視線を送る。
第1王子である兄も弟が心配な様で、しきりに声を掛けて安心させようとしていた。
「ラッセルどうしたのだ。大丈夫だ。一度深呼吸したら良い」
さすがに貴族達の目がある為、背中をさするような真似は出来ずにいたが。
陛下は直ぐにローズ公爵家の娘に怯えているのだとピンと来て視線を巡らす。本人を見るのは初めての事だが心底驚く。
第2王子が這這の体で帰ってきた、その日から影の者をつけていたのだ。屋敷の中までは入らせていないが、動向を探っていたのである。
本当は妖精だと言われても信じてしまいそうな美貌だ。儚さもある。あれが本当に平民の腕を平然と切り落とした者なのかと影の者からの報告を疑ってしまう程だ。
「とりあえずラッセルには酒でも飲ませよう」
少しキツめの物を用意させて飲ませる事にして。あの娘と会話したいなと好奇心が首をもたげる。
直接聞いてみたら良いのだ。平民の腕を切り落とし結果的に3人の破落戸を倒してみせたのかと。
ラッセルが落ち着いてきた所を見計らって挨拶周りを始める。
ラッセルはシャンパン入りのグラスを持ったままに第1王子と共に階段を降りていく。概ね派閥毎に別れて歓談している固まり毎に一つ一つ挨拶をして回っていった。
和やかにパーティーは進み、外が少し暗くなって来た頃いよいよローズ公爵家の所にも王子達はやってきた。軽く挨拶をしてチラリとアンナを見る第1王子。
余りの美しさに見惚れてしまう。そして、この美しい人が本当に平民をボロボロにした者と同一人物なのか疑わしく思った。第1王子は次代の王として影の報告を父と一緒に目を通しているのである。
マジマジと見つめてしまっていたらしい。
「娘がどうかしましたかな?」
グッと圧を掛けられているかの様に錯覚してしまう程の迫力に気圧される。
誤魔化す様に咳払いをして口を開いた。
「いえ、美しさに見惚れてしまっていたようだ。申し訳ない」
次に行くぞと合図を送る為に弟を見れば尋常じゃない量の汗が噴き出し顎から滴っている。
「っ......弟はどうやら酔ってしまったようだ。失礼する。パーティーを楽しんでくれ」
ラッセルの腕を掴むとスタスタと奥へ引っ込んで誰も居ない廊下で向き直る。
「随分と時間は経ったと思うのだが、まだローズ公爵家の娘が怖いのか?」
泣き出しそうな顔で無言で頷く。
「良いか。あの娘は自分に害を成す者にしか手を下さない。見境無く暴れる様な事は無いのだ。そう怖がる必要は無いぞ」
ハンカチを取り出し汗を拭ってやる。兄としての気遣いのつもりなのだろう。
ラッセルは振り払う様な事はせず黙って受け入れる。今は只々、兄の優しさが身に沁みて泣きそうになるのを堪えていた。
「幾らか落ち着いた様だな。会場に戻れるか? 一通り挨拶は済ませたのだ。無理せずとも良いのだぞ」
「大丈夫です」
「そうか......一度着替えてきた方が良い」
ジャケットに汗じみが出来ているのだ。それ程に、恐怖で冷や汗が出ていたのだろう。弟を気の毒に思い部屋まで付き添った。
「汗を流してしまった方が良いだろうな。まぁ気持ちが落ち着いたら戻っておいで。陛下も王妃も分かってくれる」
「はい。にぃ様」
思わず幼い頃の呼び方が飛び出て来た弟の頭をそっと撫でると会場へと踵を返した。




