15おデート
今日は観劇デートの日である!
アンナはルンルン気分で朝を迎えた。そして侍女達から、徹底的に磨き上げられ少し気怠い気持ちになるも久しぶりにダニエル様と会えるのね! と気持ちは上向いた。
「今日はダニエル君と観劇に行くのだったね」
「はい!」
「鑑賞している時にお腹が鳴ってしまったら大変だから、ちゃんと食べておきなさいな」
「でも、胸が一杯で食べられそうに無いの」
シャーリーは少しだけ悩むと侍女を1人呼んで何かを伝えると侍女は直ぐにサーッと出て行ってしまった。
数分経つ頃に一口サイズの可愛らしいフルーツサンドが運ばれて来たのである。
「これならどうかしら? 食べられそうじゃない?」
見た目も可愛らしくてアンナの目が輝く。
「はい! 頂きますわ」
パクリと1つ目を食べると爽やかなオレンジと生クリームのハーモニーが絶妙だ。
「美味しいです! お母様有難うございます」
「良いのよ。私もね、ロジャーとのデートの前によく食べていた物だから」
フフッと思わず笑みを零すシャーリーをロジャーは食い入る様に見つめていた。そんなにも可愛い一面があったなんてと思っているのである。
色とりどりの可愛らしいフルーツサンドをパクリパクリと食べ進めるアンナ。もう全部が美味しくて止まらないのだ。
10個はあったのだが全て食べ切ったアンナは大満足である。
「とっても美味しかったわ! 毎日でも良いくらい!」
「良かったわぁ。まぁ魔力の多いアンナには実の所、必要無かったのかもしれないけど」
「あ! 魔力を使ってしまうから」
「そうよ、覚えていたのね。偉いわ! さすが私の可愛い宝石ちゃん」
魔力が多いと身体が勝手に魔力をエネルギーに変えて動かすせいで、お腹が空きづらいのである。
そうはいっても栄養は摂取しなければならない為、無理やりにでも口に食べ物を入れた方が良いのだが。
「お嬢様、お迎えにいらした様です」
「あら! 早いわねぇ。よっぽど会いたかったようだわ。アンナったら随分愛されているのね」
「お、お母様!」
顔を真っ赤にしながら立ち上がると行ってまいりますとカーテシーをして見せる。
「気を付けるんだよ」
「楽しんでらっしゃい」
クルリと踵を返して急いで玄関へと向かった。何せアンナも早く会いたくて仕方なかったのである。
「ダニエル様!」
「アンナ嬢。申し訳ない。早いというのは分かっていたのですが会いたくて......その婚約者になれた事も嬉しく」
「あ、えぇ、私もお会いしたかったですわ。ダニエル様」
2人でもじもじと中々動けずに居るとメアリーが耳打ちをする。
「良いのですか? 時間は有限でございます。せっかく早くに会えたのですから、お出掛けなされては?」
「だ、ダニエル様。せっかくですから、もう出掛けてしまいませんか?」
「はい! 勿論! 行きましょうか!」
スッと腕を差し出しエスコートをする。前回の庭の散歩では出来なかったエスコートである! ダニエルは心臓がバクバクと煩いが今回はスマートに対応してみせるぞと、プライドを掻き集める事に成功したのだ。
しかし、少し見ない間に美しさが増していて中々言葉を発する事が出来ない。ツヤツヤと輝いていて直視する事も出来ずに居た。
馬車に乗り込み向かい合わせに座る。
「あ......アンナ嬢」
「はい」
「その...今日の貴女は輝いていて......余りに美しい」
アンナは動揺した。
「わわわ私が、美しいのは当然でしてよ」
思わず何時もの癖が出てフフンと胸を反らしてしまう。
「そうでしたね。まるで妖精のお姫様のようです」
アンナは更に動揺した。
「あぅ......ぃぇ。これは」
今日の装いは動きやすさ重視でシンプルなドレスなのだ。薄いラベンダー色に白いパールの飾りが付いている物である。
髪は余り派手にせずサイドを編み込んでパールの髪飾りで留めていた。
シンプルな装いがアンナの美しさを際立たせている様ですらある。
少し間を置いて落ち着いたアンナ。
「ダニエル様も素敵ですわ」
「有難う。とても嬉しく思います」
今日は少し着崩している様子なのだ。シャツのボタンも2個程外しているし、紺のジャケットに同じく紺のパンツという出で立ちである。髪は軽く流していた。
ワイルドな雰囲気にアンナはクラクラしている。
ダニエルは平静を装うのに必死だ。褒められた事実に舞い上がりそうな所を鍛錬している、むさ苦しい父を思い浮かべる事で気持ちを落ち着かせている。
午前の観劇に間に合い中へと入る。
「楽しみですわ」
「私もです」
微笑み合いながら案内に従って進んだ。
「まあ! 個室ですの?」
「実はダリア侯爵家で出資した劇場でして。だから見に来る時は、いつも個室に通して貰えるのですよ」
「素敵だわ、ゆっくり見れて嬉しいです」
1人掛けのソファが2つ置いてある。真ん中にテーブルが置かれ、既にグラスも用意されていた。
「何か飲まれますよね?」
「林檎味の物はありますか?」
「シードルなら......お酒は平気?」
お酒、実は飲んだ事が無い。お披露目も済ませているし本来なら嗜む程度に慣らしておく必要があるのだが、如何せん父であるロジャーが駄目だ! と許さないのだ。
「飲んだ事はありませんの」
少しシュンとするアンナにダニエルは完敗である。
「なら少しだけ挑戦してみましょうか。1口、2口だけ飲んで、後はブドウジュースにしましょう」
「良いのですか!」
キラキラと輝く目線にダニエルは胸を押さえる。なんて可愛いのか。もはや今日、生きて帰る事が出来るのか不安になるほどである。心臓が持つ事を祈るばかりだ。
「シードルとブドウジュースを頼む」
後ろに控えていた劇場のスタッフに声を掛ける。
今回の騎士とお姫様の物語、侍女達も観たい者が多くてアンナについて行く権利は激しい争奪戦が繰り広げられたのだ。
結局、いつもの様にメアリーが付いている。何せアンナの専属侍女なのだ。
他の者が割り込む事等叶わなかったのである。
メアリーはアンナの初めてのお酒という経験にやきもきしていた。自分がお止めした方が良いものか。婚約者であるダニエルの面子を潰してしまうから静観しておくべきか。
しかし、悩んでいる間に届けられてしまったシードルとブドウジュース。
ダニエルがアンナのグラスに少しだけシードルを注ぐ、
「有難うございます。頂きますわ」
シュワシュワとした炭酸と爽やかな甘さ。
「美味しいです!」
初めてのお酒が、とても美味しくてびっくりするアンナ。父から苦くて不味い物だから止めておきなさいと口を酸っぱく言われてきたので驚きが大きい。
「お口にあった様で何よりです。しかし、初めてのお酒ですからね。後はブドウジュースにして下さい」
スッとシードルのボトルを持ち立ち上がる。そのままメアリーの所まで来ると手渡した。
「お酒を飲ませてしまい申し訳なかった。アンナ嬢が気に入った様だから、此方は持ち帰って貰いたい」
「かしこまりました」
しっかりと線引が出来るダニエルの株がメアリーの中で上がった。直ぐに上がってしまう甘いだけの男ではない。ちゃんと成人した者として導いてくれそうであると。




