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「思っていたよりもダリア家当主に似ていたな」
「そうかしら? もっと顔も整っているし動きもスマートだったわ」
「君も見ていただろう。最初ガチガチに緊張して動きが面白い事になっていたじゃないか」
「思い出させないで。笑ってしまうわ」
そう言いつつもクスクスと笑いが止まらないシャーリー。
「何でなのかしらね。ダリア家では皆がああなってしまうのかしら」
所謂、上がり症である。貴族が、こういった性分では何かと困る事が多々あるだろうに。裏の読み合いや顔色を伺って動かなければならないのだ。
「ダリア家は多くの軍人を出しているから、もしかしたら極度に人との関わりに苦手意識があるのかもね。会話をする位なら拳を交える方が良い! とかね」
「あら、私達だって戦争には駆り出されているじゃない。緊張しいなのは血筋じゃないかしら」
「確かに遺伝してしまうのかもしれないな」
神妙な顔つきで失礼な事ばかり話す2人。
「ごめんなさい。驚きましたよね」
「ご挨拶したいなと思っていましたので、私としては良かったです」
ただ唐突に出会った為にガチガチに緊張してしまったが。
両親と突然、出くわしたにも関わらず迷惑がる事もしないで朗らかに対応してくれるダニエルにアンナは感激した。
なんて、紳士的なのかしら! と。
赤面してカチコチになっていたダニエルを見た時も可愛らしい方だわ! と思っていた位で何にせよ常に好意的に見えるようだ。
「アンナ嬢、次に会うのはいつ頃が良いでしょうか?」
アンナは混乱した。どうしたら良いの? とメアリーに助けを求めて視線を送る。
「来月が宜しいかと。少し期間を空けときましょう。お嬢様の美貌に更に磨きをかけるのです。ダニエル様を骨抜きにしてやりましょう」
コソリと耳打ちされた内容に赤面して大いに動揺してしまった。
「らっらら来月でしたらいつでも宜しくてよ」
フフンと胸を反らしてしまう。いつもの癖が出て来たのだ。
ダニエルは、可愛さに打ちのめされた。
「え......妖精なの?」
ポカンとしてしまうアンナ。
「え?」
ハッとして慌てて視線を合わせる。
「あっすみません。意識が持ってかれて......いえ、はい。分かりました。来月ですね。決まりましたら手紙を送ります」
「はい、お待ちしていますわ」
無事に散歩を終えて、どうにかこうにかお茶会は幕を閉じた。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「え? どうして?」
「ダニエル様が帰られてから、ずっと溜め息をついておりますよ」
幸せの溜め息である。2人が交わした会話を思い出しては早くまた会いたいわ、と思っているのだ。
「また会いたいわと思って」
「それは良い事でございます。それでは次に会う時までに美貌を磨くに限りますね」
パンッと手を打つと侍女達数名がサッと集まる。
「良いですか? お前達、お嬢様には好いた殿方が出来ました」
順繰りに視線を合わせて頷いてみせるメアリー。
「やる気に満ちているようですね。素晴らしい事です。では、お嬢様を更に美しくする準備に取り掛かりましょう」
お嬢様、此方へと手を引かれて浴室へと連れて行かれ、あれよあれよと言う間に脱がされる。
湯船に浸かりつつヘッドマッサージを受け手もマッサージされる。
気付けば夢の世界へ。
ハッと起きるとヘアオイルを揉み込まれていた。
湯船から出れば身体を拭かれて寝台に俯せに寝かせられる。
強めの力で全身揉まれていく。痛気持ち良いというやつだろうか。どうやら香油を使われているようで甘く爽やかな香りがフワリと鼻をくすぐる。
こうして全身を磨かれたアンナ、着替えも済ませ全身鏡の前に立ってみると自分が輝いており驚く。比喩ではなく本当にツヤツヤとしているのだ。
もはや淡く発光しているのではと思う程である。
ノックの音がして返事を返すと両親だった。
「まぁ! なんてこと妖精さんみたいだわ!」
「凄いな。本当に輝いている」
「私の可愛い宝石ちゃん」
シャーリーはアンナをギュッと抱き締めて、おでこにキスを贈る。
「どうしましょう。こんなに可愛いなら、お出掛けは見送りにしましょうか? 別に見に行く必要も無いのだし」
「そうだなぁ。下手に男が集まって来そうだからね」
「お出掛け? 行きたいです! 何処に行くのですか?」
両親は顔を見合せる。
「陛下から呼び出されたのだ。とは言っても、まだ先の事だけどね。何でも第2王子のお披露目があるらしい」
「無理に出る必要は無いのよ? もしも見初められてしまったら大変だもの」
ふむと悩むアンナ。お城でのパーティーには出てみたい。しかし母が言うように第2王子に見初められてしまってはダニエルとの仲に亀裂が生じてしまうかもしれない。
「ダニエル様にエスコートして頂くのはどうかしら!」
「あーそれはぁ......うーむ。まだ婚約している訳でもないのに軽々しくエスコートを頼むのは、どうだろうね」
「私、ダニエル様をお慕いしております。婚約したいと思っておりますわ」
ガーーンとショックを受けたのは父であるロジャーだ。
「まぁ! まぁ! なんてこと! 素敵ね」
シャーリーは愛娘の初恋とあって大はしゃぎである。
「ちょっと! 貴方、ほら手紙よ! お手紙書かないと」
ロジャーを押して部屋をばたばたと出て行ってしまった。
「お嬢様が、婚約するなんて。メアリーは感無量でございます」
メアリーはハンカチを手にポロポロと泣き出し、他の侍女達も目を潤ませている。
「やだわぁ。もう皆、大袈裟なのよ」
気恥ずかしくて仕方ないアンナはしきりにドレスを気にして、もじもじとしていた。
「ぇ゙ぇ゙! こっこれは、なんと」
ダニエル! ダニエル! と叫びながら息子の部屋まで猛ダッシュする。
何事かと慌てて部屋から出てくるダニエル。
「父上! 何事ですか!」
「こっこここ婚約したいとローズ公爵家から!」
「え?......えっ? 婚約?」
父の手元にある手紙を見てひったくると目を通した。書いてある内容が信じられずに何度も見返す。
「本当に? これは公爵家特有の冗談とかでは無いですか?」
「そんな訳があるか! 聞いた事もないわ!」
当主も信じられない思いで何度も確認したが、書いてある内容が変わる筈も無く仰天したものだ。
「良いか、驚くのも無理の無い話だが本物だ。お前の誠実さがあちらに伝わったのだと私は思うぞ」
まだ次回の観劇デートの日程も決まっていない中でのエスコートの願い出に加えての婚約の申し出である。
驚かない訳が無い。
そして、この婚約の知らせはダリア侯爵家を大いに驚かせ上へ下への大騒ぎとなった。
次期当主の兄もいつもの冷静さはどこへやら泣きながら祝いの言葉を告げてきたのである。
「よがっだなぁ。お前にはしっ幸せになって貰いたいと思って......」
過呼吸になるのではと心配に成る程しゃくり上げていた。
「おめでとう。良かったわね。好いた人と一緒になれるなんて素晴らしい事よ」
母からもお祝いされて何だか夢心地な日を数日過ごした。




