12初めてのお茶会
「ミリーお姉様! エリシャお姉様!」
タタッと小走りで出迎え抱き着く。
「フフッ相変わらず可愛らしいですわね」
「私達の妹なのよ。可愛いに決まっていますわ」
アンナは、ここではたと気付いた。誰か居る。見た事の無い令嬢だ。さっと離れると、おすまし顔を作り声を掛ける。
「私はローズ公爵家の娘、アンナですわ」
母に教えて貰った通りにカーテシーをして見せるとドヤ顔で相手を見つめた。
何故か礼儀作法の先生と相性が悪く悪態ばかりついて真面目に取り組まない為に母であるシャーリーが苦肉の策として自ら教えているのだ。
一方ドヤ顔を向けられた令嬢は抱き着いた後からの一連の流れを見ていた為に可愛いさに打ちのめされていた。
何て、お可愛いらしい方なのかと。もはや子猫にしか見えない。
「かわ......んんッ。私、ダンデレオ伯爵家のソフィアと申します」
年は同じですわと微笑めば、アンナは頬を赤らめて目を輝かせる。
「おっおと......お友達になれそうね」
「そんな風に言って頂けると嬉しい限りです」
ミリーとエリシャは顔を見合せると上手くいったわねと頷き合う。
庭先に用意されていた席に着けばアンナは顔を真っ赤にしながら話し出す。
「あ、あの聞いて下さるかしら」
「えぇ勿論」
「何か御座いましたか?」
「私も聞いて宜しいので?」
指先を弄ったりしつつもじもじとするアンナ。
「お友達なのですから、聞いて頂かないと......」
フフンと胸を反らして話したが、やはりもじもじとしてしまう。
「もしや、恋のお話かしら?」
エリシャからの指摘にビクリと肩を揺らして顔のみならず耳も首筋まで赤くなる。
「私、あの......ダニエル様から。あの、お......お手紙を......頂いたの」
エリシャとミリーは瞬時に夜会の男だと思い至る。
「これを」
見せて良いのか? と皆が思ったが、あの女たらしが書いた手紙が気になって目を通す事にした。
「あら! まぁ直接的な言葉ですわね」
「そういえば、アンナ様が出席された夜会以降は集まりに全く出てこなくなったと、お聞きしましたわ」
「ソフィア様、それ本当なの?」
「えぇ。ダニエル様のファンクラブがあるのですが私の友人が入っていて、その子からの情報なので間違いないかと」
まぁ! とお姉様方は声を上げた。そして意味ありげにアンナに視線を集める。
「アンナ様?」
「はい、ミリーお姉様」
「ダニエル様はアンナ様に首ったけのようですわ」
「ななっ......何故そう思うの?」
エリシャが口を開く。
「集まりに一切出ず、この様な手紙をアンナ様に出しています。考える余地もありませんわ」
「そっそうですわね」
「ただ貴族派の次男坊でしたわね」
「ご当主様はご存知なのですか?」
派閥が違う事の何に問題があるのかとアンナは不思議に思った。根っからのお嬢様であるアンナは派閥の違いを少し仲が悪い位にしか捉えていないのである。
「父からはダニエル様とお茶会を開いて良いと言われております」
エリシャとミリーは視線を合わせて頷き合う。
「それなら大丈夫ですわね」
「安心致しました。時にアンナ様、初恋でございますか?」
「はひゃぁ」
顔を手で覆って縮こまるアンナ。
可愛いが過ぎる。何という破壊力か。
ソフィアは身悶える。
「か、可愛らしいですわね」
「そうでしょう。私達の妹でしてよ」
「お二人から声を掛けて頂いてよう御座いました。私、胸が一杯ですわ」
ほうっと溜め息を零して胸を押さえるソフィア。
可愛い物が大好きで年の割に落ち着いており面倒見の良いソフィアならアンナと相性が良いだろうと2人で話していたのである。派閥も同じ事もあって呼んだのだが大正解だ。
「その、アンナ様?」
「何かしら」
「ダニエル様の何処に惚れましたの?」
ピシリと固まり動かなくなってしまったアンナ。
「あ......言いたくなければ別に良いのですよ。大丈夫ですわ」
ソフィアが安心させる様に言葉を紡ぎ優しい笑みを浮かべる。
「違うのです。私、何処が好きなのか分からなくて......ただこう思い浮かべただけでドキドキしてしまって」
無意識なのか手紙を抱き締めるアンナ。
「おっお姉様方は婚約していらっしゃるのでしょう? お相手の好きな所はどこですの?」
「そうですわねぇ。私の場合は財力かしら」
「財力......」
エリシャは超現実的なのだ。何をするにしても金がいる事を良く分かっている。
何なら見た目すら二の次なのだ。
「一緒に居れば情が湧きますし笑った顔が可愛らしいわ、とか思う様になりますわよ?」
アンナは少しだけ落胆しつつミリーを見つめた。
「私の場合ですと趣味が合う所ですわね。面白かった本をお勧めし合ったり、観劇を一緒に見に行ったりと楽しいですわ」
アンナとソフィアは目を輝かせた。
「素敵ですわね!」
「えぇ、本当に!」
エリシャは負けじと口を開く。
「私だって、一緒に観劇に行ったりしますし普段は行かない様なディナーを頂いたりしておりましてよ!」
とびっきりお洒落するのですわと胸を張る。
「もう、エリシャったら負けず嫌いなんだから」
「そんな事、ありますわね!」
思わず噴き出し4人で笑い合う。
「エリシャお姉様面白いですわ」
「アンナ様にそう言って貰えるなら嬉しいですわね。でも財力は結婚する上で、とても大事なポイントでしてよ。一緒に生活を支え合っていくのですから」
アンナは首を傾げる。
「私が当主になりますし......婿様の財力も必要なのですか?」
「将来どうなるか等、誰にも分かりませんでしょう? 備えあれば憂いなしですわ! 突然、自然災害に巻き込まれて領地の税収が無くなるかもしれませんよ」
ポンッと手を叩くエリシャ。
「そうなった時に大事なのは婿様の財力ですわよ? 一時的でも良いのです。何とか暮らせていけるだけの蓄えがあれば安心でございましょう」
「はぁ、凄いですわ。エリシャお姉様は沢山考えておりますのね」
ソフィアもアンナの隣で尊敬の眼差しを送る。
「まぁ、此方のビスケットとても美味しいですわね」
恥ずかしくなったのか唐突に会話を転換させるエリシャ。
「あら、本当に美味しいですわね」
ミリーがすかさず繋いでくれる。
そこからはミリーとエリシャの惚気話を2人で聞き出してはダニエル様ともそうしたいとか、婚約者とのデートはここに行くとか盛り上がり大変に楽しい時間であった。
和やかに時は流れ、初めてのお茶会は上々であった。
頬を染めて興奮しながら母に如何に楽しかったかを話して聞かせるアンナ。次のお茶会はダニエルとである。
こんなに楽しいなら上手くいきそうだと自信満々だ。
何なら自分がリードするつもりですらある。




