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5.ひとしずくの黒点

 

 王都郊外、トクゴ。

 かつてヨクリカ王国と併合した和国の生き残りが築き上げた隣国、幸国(さきわうくに)にほど近いためか、その街は人と人ならざるモノが集う場所であった。



「ここが私の新しい街ですか」



 王都から馬車で一刻も経っていないが街の雰囲気は大分『和』寄りだ。木造の建物も多いし、道行く人が身に着けている衣も麻で作られた物が多い。和装、というんだっけ。悪目立ちはしていないけれど、私のような服を着ているのはパッと見た限り獣人しかいなかった。


 流石は辺境、獣人がいても気に留めやしない。

 頭の上でピコピコ動く獣耳が付いた男の人から目を逸らし、改めて街を見渡す。


 私がいるのはトクゴの中央、役所前だ。さっき居住の手続きは済ませてきたのでこれからシェアハウスとやらに行く。スーサ様からいただいた地図によると、新しいお家はトクゴの端辺りにあるようだ。住む場所も端。暮らすお家も端っこ。お部屋も角部屋だったらトリプルだ。なにかいいことないかなぁ。1日分の着替えが入ったカバンを持ち直し、えっちらおっちら歩き始める。


 と、前から鉄の塊が来たので慌てて道の端に寄った。


 あれは魂石(こんせき)を使って走る『魂具車(こんぐしゃ)』だ。魂石とは生命エネルギーを宿した石のことであり、スキルを使用したり呪具の核になったりするエネルギーの素。魂石自体は気軽に入手できるが、魂具車の方は色々面倒な点も多いことから利用する人は少ないらしいのだ。だから王都くらいしか見る機会がないと思っていた。



 談笑する酒屋の店主とお客の前を通り、しばらく道なりに進んで行けば目の前に橋が見える。



 立ち止まって地図を確認。この橋の手前にある小道を曲がらなくてはいけないようだ。幾つかある小道のどれが正解だと見渡していると、ふと一角に人だかりが出来ているのに気付いた。


 そこは橋下の桟敷だ。白いテープが張られ、その奥で軍服を着た者達がなにやら物々しい雰囲気で何かをしている。あれは国の治安を守る部隊、軍警だ。見に行くべきか迷っていると、私の後ろにいた2人組が囁き合う。



「また殺されたんだってよ、恐ろしい。やっぱり色恋沙汰の(もつ)れかねぇ」

「何人も死んじまっているんだ、あれは呪いだよ。人様のやることじゃねぇ」



 呪い。どうやら事件があったようだ。


 ちょうど土手から上がって来たご遺体には白い布がかけられている。そのためハッキリとは分からないが、隙間からだらんと垂れ下がっている腕はまだ若い人のように思えた。何人も死んじまっていると後ろのおじさんが言ったところをみるに、連続事件なのだろうか。


「全く、街がこんな様じゃ嫁さんもおちおち遊びに行かせられやしねぇ。早いとこ軍警サマにゃ何とかしてもらいたいものだな」

「お前さんところは大丈夫だろ、美人しか狙わねぇって話だし」

「おっと、それもそうだったな。はっは!」


 あくまで他人事だと言わんばかりのやり取りをしながら2人組は去っていったらしい。振り返ると既に彼等の姿はなかった。


 全く、訪れて早々こんな現場に遭遇するとは幸先不安だ。とりあえず被害者の方にはご冥福をお祈りし、事件が一刻も早く解決するよう願っておこう。


 改めて辺りを見渡せば、橋の手前に石の標識らしき物が見えた。手元の地図を確認。『サイノ通り』……うん。あの小道を進めば正解のようだ。ふと視界を掠った黒い何かに顔を向けるも、視界は野次馬達しか映さない。


 まぁいいや、気を取り直して行こう。私は荷物をかけ直し、小道を進み始めた。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

「面白い」、「続きが読みたい」と思った方は、是非ブックマークや評価などよろしくお願いいたします!

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