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1.そんなこと言われても

 



「マドイ・ハヤサーラに告ぐ――君の卒業資格を永久に剝奪し、この学園から追放する」




 シン……と静まり返った室内は、その言葉の意味を理解するなりにわかに騒めき始めた。

 流行りの人生逆転ものみたいな展開だ。まるで舞台照明のような落ち着いた色合いの光が降り注ぐ学園長室は、途端に渦中の人物を処刑する場へと変わる。一様に礼装を纏った人々の視線もまた、その者へと注がれていた。


「何か弁明はあるかい? マドイくん」



 ――――そう、私に。

 本日卒業予定である王立魔術学園、トリノ学園長のお言葉を受け、私は軽く手を挙げた。



「私、何かしちゃいました?」


 途端に成り行きを見守っていた者達が騒めいた。

 全部拾えたワケではないが「白々しい」「あんな事をしておいて」「やはり異名は本当だったのか」などという内容が主。私の言葉を聞くなりトリノ学園長も眉を寄せており、自覚がないという事が信じられないようだ。


 だが心当たりのない事を認めるのは虚偽にあたる。嘘はいけないとお母様が言っていた。すると学園長の傍でやり取りを見ていた男が私と相対するように1歩前へ出てくる。


「シラを切るなど恥を知れ! 貴様が起こした数々の所業、この場にいる全員が周知の事実だ!!」

「具体例をお願いします」


 もったいぶるタイプの断罪だ。というか誰だろう。担任やら学年主任やら学園のお偉いさんがいらっしゃるなか、何故ここに生徒が紛れ込んでいるのかも不明だ。まぁ教えてくれるならと問いかければ、名も知らない同級生は嫌悪も露わに言う。


「入学より貴様はその恐ろしいスキルでもって学園の備品を破壊し、そればかりか建物も破壊してきた」

「あ、はい」


 それはした。ただ正確に述べるのならば、私のスキルに魂具(こんぐ)が耐え切れず壊れただけだ。けれど肯定したところで有利だと思ったのか、彼は勝ち誇った笑みを浮かべる。


「それだけじゃない、貴様は『四大貴族』という地位を利用し他の者に対し横暴な振る舞いをした挙句、同じ候補者であるイズメが気に食わないからと階段から突き落としただろう!」

「担任に頼まれた書類運びをイズメさんと行っていたところ、彼女がバランスを崩して勝手に階段から落ちたことはありますね」

「スキル訓練の際にはドラゴンを召喚してクラスメイトを襲わせた!!」

「誰でしょうねぇ。禁忌書を持ち出して召喚してした挙句、後処理を私に任せたボクちゃんは」

「この期に及んで他人に罪を擦り付ける気かっ!!」


 ちなみに残念なことにその犯人はこの場にいないので、追及することも不可能だ。こんな幼気な私が責められているのに誤解を解かずに逃げるとは。後で罰が当たればいいのに。


 彼がつらつら言葉を紡ぐたび傍聴していた先生方は嘆きの表情を浮かべ、隣人と囁き合い、そして私へ向けていた視線を冷ややかなものへと変えていた。よく分からないが私は嫌われているらしい。いや、そもそもこのボクちゃんは誰ですか。

 なおも言い募ろうとする彼を手で制し、トリノ学園長は言った。


「アルバくんから君の話を聞いた時、まさかとは思いました……()()難はあるものの、キミはこの国において類稀なる『光』属性の魂核の持ち主。次期聖女候補の1人でしたから」


 一旦口を閉ざし、学園長は悲しむように首を振る。


「……ですが挙がってくる確固たる証拠と証言の数々、そして卒業試験を破壊するという行為。もはや酌量の余地はありません」



 破壊? ………………あ。



 ようやく私は思い出す。声を上げていた男子生徒が生徒会長であり、私の()()()だったアルバ・セオリッテであること。

 そしてつい数週間前に行われた卒業試験――そこで力の加減を間違え、他の人が戦うはずの魔獣まで浄化してしまったことを。



「改めてここに告げます、マドイ・ハヤサーラ――貴女の卒業資格を永久に剥奪し、トリノ・タカトマの名において学園から追放します」



 こうして私の学園生活は呆気なく、幕を下ろしたのでした。

 ……そんなこと言われても。


ここまでお読みいただきありがとうございます!

「面白い」、「続きが読みたい」と思った方は、是非ブックマークや評価などよろしくお願いいたします!

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