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人でなしの恋と幸~災厄聖女は異質を愛す~  作者: 加賀瀬 日向
第2章 愛と狂気は紙一重
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13.物騒な事件

 

「やぁ、マドイ・ハヤサーラ。『恋幸館』の住み心地はどうだい?」

「期待大です」


 白い歯を見せて笑うスーサ様に対し、私は素直に述べる。

 まだ1日も経っていないので良いとは言えないが、星5つはくだらないこと確実だ。私の答えに満足したのか、彼女は声を上げて笑う。


「いいね、おべっか使わないトコも気に入ったよ」

「こんな朝早くに来るなんて珍しいね、スー。カグの分だけど朝ごはん食べる?」

「相変わらずアイツは夜型なのか。もちろんいただこう、アタシはクナトが作る飯が最も美味いと思っているんだ」


 空いている席に腰掛けるなり、彼女は大皿に乗っていたリンゴを丸かじりした。小気味良い音と共に流れる果汁。荒っぽく手の甲で顎を拭うその姿は王女らしからぬ仕草だ。貴族が見たら顔をしかめそうだが、ここの面子は気にしないらしい。ティーカップを持ち上げつつ、リルハさんが言う。


「スーちゃん様、何か用があっていらしたのではなくって?」

「あぁそうだ、例の事件がまた起きてな。その話を持って来たんだ」

「例の事件?」


 優雅な朝に似つかわしくない単語だ。思わず聞き返してしまうと、彼女は深く頷く。続いて語られた内容は、私にとって記憶に新しいものであった。



「昨日の昼頃、河川敷でまた1人殺された。それもつい1週間ほど前に水揚げしたばかりの若い娼婦だ」

「これで9人目か?」



 水揚げって、漁か何かかな? それはさておき、河川敷ということは私が遭遇したあの現場だろう。野次馬が話していた通り連続殺人事件だったようだ。

 その事件はわりと有名らしく、トースターをモリモリ頬張っていたネブリムカさんが言う。


「被害者は全員ファムタールエリアにある娼婦館。年も若いのから熟女まで幅広いんだって? 犯人は随分と節操がないなぁ」

「リルハさん、ファムタールとは?」

「賭博場や娼婦館が集まるエリアですわ。マドちゃん様にはまだほんの少し早いかしら、うふふっ」

「目撃者すらいないの?」


 私の頭をなでなでするリルハさんは至福の表情だ。完全に子供扱いされているが、クナトさんは窘めることなく首を傾げる。

 彼の疑問はもっともだ。昼間の犯行なら1人や2人見ていても不思議ではない。けれどスーサ様は首を振って否定した。


「あぁ、ゼロだ」

「逆に怖いわ、その状況」

「だから犯人はスキルを使っているんじゃないかとアタシは睨んでいる。動機は恐らく痴情のもつれだろうが……それにしては手口がむごい。よほど強い感情がなけりゃできっこないんだ」

「どんな手口ですか?」

「心の臓を持ち逃げしている」


 ブッ、と。ソーセージを頬張っていたミヅカさんが思わずといった様子で吹き出した。


 優雅で爽やかな朝に話す内容ではないね。流石の面子も意外だったのか閉口している。が、ネブリムカさんの場合は口の中にトースターが入っているから喋れなかったようだ。どうやら我が道を行く人らしい。ちょっと膨らんだ頬が可愛かった。

 一方、脊髄反射レベルでエリュシュカさんの耳を塞いでいたクナトさんがハッとしたように言う。


「あ、もしかして『これで君のハートは僕の物だよ』的な理由?」

「はっはぁ、何を食ったらそんなイカれた感想に落ち着くんだい? 普通は犯人の異常性に震えるところだろうが」

「スーちゃん様、この館で『普通』を求める方が悪いですわ」

「それもそうか」

「犯人はどうして心臓を持ち去ったんだろうね?」


 そこは否定して欲しいところだ。けれどこれも日常茶飯事なのか、ユランさんは抗議の声ではなく疑問の声を上げる。しばしトマトの卵とじを咀嚼(そしゃく)しながら考え込み、私は口を開いた。



「……恐らく魂核を持ち去るためでは?」

「魂核を?」



 魂核、それはこの世界に生きるモノ全てが持つ生命エネルギーの源だ。それが身体の何処にあるのか不思議と未だに解明されていないが、世間的には心臓にあると信じられているらしい。そういえば隣国の幸国では、心臓は魂核と身体を繋ぐ楔のようなものだと言われているんだっけ?


 真偽のほどはさておき、犯人がスキルを使って殺害しているとなれば魂核を持ち去ろうとしてもおかしくはない。私の言葉にスーサ様は指を鳴らした。


「成程ね。スキルによっては他者の魂核から生命エネルギーを奪い発動するものもあるし、犯人がそのスキル持ちであれば可能性は高い」

「で、でもその性質って『異質』レベルだから存在しないんでしょう?」

「何万人の一だっけ」


 ようやく心臓から立ち直ったのかミヅカさんが言った。ネブリムカさんも同意し、それを見た彼女は深く。深く、頷いてみせる。


「そうだ、つまりこの時点で犯人は絞られる。そして散りばめられた数々の欠片から判断するに、犯人はアタシの知る限り1人しかいない」


 王女にしてはしっかりとした、少し武骨な指が――優雅にカップを傾ける、リルハさんを差す。



「つまり犯人はアンタだ、リルカハート・ヤノカ」


ここまでお読みいただきありがとうございます!

犯人はまさかの住人……!?


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