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9.ドラゴン少女


 結論から言うと、ユランさんは()()()()だった。



「噂の入居者が到着したよ、ユラン」

「あぁ、それはよかった!」



 本物を見るのは初めてだ。立ち上がりつつガーデンハットを脱いだ少女をまじまじと見てしまう。毛先がオーキッドの黒髪はまるで鱗のように光沢があり、くすんだ黄金色の瞳は縦長瞳孔。パッと見はエリュシュカさんの次に幼いが、ドラゴンであることを考えると実際は年長者だ。基本ドラゴンという種族は人との関わり合いを避けているらしく、人前に出ることすら稀らしいが……。


 流石は異質集いしシェアハウス。

 私の感想など知る由もなく、クナトさんがニコニコしながら告げた。


「マドイさん、彼女はユラングウェル・ジェラルド・ニドヴォルグ。カグの上階に住んでいる住人だよ」

「初めましてディアフレンド、この館ではユランと呼ばれています」


 園芸用の手袋を外し、彼女は握手を求めてきた。

 おぉ、やはり年長者(予想)とだけあって一つ一つが落ち着いて見える。応じつつ手の甲とかに鱗がないかと確認してみたが、()()()と綺麗なお手々だった。


「ユランさんは何のドラゴンなんですか?」


 気になったので聞いてみると、彼女は瞠目して私を見た。

 あれ、もしかして秘密にしていたのだろうか。周囲を伺ってしまうと、同じように瞠目したクナトさんが口を開く。


「あれ? マドイさん……どうして彼女がドラゴンだと?」

「……あー、なんとなく?」


 かぐやさんも口を半開きにしている辺り、初見で見抜く人はいないようだ。おっといけない。取り繕っておき、あくまで『まぐれ』だと主張する。


「ということは、ユランさんはやっぱりドラゴンさんなんですね」

「……えぇ、他国で『毒龍』の名で慕われていました」


 功を奏したのかはさておき、ユランさんはニコッとすることで不問にしてくれた。

 本当に慕われていたのかは不明だが。毒龍、なんだか素敵な響きだ。もっと詳しく聞こうとするも、エリュシュカさんが意外そうな顔で言う。


「めずらしーのね、ユラン? アナタが簡単にしょうたいを明かすなんて!」

「今後とも末永くお付き合いをされる方だからね、いつ言っても変わらないかと思ったんだ」

「いや、ユランちゃん。俺に対してはけっこー経ってから渋々言ってたよね?」

「3日前だったかな?」


 割と直近だ。再び微妙な表情を浮かべたかぐやさんに対し、ユランさんは心なしか冷ややかな目を向ける。



「だってカグ、口軽いじゃないか」

「ブハッ」



 どうやら図星だったらしく、彼は吹き出すように笑った。彼にナイショ話をするのは止めた方が良いらしい。私もつい呆れた表情を浮かべてしまう。


「やーめーて、飲んだら記憶がトぶの。トんじゃうのぉ……」

「記憶失くすくらい飲むな、まず」

「それで軍事機密レベルの情報を笑いながら喋るんだから恐ろしいんだよ。聞いたクナっちゃんも『知ってるー』とか言うのも恐ろしいけど」


 2人にジト目を向けたあと、ユランさんは再び私の方を向いた。


「あぁ、もしケガとか具合が悪くなったらボクの所に来てくださいね。応急措置程度だけれど、一通りの薬は揃っているから」

「薬?」

「ユランの血はねぇ、おくすりになるのよ! どんな毒ぶつもサッパリなんだから!」


 バンザイするエリュシュカさんはまるで自分のことのように誇らしげだ。そういえばスクールの授業で、ドラゴンの血は()()()使えば薬になると先生が言っていた気がする。ドラゴンの血ってどんな味がするんだろう。フルーツみたいに甘くないことだけは確かだ。


「ありがとうございます、そうさせていただきます」

「うん、遠慮しなくていいからね。ただし恋幸三男児はダメ、今度『二日酔い』の薬ねだったら丸呑みするから」

「さり気なくネブ巻き添え食らってんのおもしろ」


 沸点が低いのか再びかぐやさんが笑い声を上げていると――軽やかにヒールを鳴らしたリルハさんがやって来た。


「あらカーグンちゃん様、何がそんなに楽しいんですの?」

「リルハさん、さっきぶりです」


 小首を傾げる姿はお人形さんみたいだ。私の声に彼女はすぐさま顔を向け、蕩けるような笑みを浮かべる。


「まぁ、早速お名前を憶えていただけるなんて光栄ですわ! えぇ、折角マドちゃん様が入居されるんですもの、歓迎パーティーでも如何かしらと思って」

「歓迎?」

「あっ、それいいね!」


 間髪入れずにクナトさんは手を打った。一拍遅れてユランさんやエリュシュカさんも手を合わせて頷く。


「確かに久しぶりの入居者だし、ナイスアイディア! 盛大にやらないとね」

「リルちゃん、天才なの!」

「賛同を得られて良かったですわ。ではカーグンちゃん様、早速お買い物に行きましょう」

「荷物持ちね、オケ」


「マドイさん、楽しみにしてくださいね!」


 私の手を握り締めたクナトさんが笑顔で言った。まさに純粋無垢ともいえる表情に何も言えず、取り敢えず頷く他ない。


 私……歓迎されることは何もしていないのだが。戸惑う私を他所に、彼等は意気揚々と準備を始めたのであった。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

「面白い」、「続きが読みたい」と思った方は、是非ブックマークや評価などよろしくお願いいたします!

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