♡『喜怒愛楽』♡
襲撃から2日が経った。変化したことと言えば、沢山あるけど何と言っても
お城が本当に建った。
ヨシミちゃんやラクちゃんが言うにはお城というより工場だって。私には馴染みの無い言葉。
襲撃の後、ヨシミちゃんとラクちゃんは知らない言葉を使って会話していた。外側だと皆知ってる言葉らしい。一応、イカリちゃんも外側の人なんだけど所々分からない言葉があるみたい。
そうだ。変わったことと言えば、サカッナがいなくなってからお魚さん達がどんどん弱っていった。貝とかエビとかはムッシーが無理して面倒をみてくれるみたい。だけど、お魚さん達の食料を安定して供給しようとすると、何処かの食料を減らさないといけない。だからヨシミちゃんの言う反芻動物っていう動物達から食料を極力減らし、色んな妖精さんと話して本当に必要な生物に食料を集中させることにした。他の生物には最低限しか与えない。しなきゃいけないのは分かるけど、納得できないよ。
「あの白い女は本当にアイのお姉さんっシャ……。」
ドッシャに言われたことは結構衝撃的だった。名前はチエっていうらしくてこの村の『死』への捉え方が気にくわなくて出て行ったって。実際に、ラクちゃんやヨシミちゃんにも驚かれた。ヨシミちゃんは自然のことをよく知ってるからすぐに納得したけど、ラクちゃんは全然に腑に落ちてない様子。
この村における『死』は生まれ変わることを意味する。妖精さん達がいて、生命を循環させてくれてるから、こう考えるのは当然だってヨシミちゃんは言ってた。外側だと生命は一度きりなんだって。まぁ、アニマッルがいない今、私達の生命は一度きりなんだろうけどね。
両親は私の出産の時にこの村から出て遠くの病院に行ったみたい。だけど、この村に私を連れて帰ってきたのはお姉ちゃん。お姉ちゃんはこの時に妖精さん達に自分のことを明かすのを口止めしたらしい。謎だ……。
謎といえば、やっぱりヘッビや滅亡論信者のことだね。皆で頑張って整理したんだけど、どうもしっくりこない。
まず、未来では戦争があってて、このままじゃ滅びる。だから過去から資源を得て、その資源を活用して滅亡論信者に逆転勝ちしようとしてる。だけど滅亡論信者に邪魔されてるから、エモーショナルセイバーの力で抵抗してるってわけだ。
ただ、ヨシミちゃん曰く、おかしいらしい。政府はお姉ちゃん同様に今の文明が滅びるから別の文明に行くって言ってて、それに対する準備も沢山されていて、そこには大量の資源が投入されている。つまり、資源が必要なのであれば、資源カツカツになったこの時代ではなく、沢山の資源があったさらに過去か、今よりも資源があるであろう移動後の時代を狙う筈。
でも、これにはヘッビから反論があって、滅亡論信者に取り憑かれたお姉ちゃんの発言が明らかに権力者のものであることを根拠に、そもそも国民が騙されているんだって。
これを聞いて、ラクちゃんやヨシミちゃんはかなり動揺してた。ヨシミちゃんはまだ疑問を抱いてる。別文明への移動は全世界共通で動いてるからヘッビの主張が正しければ今、全世界の人間とは言わないまでもかなり多くの人間が騙されていることになる。最も納得がいかないのはどうして文明を移動させるのかということ。このまま行けば今の文明は資源が枯渇し確実に滅ぶ。だけど別文明に移動したら多分そっちの資源を活用して生存することが可能。滅亡論信者は生存確率が高い方に誘導している。また、資源を枯渇させるのが目的なのに、何故この村の自然を暴走させるのか。暴走なんてさせたら資源は無尽蔵に増えるだけ。滅亡論信者の行動にヘッビの理論が当てはまらない。こうなって来ると疑わしいのはむしろヘッビじゃない?
と、この2日間ヘッビを除いた皆で結論づけた。でも、これだとまるで滅亡論信者の方が正しいみたいで釈然としないんだよねぇ。
あと、個人的な疑問なんだけど、エモーショナルセイバーになった時、何故か私だけずっと私服なんだよね。皆はカッコいい衣装に身を包んでるけど、私はTシャツの時とかあったからね!憧れちゃうなぁ。それに、エモーショナルセイバーにはそれぞれ何かしらのデメリットがあるんだけど私にはそれが無い気がする。ラクちゃんは楽しみで見えるべきものが見えない。ヨシミちゃんは喜びの為に努力するから変身解除後にすごい疲労が襲ってくる。イカリちゃんはあくまで推察だけど、傷つけることしかできないんじゃないかな。戦った後、悲しそうな顔してるし、1人だけ浄化技持ってないし、なによりショクブッツが燃えたままだった。これだけ証拠があればなんとなく分かるよね。でも私はそういったものが1つもない。あるいは気付いていないだけなのかもしれない。
♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡
大木の家から出て、行く当てもなくブラブラと歩き回る。今日はイカリちゃんも用事があるみたいだし、暇だぁ。川を少し越えた所にドッシャから土壌について勉強しているヨシミちゃんがいた。
「朝はこれくらい勉強してもらえば大丈夫ッシャ。今度は昼から始めるッシャよ。」
「分かりました。ドッシャ先生。」
ヨシミちゃんがドッシャから離れていく。勉強が終わったのかも。
「お〜い。ヨシミちゃ〜ん。」
手を振りながらヨシミちゃんの方に走る。手にノートとペンを抱えていて、本格的だ。
「偉いね。勉強なんて。」
私も自然について少しは教えられたけど遊んでばっかりだったからなぁ。ノートにも落書きくらいしか残ってないや。
「元々、興味があることだもの。次から次に新しいものに触れれるから、とても楽しいわ。」
勉強が楽しいだってぇ!?私は退屈なだけだったけどなぁ!
「ところで、アイちゃん。あなた今日で20歳のお誕生日だったかしら。」
「あ、そうだった。」
今日まで色々大変なことが多かったけど、そう言えば今日は私の誕生日だ。
「ちょっと、難しいことをするのだけれど、付き合ってくれないかしら?」
「いいよ。どんなことでも!」
「ありがとう。」
そう言って、ノートの真っ白なページに私達の年と起きた出来事を丁寧に書いていく。どうやら時系列を整理するらしい。
まず、年だ。私が今日で20、イカリちゃんが16、ラクちゃんが27、ヨシミちゃんが32、他にも、ヨシミちゃんのお母さんが当時34、ラクちゃんの弟が当時4といった具合。私のお姉ちゃんは不明だから書かれてない。
最初はヨシミちゃんのお母さんとラクちゃんの弟、シン君、そして私のお姉ちゃん、チエの失踪。20年前。だから当時、私は産まれたてホヤホヤ、ラクちゃんが7、ヨシミちゃんが12、イカリちゃんは産まれてないね。多分、この段階で滅亡論信者は過去に来ている。ちゃんとした理由はないけど3人共、同じ年に失踪するなんて滅多にないと思う。
2番目はイカリちゃんがこの村に来た。
11年前。当時イカリちゃんは5歳。そう言えば、イカリちゃんの家族関係ってはっきりしないんだよね。本人もいないとしか言わない。流石に無理矢理聞くなんてできないし。
3番目は新しい発見なんだけど、別文明移住計画とアニマッルの失踪が同時に起こったの。10年前だね。当時、私は10、イカリちゃんが6、ラクちゃんが17、ヨシミちゃんが22になる。いやぁ、この頃は村も大パニックだったね。次々に動物達が倒れていくから、どうしたらいいか分からなくて戸惑っていた所にドッシャが的確な指示をくれて、今の体制を整えてくれたんだよね。一方、外側も大パニックだったみたいで、殆どの人が各国の政府に不信感を抱いたんだって。でも、時間が経つにつれて裏付けがどんどん出てきて本当に滅びるかもっていう国民感情を煽ることに成功したみたい。
そこから、現在に至るってことになる。襲撃回数は計4回、全て目的が分からない。
「ふぅ〜。なんとか纏まったわ。改めて、ありがとうね。アイちゃん。」
ヨシミちゃんはノートをパタンと閉じて、一息つく。
「これで、政府と滅亡論信者の関連が強固になったわね……。ヘッビは確かに怪しいままだけど、主張に信憑性が出てきたと言えるわね。」
そうだね。ヘッビを疑ってばっかじゃ駄目だ。何かを疑うんじゃなくて、何が真実かを見極めないと。
「私も、ヘッビは嘘なんかついてないと思うんだ。皆を助けるのに必死なんだよ。」
私は空を見上げて、自身一杯に言い放つ。すると、ヨシミちゃんは苦笑して
「それは信じすぎよ。あくまで、信憑性が出てきただけ。ヘッビへの警戒は変わらないわ。」
私と正反対の意見を出すのだった。
ヨシミちゃんと別れて、またブラブラし始める。
「昨日まで元気いっぱいに泳いでたんだけどなぁ……。」
水草だけが漂う浅瀬の川を見ると悲しさが溢れてくる。
しばらく歩くとお花や草で満ちている広場に出た。ここは虫さん達にとっては楽園で、毎日多くの虫さんが休憩したり、散歩したりしている。虫さん達のデートスポットとしても有名!
現在、そんな楽園に1人の女性が虫さんと楽しそうにじゃれあっている様子を確認することができる。ホントに私より年上なのかなぁ、ラクちゃんって。ラクちゃんには度々そう思わされることが多い。
まぁ、虫さんと仲良くなってくれたのは素直に嬉しいけどね!
「お〜〜い!ラーークちゃーーん!」
手を大きく振って、大声で呼びかける。しかし、ラクちゃんは振り向きもしない。それほど夢中なんだ。
「可愛い女の子じゃないかあああ!うおおお!」
思いっ切り走って、ラクちゃんと虫さん達の間に突っ込む。
すぐさま、手を高速で動かし、私だと確認される前に
「ハイッ!一丁あがり!」
出来立ての花冠をラクちゃんの頭の上に載せる。ピンクや白、黄色の明るいお花が緑色の髪と相まって、なんだか
「なにこれ!めっちゃエモい!」
ん?え、エモ……?ナニソレ……。
「アイ!エモいを知らないブツね!エモいはエモーショナルな時に使う言葉ブツ!」
「エモーショナルって何?エモーショナルセイバーのこと?」
自信満々だったショクブッツの様子が次第に固まっていく。てか、ショクブッツもいたんだ。
「ハッピー!でファニー!でラッキー!なことだよ!」
今度はファニーって何ーー!
ラクちゃんの助けが助けになってないよ〜!
「まぁまぁ、あたしもよく分からずに使ってるから意味なんて考えなくていいよ!雰囲気、雰囲気!」
何その結論!もう滅茶苦茶だよ。
「でもブツ、確かにエモーショナルセイバーってどういう意味ブツかね……?」
ショクブッツに有るまじき真面目な疑問。実際、私も疑問。
「セイバーだったら分かるよ!弟が見てたアニメにセイバーって子がいたの!それで、いかにも剣士って感じだったから、多分剣士でいいんじゃないかな?」
「なわけ、ないヘビ!!!!」
うわっ、初めてヘッビの大声聞いた。
「エモーショナルセイバーは感情的な救世主って意味ヘビ!村にいたアイとショクブッツが分からないのはまだしも、2600年代の社会を生きてるラクが分からないのは大事ヘビ!」
笑いながら誤魔化すラクちゃん。そんなラクちゃんを横目に私は疑問を抱いた。
「ねぇ、ヘッビ。なんで、そういう意味の名前にしたの?」
感情的な救世主。多分、感情で助けるってことなんだろうけど、希望を託すならもう少し強そうな名前の方がいい気がする。
「ヘッビ自身を投影したからヘビ。過去に希望を託しても勝算は極めて少ないヘビ。でも、ヘッビは託すことに決めたヘビ。これはヘッビが希望という感情論を信じた結果ヘビ。」
つまり、一般論よりも感情論を信じたヘッビを投影したからエモーショナルセイバーってことになるのかな。
「難しいけど、ロマンがあって良いと思うよ!あたしもこの名前好きだし!」
ニシシと満面の笑みをラクちゃんが向けてくる。ラクちゃんの言ったことに対してヘッビは盛大に笑い始めた。
「失敬、失敬ヘビ。英語の意味も分からないラクに好きと言われても笑うしか無いヘビよ。ヘビヘビヘビヘビ。」
「このぉ!馬鹿にしたなぁ!」
馬鹿にされた怒りをバネにヘッビの身体をモミモミ。
よし!私も!
モミモミ。ヘッビはくすぐったいのかずっと笑い続けてる。なんだか、太い蛇って特殊な感触だ。かなり肉厚。
「気は済んだヘビ?」
どれくらいモミモミしてたのだろうか。途中から時間の感覚が失われた気がする。
「うん!ごちそうさま!」
ラクちゃんの発言にヘッビが引き気味に答える。
「な、なんか気持ち悪いヘビね……。」
どちらかというと怖いって感じがする。食べちゃったみたいじゃん。
「そういえば、今日、アイっちの誕生日なんだっけ?」
「うん。そうだよ。ヨシミちゃんにもお祝いされちゃた。皆、覚えてくれてるの嬉しいよ。」
ラクちゃんは自慢気にに笑った後、手をポンと叩いて
「そうだ!誕プレ渡さないと!っても何も持ってないから今から探そ!」
と言いながら、走って何処かに行ってしまった。ホントに元気だなぁ。
♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡
「今日はありがとうございます。」
変身を解除して炎が消えるのを確認する。
「実はムッシーも気になってたムシ。そこにイカリという心強い味方をつけて行けたムシから感謝するのはこちらムシ。」
黒色の身体を白色の羽で包み、地面から浮く。
ムッシーもやはり気になっていたようだ。あの工場が建つまでの間滅亡論信者達は攻撃をしてこなかった。つまり、その間に私達に危害を加える準備をしていたとしてもおかしくはない。だから実害が出る前に叩き潰すつもりで工場に偵察としてムッシーと一緒に行った。流石に内部までは見れていないが少なくとも外部は入り口が豪華な所以外は普通の工場だ。多分、入り口を豪華にした理由は妹、アイちゃんを招き入れるからだろう。そう考えるとおそらく内部も豪華な造りになっているのではないだろうか。
「イカリは気になることあったムシ?」
気になることというより、そもそもの疑問ならある。
「そうですね。やっぱり、あの大きさの工場をたったの2、3日で建造できるものでしょうか?」
確かに私がこっちに来る前から外側の技術進歩は凄まじいものだった記憶がある。店に行くと日々を追うごとに違う商品が置かれ続けていたし、ロボットの技術もより精巧なものへと変わっていった。だが、どれだけ発展したとしてもたったの数日で工場を建てるなんて出来るわけがない。今の技術を知らないのもあって、私の中ではそういう結論になっている。
「向こうにもムッシー達のような妖精がいるムシなら可能ムシ。」
「確かに……その可能性は考えていませんでした……。未来にも妖精はいるみたいですもんね……。」
技術ではなく妖精頼り……。少なくともアニマッルやサカッナ、ミッズには工場を建てるなんて権限はない。だから、別の妖精の存在が介入しているのかもしれない。ヘッビという前例がいるわけだし。
「仮にそうだった場合はかなり厄介ムシ。話し合いで解決できるなら良いムシが戦闘が必要になるとイカリ達は妖精を相手にすることになるムシ。」
妖精にとって私達を相手することはあまりにも簡単なことだろう。工場を建てる程の妖精だ。私が思いつくのは金属系を司る妖精。見たことも聞いたこともないが、そうなったら巨大な金属板や、それこそ工場本体で私達を叩き潰せば一瞬でケリがつく。
「やっぱり、あの人の誘いに乗るのはあまりにも危険ですね………。」
「そうムシね。チエは元々、変わり者ムシ。しょっちゅう皆と口論ばかりして全然なじめて無かったムシね……。それに目的が曖昧な以上あまり乗れたものではないムシ。」
触角をクルクルと回し、過去を思い返すように言う。
…気に食わないから村を滅ぼしたいの……?理由として思いつくのはそれくらいだ。もっと深く考えればさらに思いつくかもしれないが、パッと思いつくのはそれだけ。
「そろそろ、お天道様も下り始めるムシ。今夜やるムシ?」
「もちろんですよ。今日は楽しんで貰いましょう!」
私達は意気揚々と皆のいる家に向かった。
♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡ ♡
「「「お誕生日おめでとう!」」」「ブツ!」「ムシ!」「シャ!」「ヘビ!」
私が家に帰るや否や皆がお出迎えしてくれた。
部屋中、葉っぱやお花が綺麗に飾ってあって、天井にはホタルが整列して並んでいる。その光をタマムシやカナブン、コガネムシ達が反射してキラキラの天井を創り上げている。スズムシやマツムシ達の上品な音色にセミやキリギリスの野蛮な音色の本来は不協和音となる筈の混ざり合いは互いに息を合わせることで耳が幸せな音楽へと姿を変えている。
「あ、ありがとう。こんなに沢山……。」
さらには私の誕生日のために作られたであろう大きなテーブル。その上に私が見たことのない食べ物がズラッと並んでいる。どれも食欲を掻き立てられる香り。
ここまでされるとなんだか、私……。
「え!?アイちゃん!どうして泣いてるんですか!?ぐ、具合でも……。」
あぁ、イカリちゃんが心配して駆け寄ってくれる。でも、そんなんじゃないんだ〜。
「……グスン。わ、私、う れ し い よ ぉ〜〜〜〜!」
勢いよくイカリちゃんに抱きつく。
「わ、わぁ……よかったです!喜んで貰えて!」
「ホント最高だよ!最高!私!最高の誕生日だよー!」
イカリちゃんの頭の後ろで嬉し涙を流しながら大声で叫ぶ。私の誕生日って毎回イカリちゃんが大掛かりなことをしてくれるんだけど、今回のとびきり凄い!
「さぁ、ご飯も冷めちゃいますし、一緒に食べましょう!」
皆も微笑みながら頷いている。
「あっはは。そうだね!こんなに美味しそうだもん!食べなきゃ勿体ない!」
妖精達も合わせて皆でテーブルにつく。
「あっ、その前にアイっち!お誕生日おめでとう!これ、誕プレ!」
そう言ってとってもきれいな宝石を渡し……って、あはは、これ……。
「あはは。君もイジワルだなぁ。」
コンコンと軽く宝石を叩いてやるとガバっと口のように開いて私の体を散歩し始めた。
「えっ!これ虫だったのーーーー!?」
ラクちゃん、驚きのあまり椅子からすってんころりん。ムッシーは静かに笑ってるし。教えてあげなよ〜。そして意外なことにヨシミちゃんも目を見開いて驚いている。
「あれ?2人とも知らない?ダンゴムシって言うんだよ。この子はちょっと希少だけどね〜。」
「見たことも聞いたこともないわよ!そんなダンゴムシ!私も触っていいかしら!!」
珍しく鼻息を荒げながら近づいてくるヨシミちゃん。私の二の腕くらいあるダンゴムシを興味深そうに観察して、ゆっくりと触って「おぉ」と感嘆の声を漏らしてる。これは可愛いというより、研究者みたいだ。
「あ、私からも誕プレよ。そんなに凄いものでもないけれど。」
ヨシミちゃんは包装紙で包んでその上を茎なんかを使って可愛く巻いてるものを貰った。
「開けてもいいかな?」
「もちろんよ。」
茎を切らないように丁寧に解いて包装紙を開く。
「なっ……こ、これは……!?なんて、凄い技術だ……!」
私の目の前に現れたのは赤やピンク、黄色などの暖色のお花が織りなす優雅な世界を表現した押し花だ。いや、器用すぎる!小指の第一関節よりも小さな花も丁寧に扱っている。私も押し花は結構やってるけど、こんなに綺麗なのは出来た例がない。
「ふふふ。お褒めに預かり光栄だわ。」
よし!今度、押し花教えて貰おう!
「あの、私からもです!今回はちょっとアレンジしてみました!」
イカリちゃんからはお洋服。イカリちゃんは毎回、お洋服を作ってくれる。そのお陰で私の服が沢山ある。初めの方はシャツをプレゼントしてくれてたんだけど、どんどん腕を上げていって今回なんて、肩に盾みたいなのがついた………ん?盾?
「アイちゃんは変身後に姿が変わらないので、身を守るために防護服的なものをと思って……。」
うわっ、マズイ。イカリちゃんが失敗しちゃったって顔をしてる!私が困惑しちゃったからか!
「うん。ありがとうイカリちゃん!確かに、今の服じゃ攻撃が当たった時、痛むからねぇ。」
イカリちゃんの顔の色が後悔から心配に変わった。
「痛むんですか!け、怪我とかしてませんよね!?」
イカリちゃんが私の服をめくって怪我がないかを確認し始めた。イカリちゃん心配性な所あるもんね…。
「大丈夫だよ。怪我は全部変身解除後に治ってるから。」
ほっと胸を撫で下ろすイカリちゃん。
「ねぇ、イカリちゃん。これ、着てみてもいいかな?」
「勿論です!是非お願いします!」
上着を脱いで、イカリちゃんの防護服を着る。着心地が今までのと全然違う!長袖で、布地も厚いのに風通しがよくて涼しい。それに、肩や胸についてる甲冑みたいなのの違和感が全くしない!
「特殊な素材とイカリの技術ブツ!」
だろうね。この防護服1枚とっても、イカリちゃんがどれだけ私のことを思ってくれたのかよく分かる。
「ヘッビ達からもあるヘビ!」
そう言って、妖精の皆はきれいなアクセサリーをくれた。
私とっても幸せだ!
「それじゃ、いただきます!」
「「「いただきます!」」」
さぁて、どれから食べようかなぁ〜
ズドン
天井を突き破って黒い影が落ちてきた。その影響で、天井に張り付いていた虫達が雨のように降ってくる。
影はテーブルを叩き割り、卓上の料理を全て地面に落とした。
「エーン、エーン、エーン。」
全身が黒く、腕が長く、目を黄色に光らせた影は赤子の泣き声をあげながら上半身を起こし、周りを見渡す。
そして真っすぐとアイを捉え
「イヒ、アハハ!アハハ!アハハハハハ!ハハハハハハハハハハハハ!」
甲高い女性の声を響かせた。