チエ10
「…あなたの最終的な目的を教えてちょうだい。」
ヒダさんはこっちに来て早々、まだ、迷いのありそうな目で私に聞いてきた。
私の答えで今後の意向を決めるつもりなのだろう。
「この文明の人々を救うことだよ。ヒダさんも信じてくれたでしょ?」
そこに嘘偽りはない。これまで払った犠牲、これから払う犠牲。全て皆を1人でも救う為のものだ。それを今更、変更なんてできようか。
私はそのことをできる限り真剣な眼差しで伝えた。
「……そうよ。そうよね。そうなのよね。あなたは一生懸命。だから私も協力した。まだ、あなたの目的が変わっていないのなら、力を貸さない義理はない………。これでいい。これでいいのよ…。方法はこれしか…ない…。」
言葉を言い終わる前に私に手を差し伸べてきた。よかった。協力の意思はまだあるようだ。
「ただ、1つだけ注意しててね。私は1人でも多く助けるつもりはない。たった1人だとしても助けるってことに重きを置いてるから。」
差し伸べられた手を握って、私の意向を伝えると、途端に静寂が訪れた。
暫くして、
「……あなたはリアリストだものね……。」
と言われたので
「そうだよ。だからさ、早く手術やっちゃお?今なら私も手伝えるからさ。」
と返してやった。
そして、握られる手の強さが突然強くなり、ヒダさんは自分の携帯端末を破壊した。並々ならぬ覚悟である。
♥ ♥ ♥ ♥ ♥ ♥ ♥
ヒダさんと私と研究員さんたちの力を結集して、変態の男性器改造手術は見事、成功した。だがしかし、変態は一向に目覚めない。原因はおそらく、神経毒とオーバーテクノロジーだろう。
まぁ、覚醒しないならしないでやりようはあるのたが。
「彼が目を覚ましたら、多くの人々が犠牲になるのよね……。」
「そうだね。今後の私達にとって人的な生命資源は必要になるだろうし。早めに布石を敷くためにはしょうがないことだよ。」
変態が目覚めたら、次から次に女性を襲わせ、子供を作ってもらう。普通に犯罪だが、オーバーテクノロジーを手にしてしまえば、現代の法治国家に止められる人間ではなくなるに違いない。要するに物理的に捕まえられないというわけだ。
「取り敢えず、次の実験の準備に移るよ。ある程度は調整したけど、可能な限り最大限の効果を狙いたい。そのためにはこいつを超えないとね。」
私の作業台から別の机にヘビに貰った未来の技術の塊を移す。
一見すると赤いボタンが付いたただのスイッチだ。しかし、実際はボタンを押そうとすると、そこに防御膜がかかりボタンを押せない仕組みになっている。
「この膜はそれだけのエネルギーをぶつければ簡単に割れる。でも、多分、これはあくまで最低条件だと思う。だから次の実験で作る防衛兵器にはそれ以上のエネルギーを持たせたい。」
私の説明に首を傾げる研究者達。一応、文明移住についての説明はしたのだが、それとこれを結びつけることが出来ないのか?
「防衛って、何から私達を守るの…?」
代表者みたくヒダさんが声を上げた。
「存在消滅ってやつからだよ。存在証明ができない以上、私達は確実に消されるでしょ。だから、その消滅機構そのものに抵抗したいわけ。」
「でも、その消す方法ってまだ分かってないんでしょ?」
ヒダさんはさらに質問を重ねてくる。
「そうだよ。けどさ、消滅機構の出すエネルギーをこちらの防衛機構が上回ればこのスイッチみたいに赤いボタンを色んな攻撃から守ることができるよね。」
それに、この防衛兵器は常にデータを取得、学習し、様々な防衛機構を自動で備え付けることができるようになっている。まぁ、アニマッルなしでは自動備え付けは不可能なのだが。
また、メリットかデメリットか、防衛兵器の大まかな性能や見た目は実験体の想像力に左右される。ここまでは低下しないというボーダーはあるが流石にそのレベルではやり直す方がいい。
なんとか研究者達は皆納得し、私の指示に従い始める。
基本的には点検や整備、改善が主な作業だ。
暫くすると、1人の研究者から声があがった。
「ちょっとしたことなんですが、アニマッルからのエネルギーが現在、森林内に生息する別の動物にも奪われてるみたいなんですよ。2割は確実に食われてる臭いんですよねぇ。」
自分から提言したくはないのか、ただ、事実だけを述べる研究者。
…そういうことならばやることは1つだ。
「ありがとう。それはこっちで対処しておくよ。」
私はすぐに森へ出た。
対処と言っても、殺すか、生命資源として保存するかの2択だ。研究者が提言したくない理由も分かる。
さて、どちらを選ぼうか。
「自問自答かい?答えは決まっているだろうに。じゃあ、始めるよ。」
そう言ってヘビは周囲の動物達を一箇所に吸引し、口内へ集め出した。まるでアリジゴクだ。
集め終わると、次は瞬間移動でミキサーのある研究室へ飛んだ。
「…このミキサー、後で掃除しないとなぁ…。」
血と肉と骨で一杯になったミキサーを横目に見ながら他のミキサーを見つける。少し小さめだが無理矢理押し込めばなんとかなるだろう。
鳥や土竜、蛇、狸、虫、様々な森に生息する動物が滅茶苦茶に入り混じり、見る人が見れば吐き気を催す光景が出来上がる。
外に出ようとする狸の頭蓋を押し込み、潰すことでなんとかミキサーの蓋を閉めることができた。
「ふぅ。さて、始めようか。」
スイッチを入れると、身動きが取れず足掻いていた動物達の身体が曲がり、切り裂かれ、変形し始める。
人間の時とはまた違った光景だ。なんといっても体毛が血肉とともに回ってくる光景は新鮮で心地良い。
スイッチを止め、ミキサーの下部の取っ手を引く。
そこには予想通りの物があった。
「こいつらも長年お零れを貰い続けてたってわけか。」
質はゴミ共に劣るものの大量のDNAを手に入れることが出来た。
「こいつも防衛兵器に取り入れることができそうね。」
私はそのDNAを持って森の研究施設に瞬間移動し、やることの追加を研究者達に要請し、私は私の作業に取り掛かった。
♥ ♥ ♥ ♥ ♥ ♥ ♥
私を含め全ての研究者達は何日間も寝ずに作業を行い主に改善の方に力を入れた。
お陰様で精度の高い実験結果が得られる可能性が高まったと同時にストレスもとんでもないものとなり、メンタル面もボロボロだ。
そして、あまりの疲労で研究者達が休んでいる時に実験体が到着し、私とヒダさんだけで対応する羽目になったわけだ。
ここまでが20年前の真相である。




