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楽のエモーショナルセイバー!

「そんなの全然、楽しく無いじゃん!」

ダン!と机を叩いて猛抗議されてしまう。明るい緑色の髪で濃い緑色の瞳をした彼女はニシエ ラクナ。ニックネームはラク。僕の彼女だ。幼馴染で、学生時代に付き合い始めた。

ラクは昔からやりたいことをやりたい時にするのがモットーで基本的に人から命令されたことをしたがらない。今回もそうだ。だけど今回だけはさせちゃいけない。それはこの僕、アスハラ ケンが許せないことだ!

「ラク、今回は冷静に考えて欲しいんだ。20年。これだけ探したってシン君は見つかっていない。つまりさ、シンは何処かで幸せに暮らしているか、その………あ、あれでしかない。生きているなら、申請をしてるはずだ。だからラクがわざわざ探す必要なんてないじゃないか。」

シンはラクの弟だ。20年前に行方不明になった。どうも、ツチノコを探すと行ってその日に消えたという。だが、先日、シンに関する情報が見つかって、ラクは探しに行くから家を出ると談判しに来たのだ。

「どうしてその結論になるの!?折角なら3人一緒に行った方が絶対楽しいに決まってるじゃん!」

駄目だ、論点がズレてる。僕は楽しいか楽しくないかなんて話をしてる訳じゃない。だけど、ラクに合わせないと多分、話そのものが進まない。

「確かにそれはそうだろうね。ただ、ラクはその為にいなくなってしまうかもしれないんだ。そうなったら僕は1人だ。悲しいだけだよ。」

「だから生きて帰って来るって何度も言ってんじゃん!」

「シンは帰って来てないじゃないか。ラクにどれだけ自信があってもシンが帰って来てない以上、ラクだって帰ってこない可能性の方が圧倒的に高いんだ!」

僕が声を荒げたことで静寂が訪れた。頼むから納得してくれ……。

「今日はこの話、終わりにして寝よ。」

ラクの方から話の切り上げを要求される。僕としてはもう少し言いたいことが沢山あるけど、ラクがこれ以上付き合わないと言っているんだ。無理に話を戻そうものなら逆効果だろう。

「あぁ。………ラク…どこにも行かないでくれよ………。」

「……………………。」 

沈黙は肯定と受け取って良いのだろうか…。ラクは身を翻して寝室へ向かった。

「もう……誰もいなくならないでくれ……。」

僕だってシンとは仲が良かった。だから突然の別れはとても悲しかった。もう、こんな悲しみは味わいたくない。



翌朝

『ごめんね、ケン。あたし、諦めきれないや。絶対、戻ってくるから待ってて。』

手紙だけが残されていた。

僕は何も考えることができず、その場に崩れ落ちた。


♡  ♡  ♡  ♡  ♡  ♡  ♡


ケンには悪いけど、やっぱり弟を放っておくなんてできないよ。

あたしは携帯端末を頼りにネットで見つけたシンがツチノコを探しに行ったであろう森へ向かう。今の時代、ネット情報の特定はあまりにも容易なった。そのかわり、何処かしこにも検問が設置されてるから、それを超えないといけない。あたしは事前に認可をもらってるから関係ないけど。

「ここね……。なんか不気味。」

4時間くらいかけて森まで来た。あたし達と森なんて普通に生きてたら馴染みのないものだし、不気味に見えるのは当然ちゃ、当然。

森の中に足を踏み入れる。明らかに、森の前とは違う踏み心地に嫌悪感すら覚え始めた。

「えっ、なにこれ……。」

ドンヨリとした森の中を進んでいくと、文字の書かれた看板を見つけた。

『低脳共の巣窟→』

看板に近寄って、汚れを払って読んでみると、そう書いてある。矢印の方角には沢山の看板、木への落書き、ゴミ等が散乱している。でも、そこには人が歩けるような道はなく、無理して渡るなら、草を割っていくしか無いと思う。

「うぇ〜。虫とか出たらヤダな……。」

躊躇したけど、意を決して草の中を進んだ。

『世界滅亡の原因』

『必要とされないおもちゃ』

『SUICIDER』

等など明らかに何かを軽蔑する看板や落書きが多くみられる。 

……あたしに対してか、弟に対してか。そう思えてならない。一度、そう思っちゃうと中々、その考えから抜け出せない。

「キッモ……。悪趣味すぎでしょ…。」

イタズラの域を遥かに超えてる気がする。頭のおかしいオトナなのか、悪ふざけでやったキッズなのかは知らないけど、よくもこんな堂々と来る人に見せつけるように看板を立てきれるね。

草に入って、終始イライラしながら進んでいくと光を見つけた。

「シン……。シン!いるの!」

光に向かって呼んでみても反応はない。絶対、シンはこの光の中にいる。私は確信した。理由なんていらない。

「シン!今、行くからね!……くぁ…。」

ドサッ。

なんだか、めっちゃ眠気が………。



「…………ん……。」

目が覚めて、周りを見渡す。

「何処?」

確か、あたしは森に入って……そっから記憶が曖昧……。んで、何故か見知らぬ草原にいる………。

携帯端末には電波が届いておらず検索機能が使えない。

「う〜ん。異世界?それとも桃源郷?どっちも変わらんか……。」

分からないことは考えない!取り敢えず森を進んだら、ここに来た!だからここにシンがいるかも!よし!これで行こう!

ズンズンズンズン草原を歩く。偶にシンの名前を叫んでみるけど、反応なし。というか、人間の気配もないような……。

ブ――ン。

背後で嫌な音がする。実際に聞くのは初めてだ。あたし達の社会は虫嫌いの人達への配慮で人間と虫は隔離されて生活してきた。こういう歴史は結構前から続いてるから生まれてから死ぬまで実際の虫を見らずに終える人も少なくない。

でも、あたしだって映像でなら見たことくらいある。感想はキモい、ただそれだけ。

「キャ―――――!」

後ろを振り向かずに前に、前にひたすら走る。

ブーン ブーン ブーン

待って!数増えてない!?視界にオレンジ色がちらつくんだけど!?

今度は目を瞑って走る。こうなると何処に走ってるのか分からない。普通にキモいものから目を逸らしたい。

ゴツン!

「痛ッ!」

何か固いものにぶつかって、反動で後ろに倒れる。

あたしはここで目を開いてしまった。

自分が何にぶつかったのか、それを確認してしまったのだ。

オレンジ色で厳つい黒色の目。2本の触角があって顔をクルクルと回しながら口をパカパカと開閉している……。

そしてブーン……。

これ、ハチじゃん。それも、人を殺すとかいうスズメバチなんじゃないの!?にしては大きすぎる!!少なくともあたしの身長より小さいって話だよね!!!

「キャーーーーーーー!!!」

あまりにも大きなスズメバチがあたしを囲むように集まってる。

キモいキモいキモい!

もう滅茶苦茶!あたしは泣きながら奇声を上げることしかできない。

怖いし、キモい。

「もうやだぁーーー!」


「…………ホントに変わってるムシ……。外の人間ムシ?」

急に低音の声がした。人間?でも、語尾にムシって……。

恐る恐る目を開けると、巨大スズメバチ達は消えていてほんのりのと白く光っている神秘的な存在が2足で立っていた。

「虫が怖かったムシ?危害は加えないから、安心するムシ。」

神秘的な存在から声がする。

「あ、あなたは……。」

「先にムッシーの質問に答えるムシ。」

鋭く、より低い声が響く。これは警告なんだ。身体がそう認識する。

「お前、森の外から来たムシ?」

「う……うん。あたしは弟を探しに森の中に入って来た……。」

神秘的な存在はあたしに近づいて触角を自在に操り、あたしの身体の節々に当てていく。本来ならあたしは逃げ出していたと思う。だけど、この時は非常にリラックスしていた。

「お前の弟、血は繋がってるムシ?」

「うん。」

あたしの身体から触角を離して、神秘的な存在は少し下がる。

「なら、この村から出ていくムシ。お前の身体と類似性を持った人間はこの村にいないムシ。」

「えっ……。」

身体に類似性……?う〜ん。弟がいないってことを言いたいんかな…。

「………ごめん。あたし、自分で見るまで信じきれないんだ。」

よし。リラックスしたお陰で本調子が戻ってきた。ここまで来て、今さら引き返せないよ。

「諦めるムシ。この村は最近、ムッシー達が予測できないことが次から次に起こっているムシ。ここにいたら死ぬかもしれないムシ。それに、お前には帰りを待ってる彼氏もいるムシ。早く帰ってあげるムシ。」

さっきの触角であたしの記憶まで確認したの!すごい技術…。それはともかく、言ってることは確かにそうなんだけど!それは楽しくない。折角なら、暗いの無しにして皆で一緒に笑い合って行きたいじゃん。

「諦めきれないよ。あたしは自分がやるって決めたことは絶対やり抜く主義なの。この村に絶対、シンはいる!」

神秘的な存在は触角と頭を回転させて相当悩んでるみたい。

「付いてくるムシ。皆で話合って決めるムシ。」

「あたし、ニシエ ラクナ。ラクって呼んで!」

優しくしてもらったお礼だ。あたしは満面の笑みで手を差し出す。その手を少し引き気味で神秘的な存在の足が握った。

「ムッシームシ。虫を司る妖精ムシ。」

今度はあたしが引く羽目になった。


♡  ♡  ♡  ♡  ♡  ♡  ♡


「私は大賛成だよ。弟さん。シン君だっけ。早く見つかるといいね。」

私は別に迷惑じゃない。守る人が増えてもやることは変わらないんだ。ムッシ―が連れてきた時は何事かと思ったけど、弟を見つける為にここに住みこむって話だし、私とショクブッツは普通に賛成。

「あ、あの、シンさんは私達ですぐ見つけますのでその間、彼氏さんの元へ戻られませんか?」

イカリちゃんやドッシャ、ムッシーは反対派なんだよねぇ。

「う〜〜ん。なんかそれって、あたしがズルしてるように思えるんだよね。大変なことは人にさせて、利益だけ得るっての、なんか嫌じゃない?」

私達は誰も嫌だと思わないと思うけど、なんかラクちゃん的にそんな真似はしたくないっていう気持ちがあるんだろうね。私も分かっちゃうなぁ。

「でもですよ、彼氏さんを心配させちゃってますので……。」

「うん。だから、その心配を吹き飛ばせるくらい楽しいニュースを持って帰らないと!」

イカリちゃん、ラクちゃんの超ポジティブさにお手上げだ。絶句しちゃってるもん。

「まぁまぁまぁ、取り敢えず今日だけでもこっちで面倒みようよ。」

「ショクブッツもそれがいいと思うブツ〜!」

「ショクブッツ〜、アイっち〜、ありがと!」

ラクちゃんが楽しそうに抱きついてきてきた。ショクブッツも一緒だ。最近抱かれるの多いな私。

ふと、イカリちゃんの方を見ると今まで見たことない表情で私達を見てる。

「あっ、ごめん。私イカリちゃん専用なんだ。あはは。」

イカリちゃんの表情に恐怖を覚えた私は急いでラクちゃんから離れた。

すると、ラクちゃんは何かを悟って顔を赤らめ始めた。

「えっ……2人ってそういう関係……?」

「う、うん。そういう関係。」

どういう関係のことかは分からないけど仲がいいし、親友だからね。大体どんな関係にも当てはまると思う。

「ち、違います!私達はそんなことやってないです!私達は相思相愛なだけです!ですよね……?」

顔を真っ赤にして否定するイカリちゃん。私達にも当てはまらない関係なんてあったんだ。

「うん。私はイカリちゃん大好きだよ。」

「はい!私もアイちゃんが大好きです!それ以上の関係ではないです!」

それを聞いて、ラクちゃんは更にニヤニヤし始めた。微笑ましいことだよね。

「そんなことよりもっシャ。誰がラクの面倒を見るっシャ?もう日も暮れ始めたっシャ。」

あはは。ドッシャはいつも現実的だなぁ。まぁ、気になるか。

「勿論、私が見るよ。言い出しっぺだからね。」

「ムッシ―も一緒に見るムシ。ショクブッツは強制ムシが、流石にショクブッツと人間だけじゃ頼りないムシ。」

おぉ。これは心強いよ。虫は植物に次いで多いし、群れるのが得意だからね、何かあればすぐに駆けつけてくれる。

よぉし。新しい生活の始まりだ。


♡  ♡  ♡  ♡  ♡  ♡  ♡


結構、斬新な経験を積めたなぁ。人と自然が共存する集落。異世界でも桃源郷でもない。あたし達の社会にきちんと存在してるけど、外側と関わる必要はないし、あたし達もわざわざ入るような場所じゃないから公にならなかった。そんな偶然が引き起こした場所。

旧時代の料理や携帯端末無しでの生活。ネット上で散々な言われようだったけど、一番居心地がいいのはここかもしれない。

「ここにシンはいるムシ?」

あたしの目の前には不気味すぎる光景が広がっている。ベットに二人一組になって綺麗に並べられている衰弱中の人々。草のシートの上に種類ごとに並べて寝かせられている動物達。

まるで、死体の処理に立ち会っているかのようだ。

「皆が言う通りいないなぁ…。」

アイっちもイカリんも妖精さんもシンのことは知らないみたい。でも、最近不思議なことが立て続けに起こってるから、それと関係があるかもって言ってた。情報が1つ掴めただけでも大きな進歩だよ。

「なら、もう寝るムシ。2人はとっくに寝てるムシ。」

「そうしたいけど、まだ興奮が覚めてないんだ。少し外に出て空気を吸っていいかな?」


「すぅ、はぁ……。」

自然の空気はおいしいなぁ。胸苦しさが全部浄化されてく感じがする。

あたしの周りにはムッシーと警備のための虫さんが3匹くらいいる。にも関わらず、あたしはすごい落ち着きようだ。あたしがここまで落ち着いているのはムッシーが出すフェロモンのお陰らしい。

「………虫、触ってみてもいいかな?」

なんとなく好奇心が湧いた。気持ち悪いのは変わらないけど、それでも一度は触ってみたい。

周りの虫達は頷きあっている。

「虫達は了承してるムシ。あとは、ラクが触れるかムシ。」

周りの虫は多分アリだ。それもあたしの腰くらいの大きさがある。こっちの虫達ってムッシーがいるから大きさも自在なんだよね。

「………し、失礼します……。」

「へぇ、まんまと引っかかった間抜けがいるとはねぇ。」 

あたしの手がアリに触れようとした時、低めの女性の声が響いた。

「誰!うわッ!」

アリがあたしの服を掴んで家まで運んでくれた。そして、自身は元々の位置に戻っていく。ありがたいんだけど、状況が掴めてない。

窓から覗くと、とんがり帽子を被った人物がムッシーに向かって紫色のエネルギー弾みたいなのを杖から発射している。

「取り敢えず、2人に連絡だ!」

2人の寝室に駆けて、起こす。

パリン!

「アアアアアァァァァ!」

2人を起こしている間にガラスが割れた後に低音で迫力のある叫び声が聞こえた。

2人はすぐに起きて、玄関へと走って行った。

「ラクちゃんは家から出ないでね!」

それだけ言われても、分かんな……。

割れた窓を覗いたら、一発で分かった。

黒い羽を3対展開し、6足歩行。6本の触角を自在に動かして索敵でもしてるのだろうか。さらに、あたしよりも大きい。そんな虫が大小様々で沢山の虫達を引き連れ、この家に向かって来ている。

「イヤァァァァ!」

脳が理解した瞬間にあたしは窓から離れた。……冷静になれない!!

もう一度、窓を見るとピンクと赤の光から少女が2人現れて、ピンクの方は複数本の矢を放ち、赤の方は肩から炎を噴かせて突撃している。

カチャ。

家のドアが開く。そこからは巨大な黒い影、アリが姿を見せた。

「終わった…………。」

足も動かない。怖い。あたしは目を瞑って、耳を塞ぎ現実から離れようとした。

瞬時にある記憶が脳内で再生される。 


「恐怖からの克服こそ、我が宿願。生命を繋ぐものの役割なり!」

ツチノコ探し怖くないの?と聞いただけなのに訳の分からない答えが帰ってきた。

「また、アニメの台詞?」

弟はよくアニメや漫画の台詞を口にする。あたしはあまり見ることがないけど弟には惹かれるものがあったっぽい。

「そうだよ。最終決戦時の悪役の台詞。いきなりパワーアップした主人公達に魔王は恐怖を覚えたんだ。でも魔王は立ち向かった。まぁ、結果的に負けんだがな。」

「ダメじゃん。」

「全く姉ちゃんは分かってないねぇ。勝とうが負けようが恐怖に立ち向かうってとこに惚れんだよ。魔王は信じてたんだ、恐怖と対峙することが重要だって。俺も信じてる。恐怖の先に何があるのかは分からんけど、体験自体は人生構成の中で、楽しいものになるに違いねぇって。」


当時は何言ってんだこいつとしか思わなかった。だけど、確かにそうだ。

「こんなの楽しくないじゃん。」

今、アリに怯えてる状況なんて楽しくない。じゃあ、逆説的にアリに怯えなくなったら楽しいんじゃない?

「うおおおお!」

アリに向かって突撃する。ここには生きてる動物が沢山いるんだ。守らないと。それに、この程度のことで怖気づいてどうする。あたしはシンを助けるって決めたんだ!こんなとこで止まっちゃいられない!

走っているラクナを背中から放たれる黄色の光が包む。

光の中、ラクナの首から下と髪は黄色に発光している。始めに首から下が弾け、黄色のインナーがあらわになる。黄色のラインや装飾の入った白銀のアーマーが足から装着されていき、左肩に明るい黄色のペリースが掛けられる。腰は派手な黄金の装飾の入った鞘をもつ剣を装備。そして、髪の光が弾け、元々明るい緑のツインテールだった髪がレモン色のツインテールに変色する。ツインテールの結び目には角のような装飾がなされ、ピアスを装着、最後に目が黄金色に変色し、ラクナを包みこんだ光が霧散する。


「誰かと駆けるワクワクの気持ち!『楽のエモーショナルセイバー』!」


「やあああぁ!」

腰から上に向かって抜剣する。黄金の剣影が閃き、アリが仰向けになる。

アリの足を掴み、家の外へ出る。家全体と自身の足元に盾を召喚して、家を守りながら、足元の盾に乗る。

アリは仰向けのまま立ち直りそうにない。

「アイっち達を助けなきゃ!」

盾と光速でアイ達の元へ向かった。


戦況は良いとは言えないものだった。

空中では飛べる虫達が飛び回ってチョウやガが鱗粉を撒き散らしたり、ハチやトンボ等が定期的に攻撃を加えたりしている。もっと酷いのは地上だ。地上は巨大かムカデやカマキリ、バッタなどがうじゃうじゃ跋扈ばっこしている状態でアイやイカリはショクブッツやドッシャの力を借りながらなんとか持ちこたえている。といっても地上の虫をイカリが蹴散らし、空中の虫をアイが撃ち落とすということ以外できていないため、このまま行けばジリ貧待ったなしだ。

「皆が負ける前にあたしがかしらをやらないと!」

周りを見渡すと、月まで届くんじゃないかと思えるくらい高い所からひたすら卵を落とし続けている虫を発見。

「あれだ!」

あたしは一気に上空に上がって、かしらを叩く!

「あれ?」

見事に空振った。あたしの速度に気付いてるっての!?

「アアアアアアアアァァァァ!」

背後からの低音に気付いて、急いで距離を開ける。

「あっぶな〜。」

虫は前足を鎌へ変形させて、空を切り裂いていた。

思わず、冷や汗が出る。そう言えば、あたし今、タイマンだ。ヤバい。緊張感半端ないって。

「でも……何か楽しい!」

あたしは懲りずに自分から仕掛ける。

当然、避けられて背後を取られる。

「だから!」

あたしの背中に盾を召喚し射出する。

「イイイイイィィィ!」

「当たった!」

怯んだ隙に触角をまとめて切り落とし顔面に剣で一刺し。

これで、終わるものじゃなかった。

「うわぁぁ!」

触角がすぐに再生し頭をブンブンと振って、あたしを払い除ける。

あたしは体勢を崩して隙が出来てしまった。

虫は六本の足全てを鎌に変えてここぞとばかりに襲ってくる。

あたしは盾を六枚展開して、距離を取る。

パリン

間一髪の所で避けることは出来たけど、盾は全て割られてしまった。

「マズイ………。す、スピード勝負で懐に潜り込むしか……。てか、火力が足りない……。」

火力ならイカリんしかいない。なんとかしてイカリんの元に連れていけば勝機はあるかも。

今度は虫の方から攻めてきた。糸を全身から放出し、背中から鋭利な突起物を生やして突進してくる。糸は盾でガードできるけど、突進は多分無理。

ただ、ここで避けたとて勝機は生まれない。攻められるんなら、攻め返すんだ!

ぶつかるギリギリで虫の腹側に移動して、胸から腹にかけて切り刻む。

「イイイイイイイイイイィィィ!」

すぐさま虫は体勢を整えて、もう一度突進を仕掛ける。今度は多分読まれてる。

「次で決めるしかない!」

突進に合わせて、羽側に移動、胸と腹の間に剣を突き刺し、足元の盾を巨大化して下降する。問題は空中を飛んでいる虫達だ。集中攻撃なんてされたら、たまったものじゃない。これに気付いたのは下降中だ。

「耐えるしかない…耐えるしかないんだ!」

そう思っていると、下から弓矢が放たれてあたしの周りの虫達を落としてくれる。アイっちだ!すごい、あたし何も言ってないのに。

「ありがと!アイっち!」

聞こえてるかは分からないけど取り敢えず。

「イッカリーーーーーん!!!」

灼熱の炎を纏った斧が虫を襲う。虫は地面に叩きつけられて、身体が燃焼し動くことができていない。

「エンジョイブレード!」

黄金の剣はさらに光を纏い、虫を一閃する。その切り口からは光が溢れ、黒く染まった虫の身体を炎と共に浄化していった。

同時に虫達も行動を止めて、居場所に帰ったり、残って姿勢を低くしたりするようになった。

ひとまずOK。うん。なら、あたしはやらなきゃならないことをする。

「ねぇ!そこのずっと突っ立ってるあんた!シンのこと知らない?」

とんがり帽子で杖を持ちムッシーを襲ってた人。ずっと見てるだけで何もしようとはしなかった。

「口の利き方に気をつけな。年長者に対する質問の仕方じゃないだろう。」

何こいつ。腹立つ。

「すみません。シン君って子を探してるんです。もし、ご存知なら教えていただけないでしょうか?」

「そっちの赤い娘は礼儀がなっとるね。この娘に免じて答えてやるさね。」

あたしが反論しようとしていたところにイカリんが丁寧な口調で質問した。

「シンとやらは、あのアニメ好きの小僧のことだろ?そいつのことならご存知さ。ヘッヘッヘッ。」

それだけ言って塵になって消えた。

「は?それだけ?」

マジであいつムカつく!!!

折角いいことしたのに、あいつのせいであたしの気分は最悪になったのだった。

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