策略
さっきの怪物は壊れた機械が誤作動を起こし、過度なエネルギーが隔離中のアニマッルに流れた結果生まれたものだ。
あれほどエネルギーが流れてしまっては私達では手のつけようがない。
それをアイが一瞬で仕留めた。
そして…
「勝ったってどういうこと?」
高度文明生命体が放った一言。
アニマッルの死はどちらかというと私達にとっては不利な要素だ。この文明のテクスチャーではアニマッルが死んでしまえば、じきに私達も死ぬことになる。
それを、こいつは勝ったと言った。何のつもりなのだ?
「聞かれてしまったか。何。君達の目的はもう果たされただろう。なら、君達には関係ないことさ。」
ヘビは答えをはぐらかそうとしてくる。とはいえ、聞きたださなければ私にも収まりがつかない。
「関係ないなら、教えても問題ないよね?さっさと口を割ってくれないかなぁ?面倒なんだけど。」
「………お金が貰えるのさ。君達の文明、世界線というべきか、そこの生命が全滅するわけだからね。簡単に言えば国から貰える御香典みたいなものさ。」
それでも、まだ疑問が残る。生命が全滅すると言っても虫や植物は滅びないはずだ。それに、虫なんて人間の何倍も生息している。これで滅んだとするにはやや強引ではなかろうか。
「成長性がないのさ。君達が別文明に行った後にはね。虫であっても植物であっても水がなければ生きていけない。この文明に残る生命の祖はあと土の精のみだ。そして土も水がなければ枯れ果てる。そうなれば生存可能な生命体が極端に減るし、何より文明レベルが全く上昇しない。それどころか下がる一方だ。」
長々と話されたが要点は最初の一言目だ。生存数の減少が確定した生命体だけでは文明レベルを下げることしか出来ない。これでは文明そのものが死んだと言っても過言ではない。多分、こういうことだ。
「理解が早いね。流石だ。勿論、そんな文明でも続くこと自体は可能だ。しかしながらね、倫理委員会があまりにも非人道的な行いだと苦言を呈したわけだ。そして『一定以下の文明レベルに減少が見込まれる文明は安楽死を実行し、その文明の持ち主に今後得られたであろう見込利益を還元する』という文明の扱い方が可能になったんだ。これが、僕の狙いだね。」
こいつがサラッと言った一言に私の耳は過剰に反応した。
「ねぇ、私、続いていけるなんて聞いてないんだけど?」
今のままの文明でも続くことは可能。こいつは間違いなくそう言った。だったら、これまでの私の努力は何の為のものなんだ。
「答えなよ。」
花束の形を模した鈍器を生成する。
「そ…」
ガンッという音とともに鈍器が振り下ろされる。地面に穴が開き、逃げた標的を叩き潰す為に鈍器は持ち上がる。
「あんたの自己満の為だけに私達の文明をぶっ壊すって言うのッ!この裏切り者!」
地面の至る所が崩れ、ヘビの逃げ場が徐々に狭まっていく。
「なら、考えてほしい。」
焦る様子も見せず、ヘビは避けながら淡々と会話を続ける。
「文明の所持は主に購入費用と維持費用がかかる。だとしたら、商品価値の無い文明もただ捨てるんじゃなく、少しでも利益を上げようとすることは至極当然のことなんじゃないだろうか?」
「うるさいッ!」
花束の花の部分から銃弾を連射する。
爆煙が起き、ヘビが何処にいるのか見えなくなる。
「つまり、この状況を招いたのは君達自身ということだ。自業自得だね。」
「死ねぇぇぇぇッ!」
確かな感触を感じ、鈍器の下から赤い液体が飛び散る。
こいつの本体は未来にある以上、私が出来るのはここまでだ。完全に殺すことは不可能。
また、3次元体を生成して戻ってくる前にとっとと別文明に移動してしまおう。
「アイ。行くよ。」
私の声にアイは反応しない。
聞こえていないのか?まぁ、いい。今は時間が惜しいんだ。直接アイの手を取って転移を完了させよう。
「アイ、これ握って。」
直立不動で動かないアイの手を取ってアイ用に作っておいた携帯端末を握らせる。
「よしっ!これでおっけ〜。」
「あなたも哀しいの?」
「え?」
突然の言葉に流石に戸惑う。??カナシイ??どゆこと?
「仲間が死んで、裏切られて、仲間を殺して、独りぼっちのあなたは何も感じないの?」
「そりゃあ、あんだけ騙されてたからね。何も感じないわけないよ。でもね、私は独りじゃ……」
「だよね。哀しいよね。哀しいのは晴らさなきゃ。すぐに楽にしてあげるね。」
極端なアイの考えを訂正する暇もなく、私の脳天は真上から一直線に光線で焼かれた。
さらに四方八方を囲む数珠の玉が容赦なく、私を射抜く。
「これで、哀しくないでしょう?」
私は自分が死んだと気付くこともなく息を引き取った。
「うわっ。今のはちょっと僕も直視出来ないね。そんな笑顔で実の姉を殺すなんて、それでも君は感情を持った知性体なのかい?」
ヘビは言った後に「いや、失敬」と訂正の言葉を述べ
「今の君は『人がいなくなって心細い』という意味に一義的に定義された『哀』という感情以外感じないんだったね。まぁ、それが『哀のエモーショナルセイバー』の副作用だし、しょうがないか。」
と付け加えた。




