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助ける理由

妖精の価値観は千差万別だ。


ドッシャのように理屈っぽい妖精もいれば、ショクブッツのように感情だけの妖精もいる。


だが、細かいところを気にしないのならば、妖精の殆どはドッシャ寄りだと言えよう。


ショクブッツだけが特別変わって見えるのは、植物の仕方なく受けてしまう被害が原因だった。




この村において、死というものは実質的に存在しない。

死んでも魂が別の身体に乗り移るのだ。


その身体を用意するのが妖精の仕事だ。


この際、死ぬというのは身体が壊れて動けなくなることを意味する。

裏を返すと、身体が壊れるまで別の身体には乗り移れないわけだ。


そこを突かれたのが植物達だった。


植物達は道端だけでなく、道の中央、草むらであれば辺り一面中に存在している。


そのため動物達によってしょっちゅう踏まれてしまうのだ。

踏まれて身体が完全に壊れるのならば植物は痛みからすぐに解放され、新しい身体で過ごすことができる。


しかし、実際は余程派手に踏まれない限りは植物達の身体が完全に壊れることはない。

再度、立ち上がろうとし始める。


この間、植物は永続的に痛みを感じる。死にたいのに身体が動くから死ねない。そんな苦しみを常日頃から味わっているのだ。


ショクブッツはこれをなんとかしようとこの村で一番力を持っているドッシャに頼み込んだ。


「無理な相談っシャ。植物を避けて通るなんて他の動物達に迷惑が掛かってしょうがないっシャ。」


まるで、植物が身の回りに存在しているのが悪いと言わんばかりの言い草にショクブッツは腹を立てた。


この時にショクブッツとドッシャは激しい言い合いをしていまい、両者の仲は険悪になってしまったのだ。




ドッシャは有り体に言ってしまえば大地を司るもの。人間にとっては神といえるだろう。

だから、この村では老若男女問わず崇拝もされているし、責任感が強い所を尊敬されてもいる。


そんな生命の祖たるドッシャに大口を叩いたショクブッツへの扱いは想像に難くない。


この村に住んでいるのは感情を持つ人間やその他動物、自然達だ。


ショクブッツや植物は当然、不敬者として迫害されることになった。

わざと踏まれることもあったし、土から追い出されること、無理矢理動物に引き抜かれることすらもあった。


それを黙って見ているショクブッツではない。

植物を踏んだ人間や動物には寝ている間に種を植え付け時間差で苦しめて殺した。


追い出してくる土には巨木を植え付け、根を無理矢理蔓延らせた。


引っこ抜いた動物は頭を引っこ抜いて殺した。


やられたらやり返す。これがショクブッツのモットーなのだ。


そんなことばかりしていると、ショクブッツはさらに嫌われるようになる。


アニマッルやミッズーも仲裁に入ったが一向に解決しない。


アイという女の子は唯一、ショクブッツにも優しくしていたが、アイは皆に好かれていた為、ショクブッツにとっては殺しはしないが、信用ならない相手だった。


そんなある日にイカリという少女が迷い込む。


変わった人間だった。手は繊細だが、力仕事になると誰よりも役に立たない。


この村の人間は多少の差はあれど、殆ど同じくらいのスペックになるようにアニマッルが設定している。


だが、外部から来たイカリは村の人間よりも軟弱だ。

初めの内はドッシャからも大目に見られていたが、次第に責められるようになった。


責任感の強いドッシャはズルという行為を非常に嫌う。皆、同じことを同じようにやるべきで、誰かが誰かに仕事を押し付けるなんてことは言語道断だ。


イカリの場合は自然とそうなる。イカリでは時間がかかる分、誰かがイカリの手伝いをして、作業量を増やさなければならない。


ドッシャはそれが気に食わないのだ。

そして、ドッシャがそのスタンスならば他の動物達もそのスタンスになるのは道理。


結果として、イカリも周りからイジメられるようになる。


その光景にショクブッツは怒りが湧いた。

土をかけられたり、罵詈雑言を言われたり、通行の邪魔をされたり………。


見ていられるものじゃない。


「お前はなんでやり返さないブツ?力がないのなら、ショクブッツがやってやるブツよ。」


「大丈夫ですよ。私が悪いんですから、非難されて当然です。自分なりに頑張ってはいるんですけどね……。」


余計に腹立たしくなった。自分が悪いだって?


「お前、名前は?」


「イカリって言います。」


ショクブッツは今度、イカリがイジメられていたら、やり返してやろうと考えた。多分、イカリは皆を不機嫌にさせないように嫌なことを我慢しているだけ。


だったら、嫌なら嫌とはっきり言える環境にしてやればいい。どちらが上かを示すのだ。


イカリとショクブッツの関係は深まっていった。

アイもイカリの面倒を見ていたが、よく人や妖精に頼られるため、ずっと一緒にいれるわけではない。


だから、基本的に一緒にいるイカリとショクブッツの方が関係性は深かった。


ショクブッツはイカリに裁縫を教えた。器用であれば、さして難しいものでもない。その上、衣服やタオルなどは誰かの役に立つ。

イカリにとっては助け舟となった。


ただ、この関係をよく思わない動物もいる。


ある日、人間の子供達がイタズラでイカリの目の前でイカリが作ったタオルをビリビリに破き、水溜りに捨てた。


イカリは笑って誤魔化していたが、近くで見ていたショクブッツはそうはいかない。


高速で蔓をぶつけて、子供達の身体をバラバラに切り刻んで殺した。


ショクブッツはしてやったりとイカリの方を向くが、どうも様子がおかしい。


「全く。ショクブッツも余計なことをしてくれるマルね……。」


近くにいたアニマッルにショクブッツがどういうことかと問う。


アニマッル曰く、これはトラウマといって強いストレスが掛かった時に外側の人間が起こす行動であるそうだ。


イカリは外側の人間であり、人が死ぬことになれていない。目の前で人が切り刻まれるのを見たら、こういう反応になるのは全くもって当然である。


とはいえ、イカリの場合はいくら外側の人間と言えど症状が重い。


人の死に関する重い過去があるのは確定だろう。とアニマッルは結論づけ今後、イカリの前で人を殺さないようショクブッツに注意をした。


ショクブッツはこの時、初めて自分が悪いことをしたという自覚を持った。

だから、アニマッルによって正気に戻ったイカリに誠心誠意謝罪した。

初めてのことでぎこちなかったがそれでもショクブッツの心はイカリに悪いことをしたという気持ちで一杯だった。


「いやいや、こちらこそ、勝手にすみません。知らないことに対処なんてできる訳ないですから気にしなくて大丈夫ですよ。」


イカリが許してくれたようでなによりだ。


嬉しいのと同時にショクブッツには疑問が残る。イカリをそこまで追い詰める過去とは何なのか。


ショクブッツが疑問を口に出すと、イカリは苦虫を噛んだような顔をする。


「……知らないと対処できないって言ったのは私ですもんね……。どこから、話したものか……。」


声が一段と低くなって、哀愁を込められて、イカリの過去が紡がれる。


それは想像を絶するものだった。この村では考えられないことばかりだった。


ショクブッツの中で常識が変わる。

イカリは強い子だ。

悲観的でありながらも前向きで冷静。


この村であれば、誰にも守られる必要がないのではないかとさえ思えてくる。


それ程、ショクブッツはイカリに感服し、尊敬した。


そんなイカリをこれまで悲しませることのなかったアイもよくよく考えれば凄いのではないか。


そんな風に考え始め、ショクブッツはアイに対する考え方も変えていった。


さらには、ショクブッツは嫌なことがあってもドッシャ以外には手を出さなくなり、他の自然の事情も考えるようになっていった。


こうして、アニマッルがいなくなる少し前からアイ、イカリ、ショクブッツのトリオで生活するようになった。


自分を変えてくれた2人に心から感謝している。


だからこそ。やらねばならないことがある。




目の前からアイ達が消えた時、ショクブッツは植物の権限を他の妖精に譲渡し、考えるより先に彼女達を探しに全速力で工場へ向かった。

 

纏っている草を固めて屋根を突き破る。


イカリが視界に入る



「イカリ!待たせたブツね!」


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