イカリ〜哀愁〜4
「イカリちゃんは普通の子よりも身体が弱いです。おそらく、お腹の中にいた時に何らかのショックを受けたんでしょう。」
「そう……ですか……。」
想定していたことだ。あれだけのことをして影響がないわけない。
全てが裏目に出る私を本当に浅ましく思った。
帰りは付き添いの先生と車で帰った。
先生は私に気を遣わせないように何度も話しかけてきてくれたが、私は曖昧な反応しかすることが出来なかった。
私は仲がよかった友達にはこのことを伝えていたため、私とイカリを見て、嬉しそうにする子もいれば、私のことを心の底から憎む子もいた。
当然だ。大好きな先生と別れる原因を作ったのは私。
まだ、幼い施設育ちの子にとって大好きで信頼していた人が起きた時にいないというのはかなり残酷なことである。
私は久々に自分の部屋に戻り、施設長と今後の方針を打ち合わせることになった。
施設長は酷く憔悴しているように見える。呼吸も以前より荒い。もう、高齢である為このような姿を見せられると心が痛い。
「ごめん、なさい……。」
開口一番に出たのは謝罪の言葉だった。
「若い娘が何を気にするね。にしても、可愛いか女の子やんね。よかったばい。無事に生まれて。」
「………………。」
素直には喜べない…。イカリの見た目もだし。何より、犠牲が大きすぎる。
皆を不幸にしてるのに自分だけ喜ぶのはいかがなものか……。
「そげな不安そうな顔ばせんとよ。親がそげな感じなら、この子も不安そうになるばい。」
施設長はふぅと大きく息を吐いて、手元の水を飲む。
「今んとこ、施設は大丈夫やけん、特に心配することなかよ。まぁ、そげん言ってもこの子につきっきりちゅうのは出来んっちゃけどね。」
施設が大丈夫なわけがない。きっと、今は借金まみれだ。施設長は返済期限を伸ばしてくれるように頼み込む為に色々な所に出向いて、そのせいで……。
申し訳無さで涙が溢れ出す。
「ごめんなさい……ごめん…なさい……。」
「またまた、どうどうどう。」
施設長が立ち上がって私の方にヨロヨロと来て、頭をさする。
私は嗚咽をこぼすことしか出来なかった。
結局、今後の方針は私が取り乱したせいでアバウトなままになり、時間だけがただ過ぎていった。
時間が過ぎるにつれ、イカリはすくすくと育つ。
1歳になる頃にはちゃんと立てていたし、言葉も少しは、理解し、話すことができていた。
そして、先生達の解雇も増えた。それだけでなく、子供達を別の施設やボランティアで養ってくれる人の所に移すといったことも実施され、先生だけでなく友達と離れ離れになる子も出た。
仕方ないと諦める子もいれば私に責任を取って欲しいと懇願する子もいた。
夜、私の部屋に入って私の首を絞めようとした子もいた。
結局、絞められることはなかったけど。
♥ ♥ ♥ ♥ ♥ ♥ ♥
イカリが2歳になると、大体の言葉は理解できるようになった。大分、物わかりがよく、指示したことはちゃんとやってくれる。
先生達曰く、物わかりがいい点と可愛い点は私譲りなのだとか。
2歳と半年を過ぎた頃、施設長が亡くなった。死因は持病の悪化。
施設長は節約の為に通っていた病院に行くのを止め、薬の購入すらも止めていたそうだ。
私が招いた事態…。
とうとう私は大切にしてくれた人を殺してしまうという状況を持ち込んだ。
施設長の死は大きな問題をもたらした。
施設長の代役だ。残っている先生は少なく、とてもじゃないが施設長の仕事をこなしながら、平常業務をするのは不可能だ。
だから、私がやることにした。
責任は私が取る。施設長みたいにはできないかもだけど、先生達に支えてもらいながら業務を執行していけば、大丈夫な筈。
私で大丈夫な筈がなかった……。
次から次に、問答無用で備品の差し押さえが始まり、足りない分の支払いを別の所に借金をして返すということを繰り返すことしか出来ず、施設の子供達にはまともにご飯もあげられない。先生達の給料を払うことも出来なくなり、イカリが3歳になった時に、施設は廃業になった。
それでも、先生が施設にいた子供達の引き取り先を手配してくれて、私とイカリ以外はなんとか普通の生活が送れるようにできた。
「ごめんね。モモちゃんの引き取り先も探してたんだけど………。」
隈がびっしりとできるほど、一生懸命やってくれた最後に残った1人の先生は悔しそうに私に告げる。
「ありがとうございます。それと、こんな結果になってしまってごめんなさい。」
売却した施設を見ながら感謝と謝罪を行う。
「………ねぇ、モモちゃん。私が引き取っても……」
「大丈夫です。先生には私が背負う筈の借金を背負ってもらってますから、これ以上、誰にも迷惑は掛けられません。」
先生はそれならと携帯端末を私に渡す。
「これは、あなた達で生きて行くために使って。先生の連絡先も入ってるから苦しくなったらすぐに頼るのよ。」
「………じゃあ、またね。モモちゃん。イカリちゃん。」
私が何か行動する前に先生は挨拶を済ませて、去って行った。
私とイカリの携帯端末は差し押さえられてるから実際、これはありがたい。
本当に何から何まで、人に迷惑を掛けっぱなしだ。
「ありがとう……ございます……ッ。」
先生の背中に深々と頭を下げた。
♥ ♥ ♥ ♥ ♥ ♥ ♥
「……イカリ…。これからは2人だね…。」
強く手を握り締める。
「おうちはどうするの?」
「安い所探さなきゃね……。」
イカリの言葉に心を痛めながら、施設に踵を返し、真っ直ぐと歩いて行った。




