クソ親父
炎が収まらない。
クソ親父がやっていた一部始終を見ていた私の怒りの炎が滾る。
最早、怒りなんてものじゃない。
殺意だ。もともとあった殺意が、ここに来て炎を燃え上がらせた。
そして、この炎の矛先は同時に私にも向いていた。
クソ親父は斧を甲冑を纏った拳で迎撃するも、斧から発生した爆発を避けきれず、また吹き飛ぶ。
全身から炎を一気に噴出させ、クソ親父に一気に近づく。
できれば、体制を整える前に仕留めたいが……。
「どうなってやがる!てめェらは俺の傀儡になるんじゃねぇのか!?」
チッ。既に体制は整ってるッ…。
ダメ元で斧を振るうもクソ親父は後方へ跳躍して避ける。
「あぁ、また、オーバーテクノロジーってやつか!あのヘビ野郎、どんだけ邪魔しやがる!」
今度は、距離を詰めずに肩から火球を連続で放つ。
火球が地面に当たった時の爆発でクソ親父の生死は不明だが、この程度で死ぬほどクソ親父は脆くないだろう。
だから、反撃に備えて、いつでも斧を振れるように構える。
「娘!魚!俺を援護するか、あのうずくまってる女を殺しやがれッ!」
巨大な魚はゆっくりと身体を起こし、黒い影はアイちゃんに向かっている。
クソ親父から向きを変え、アイちゃんの方に炎を噴かせて駆け、巨大な腕でアイちゃんを回収する。
「イカリちゃん……ごめ…ん…。」
「大丈夫ですよ。私がなんとかしますから。」
「今が攻め時だなぁ!阿呆女ども!来やがれぇ!」
周囲の壁を突き破って黒い影が大量に押し寄せる。
流石に1人じゃ、分が悪い…。
でもッ!やるしかない!
炎を噴射し、空中へ移動する。
狙いはクソ親父。
クソ親父が立っている場所に接近し、斧を叩きつける。
「見切ってらぁ!」
とうとう、クソ親父は爆発にすら巻き込まれなくなった。
時間をかけ過ぎたのかもしれない…。
急いで空中に再び移動しようとすると、足を黒い影に掴まれた。
「ッ!」
私の行動が完全に阻止される前に炎の火力をあげて移動する。
その際に炎が他の影に移ったが、倒れずに動いているため命は大丈夫そうだ。
「あなたも、ごめんなさい。」
斧をアイちゃんを抱えている方に持ち替え、空いた手で足を握っいる影の手を掴み地面に落とす。
「「「アアアアァァァアアアアッ!」」」
1人の影が地面に落ちたのを皮切りに他の影達がジャンプを用いて私達に攻撃を仕掛けてくる。
一発でも受けたら地面に叩きつけられるに違いない…。
攻撃を避ける為に空中を縦横無尽に動き回る。
下を見ておけばどの影が飛んだのかが分かる為、後は感覚で避けることが可能だ。
「貰ったぁッ!」
背後からクソ親父の声と共に私は空中から叩き落とされた。
…完全にクソ親父を目から離してた…ッ!
炎を噴射、炎の圧を利用して体制を立て直し、クソ親父の追撃を阻止しようと火球を空中に飛ばす。
ただ、クソ親父に当たったかどうか確認する前に周りの影達からの猛攻が始まる。
ダメだ、クソ親父を常に把握することができないッ!
影達の攻撃を避けようにも数が多すぎて避ける場所がない。
受けれる攻撃は巨大な腕で受けているが、それ以外の攻撃は私に直接当たっていて、アイちゃんに被害が及ぶのも時間の問題だ。
「ッ!なん…とかしないと……ッ!」
「オウッラ!熱かったじゃねぇか!よッ!」
空中からミサイルのように飛んできたクソ親父を間一髪で避けることができたが、避けた先で影の攻撃を受けてしまい大きく仰け反る。
その隙に影達からお腹にパンチを受けた。
「オブッ!」
痛さでくの字に身体が曲がった所でクソ親父の膝蹴りが顎に直撃する。
視界が暗転し始め、頭がクラクラする。
気を…失いそうだ……。
ダメだ。私がやられたら、アイちゃんが死んじゃう…。
耐えて…私の身体ッ!
視界もはっきりとせず、何もかもが遠のいて聞こえる中、無我夢中で炎を噴かせて、ひたすらに何処とも分からない所に逃げる。
「………あ!」
何かが聞こえる。ぼやけてピンク色の光が見える。
ピンク色の光……?アイちゃん……?
脳裏にアイちゃんが1人で戦っている様子がよぎる。
もし、そうだとしたら危ない。
しっかりしろ!私!アイちゃんが戦ってるのに、私がこんなんじゃ、合わせる顔がない!
気を失いそうになっている自分に怒りが湧いてくる。
何かが燃えた感じがした。
「熱ッ!」
鋭い痛みが走ったが不調はなくなった。
周囲に目を配ると、アイちゃんが私の腕に抱かれたまま、弓矢を放って迎撃している。
でも、顔を見る限りかなりきつそうだ。
「……アイちゃん。その目…。」
綺麗だった黄色の目が今は両目とも光のない真っ黒な目になってしまっている。
以前の戦闘で片目がそうなっていたのは知っていた。原因も推測はつく。
だからこそ、今の状況に危機感と焦りを感じる。
「侵食が速すぎる……ッ。」
今回でケリをつけないとアイちゃんまで黒い影になってしまう。
「イカリちゃん……。もう、降ろしてもらってもいいよ。」
え?
いやいや、駄目だ。このまま降ろしてしまうと確実にリンチに遭う。
「危険です。なんとかして打開策を見つけるので、まだ、このままでいてくれませんか?」
「打開策見つけたんだ。私がこの人達を元に戻して、イカリちゃんが1対1の状況に挑めるようにする。」
無理だと思う。この数の影を元に戻す前にアイちゃんがやられてしまうに違いない。
「無茶ですよ。数が多すぎます。もう少し様子を見ましょう。」
「うん。」
……?あれ?アイちゃんらしくないような。アイちゃんってこういう時大体反論してくるはずなのに…。
…アイちゃんは気分屋だ。気が変わる前に打開策を見つけないと!
ひとまず、影達から離れた所に着地し、状況を確認する。
「ここでいいや。」
何を考えているのか、アイちゃんは無理矢理、私の腕から降りて弓矢を構える。
「あんまり時間無いかもだから、お願いね。」
矢を中心に巨大な魔法陣が形成され、アイちゃんが矢を放つと同時に無数の矢が放たれる。
私は炎を全速力で噴かせてクソ親父を目指す。
アイちゃん、何も分かってなかった。
でも、アイちゃんがこれで勝てるって思ったなら、期待に応えないと!
斧を振り上げクソ親父を空中へ移動させる。
私も空中へ移動。
クソ親父は空中での身動きは不自由。だから、斧を振るわれたら拳で迎撃するしかない。
そうすると、爆発が起きてさらに上空に飛ばされる。
私はそれを見越して、常に加速しながら攻撃を繰り出す。
「クソ!たかが、俺の精子風情がッ!調子乗ってんじゃねぇぇぇ!グワッ!」
クソ親父は遂に天井に叩きつけられる。
これ以上は逃げれない。
だが、クソ親父は満面の笑みで告げた。
「俺の勝ちだな。」
私がトドメをさそうと炎を纏った斧を振り上げた時、急に両足、膝から下あたりに違和感が……
「ッああああああああああああああああッ!?」
痛い痛い痛い痛い痛い痛いッ!
これまでに感じたことのない痛みだ。
あまりの痛さに涙を流しながら、足を見る。
膝から下がない……ッ!?
食べられてるッ!さっきまで動いてなかった魚に足が食べられてるっ!?
「いやぁあああああッ!?」
私は落ち着く暇もなく、クソ親父に肋骨と首の間に蹴りを入れられる。
「オッ!?」
呼吸ができないッ!
苦しい!痛い!痛い!苦しい!痛い!痛い!苦しい!苦しい!
足から黒煙を噴き上げて地面に叩き落とされる。
視界はただでさえ涙で潤んで見づらい上にどんどん暗くなってきて、余計に見づらくなってきている。
「そうだよ!そうなんだよッ!女ってのはそういう表情をするもんなんだよ!いいねぇ!いいねぇ!最高じゃねぇかッ!」
クソ親父が恍惚の表情を浮かべ私に向かって来る。
最悪だ。よりにもよってクソ親父に殺されるなんて……。
ごめんなさい。ごめんなさい。お母さん……ッ。
多分間に合わないだろうが、最後まで抵抗を諦めないために斧を握って持ち上げようとする。が、腕に力が入らず中々持ち上がらない……ッ。
でもッ!でもッ!でもッ!!
「……ッ…ッ……ッ!」
「イカリ!待たせたブツね!」
――天井を突き破って一筋の光が差し込んできた――




