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第一章「地獄の楽園」第4話「影の王」

 翌朝、神崎は外のざわついた声で目が覚めた。ぼんやりとした頭を振りながら宿舎の外に出ると、リュウジが壁にもたれながら煙草をくゆらせていた。

「お前、どうやらお迎えが来たみたいだぜ」

 リュウジの顎が示す先には、屈強な男たちが数人。 昨日、神崎を脅した二人が中にいる。間違いなく藤堂の配下だ。

 彼らは慣れた風で神崎を取り囲んだ。

「藤堂さんが、お前に会いたがってる」

 男の一人が、皮肉めいた笑みを浮かべる。

「へえ、こんなに早くお呼びがかかるとはな」

 神崎は表情を変えず、軽く肩をすくめた。

「さあ歩け」

「まだ顔も洗ってないんだがな」

 神崎はそう答えたが、男たちは答えずに背中をどんと押す。

「こんな朝早く迎えにくるんだったら、せめてパンぐらい持って来いよ」

「余計なことは言うな。変な真似はすると容赦しねえぜ」

 男たちは神崎を囲むようにしながらまた背中を押した。

「……生きて帰れるといいな」

 少し寂しげなリュウジの声が背中から聞こえた。


   *


 神崎は男たちに囲まれたまま、藤堂が待っているという建物へと連れて行かれた。 この監獄の中心部にあるという、古びたが頑丈そうなコンクリートの建物。外見こそ殺風景だが、内部に足を踏み入れた瞬間、空気が変わる。

 天井には簡素だが確実に機能する照明がいくつも吊るされ、壁には古びたが高級感のある革張りの椅子が並んでいた。囚人たちが住む廃墟同然の建物とは明らかに異なる。まるで、この場所だけが“文明”を保っているかのようだった。

 中央には一段高い場所に黒革のソファが置かれ、その奥のデスクには書類が整然と並べられている。

 その椅子に、男が腰を掛けていた。その男が神崎が会いたいとリュウジに言った藤堂だった。年齢は四十代前半。短く刈り込まれた髪。鋭い目つきと、整った顔立ち。彼もまた神崎と同じ囚人であるにも関わらず、服装は清潔で、年齢の割にどこか風格すら漂っていた。

 彼の周囲には、数人の側近らしき男たちが控えている。

「お前が神崎か」

 建物の造りもあるのか、やけに低く響く声がする。

「ああ。まさか早々にこんな手荒い歓迎を受けるとはな」

 神崎は皮肉を込めて軽く笑う。

 藤堂が微かに口元を歪めた。

「お前、何者だ?」

「ただの新入りさ」

「……そうか。だが、ここに来たばかりの奴が、俺のことをずいぶん嗅ぎ回ると聞いたがな」

 藤堂の声が冷たくなる。

「別に。ちょっとした興味本位だよ」

 神崎は平然と答える。

 藤堂はしばらく神崎をじっと見つめていたが、やがて口を開いた。

「お前がもし、この島で生きていたければ、俺のルールに従え」

「それが嫌なら?」

「お前の人生が今終わるだけのことだ」

 その言葉に、側近たちが笑った。

 その時、突然ドアが開いて別の囚人が藤堂の前に連れてこられた。

「藤堂さん、こいつ、配給の食料をちょろまかしてました」

 捕らえられた囚人は必死に許しを乞う。

「違う! 俺は……ただ……!」

 だが、藤堂は静かに立ち上がり、囚人を一瞥する。

「言ったはずだ。ルールを破る者に、二度の機会はない」

 その言葉と同時に、囚人の後ろにいた部下が、その背中から瞬きする間もなくナイフを振り下ろした。囚人の悲鳴が響き、床に血が広がってゆく。

 神崎は冷静にその光景を見ていた。

「さて、新入り。お前もこれを見てどう思う?」

 藤堂が神崎に向かって問いかける。

「……なるほどな。これがあんたの流儀ってことか」

 神崎は表情を顔を出さずに言う。

 藤堂は口角をわずかに上げると、ゆったりとソファに腰を下ろした。

「なかなか肝の座った面白そうなやつだ。お前、俺のもとにつく気はあるか?」

「……どういう意味だ?」

「この島には二種類の人間がいる。俺の側につく者と、それ以外の者だ」

 神崎は静かに藤堂を見つめた。

「それ以外の者はどうなる?」

 藤堂は肩をすくめる。

「さっきの男と同じ運命をたどるだけだ」

 頬をピクリとも動かさずに藤堂が言う。

「随分と単純なルールだな」

「単純なルールほど強固なものはない」

 藤堂の言葉には、確かな自信があるようだ。

「まだこの島に着いたばかりだ。少し考えさせてもらう」

 神崎が言うと、藤堂は薄く笑った。

「いいぜ。その代わり、次に俺の前に来るときは、答えを持ってこい」

 その場にいた男の一人が、神崎に冷たい視線を向けた。

「次は、お前の番かもしれねえな」

 神崎はその男に促されて、ゆっくりとその場を後にした。

 藤堂の背後には、影のような存在感があった。

 神崎は、彼がただの囚人ではないことを改めて確信した。


 宿舎に帰ると、リュウジが壁に寄りかかって煙草をくゆらしていた。

「ほお、生きて帰ってきやがった」

 神崎は苦笑しながら歩み寄る。リュウジから差し出された吸いかけの煙草を受け取って煙を喉に通した。

「どうやら、即死刑にはならなかったらしい」

「で、どうだった?」

「……おもしろい」

 神崎はそう呟き、空を見上げた。

 ——さて、どう動くか。

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