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第55話「最終選別」

「じゃあ、行こうか。ついてこい」

 藤堂の一言で、空気が変わった。背後で控えていた兵士たちが静かに動き出し、神崎たち三人を囲むようにして進路を促した。藤堂はもう二度と振り向かない。三人はその後ろを黙って従った。

 長い通路を抜けると、重厚な扉が現れた。

「ここが、あんたが言う神の中枢か」

 神崎がフンと鼻を鳴らした。

 だが、藤堂は神崎に一瞥もせず扉に近づき、さっき見せたカードをかざすと、静かな音とともにロックが解除され、扉が開いた。

 足を踏み入れると、そこは冷たい空気とともに広がる巨大なホールだった。天井には鋼鉄製の梁が走り、壁には無数の冷却カプセルが並んでいる。まるで生きた人間が保存されているような錯覚を起こす空間だった。

「ここが、中枢か?」

 神崎が言うと、藤堂は振り返り、首を横に振った。

「違う。ここは選別処理区画だ。中枢への立ち入りが許されるかどうか、その適格性を測るための最終選別が行われる」

「なに?」

「EVEが秩序への適合を判定する場所。ここでノイズと判断された者は、削除される」

「中枢に向かうって話だったはずじゃないの?」

 マリアが眉をひそめ、不信感をあらわにした。

 だが、藤堂は顔を見ずに目を伏せて小さく言った。

「それも、EVEの判断次第だ。中枢へ進めるのは――適合した者だけだ」

 神崎は唇をかみながら、床に描かれた円形の誘導ラインに気づいた。そこには、三人分の足場が示されていた。

 藤堂から指示されて、それぞれの位置に立つと、天井のスピーカーが再び電子音とともに反応した。

『監視官・神崎慧。同行者二名の識別完了。選別プロトコル、起動』

 床面に淡い光が灯り、三人を包む。

『対象1・神崎慧。適合率:42.7%。潜脱傾向:高。処分対象』

『対象2・マリア。適合率:41.7%。潜脱傾向:高。処分対象』

『対象3・リュウジ。適合率:39.8%。潜脱傾向:高。処分対象』

「おい、待て……!」

 リュウジが叫んで一歩前に出ようとしたとき、周囲にいた兵士たちが一斉に銃を構えた。

「動くな!」

「処分って……どういうことなの……?」

 マリアが藤堂をにらんだ。

 藤堂が低く言った。

「選別は、EVEによる判断だ。俺にも止められない」

 リュウジは舌打ちした。

「ふざけんなよ……おれが何したってんだ……!」

 その瞬間、EVEの冷酷な声がホールに響いた。

『対象を処理施設へ移送せよ』

 藤堂が無表情で兵士に顎で示した。

「聞いたか。EVEからの新たな指示だ。対象を地上処理施設へ移送しろ!」

 神崎は思わず顔を上げた。

「処理施設だと?」

「ようするに、俺たちは処刑場行きってわけかよ」

 リュウジが吐き捨てた。


 足音を響かせながら、三人は兵士たちに囲まれ、搬送用の昇降機へと誘導される。


 沈黙の中、昇降機はゆっくりと地上へと上昇し始めた。

 金属が軋む音だけが響く。誰も口を開かなかった。マリアは目を伏せ、リュウジは拳を強く握りしめている。神崎はただ、自分たちを包む運命の流れを見据えていた。わずかな揺れが、昇降機の不安定さを伝える。これが自分たちの最期を告げる揺らぎかもしれないと、誰もが思っていた。

 やがて、昇降機が止まり、扉が開く。 そこは神崎が見覚えのある場所に出た。荒れ果てたコンクリートの壁、ひび割れた地面、風に吹かれて舞う砂塵——それは、かつて神崎が地下施設でK-07を見つけた廃墟の建物だった。

 空は灰色にくすみ、まるでこの場所が処刑の舞台として選ばれたことを嘲笑うような沈黙を保っていた。

「そうか。ここはK-07が眠っていた場所の地上だったな」

 神崎は思わず呟いた。

 藤堂が短く言った。

「神崎、残念だが終わらせよう。我々はEVEの意思に従い――」

 だが、その言葉の途中で轟音が響いた。外からの衝撃。爆音。続いて警報が鳴り響く。一瞬間をおいて藤堂が叫んだ。

「襲撃だ!」

 言うが早いか、藤堂は今しがた乗ってきた昇降機に真っ先に飛び込んでいった。兵隊の一人が藤堂の後を追おうとしたが、無常にもその扉は閉じられる。兵隊は慌てて身を隠そうとしたが、襲撃者の銃弾に倒れた。

 残りの兵隊たちは、すべて倒れていた。硝煙の匂いが漂い、弾丸の落ちた音だけがかすかに響いている。

 三人はその場で身を伏せたまま、薄闇の向こうに目を凝らした。煙の隙間で、何かが動いた。

 ──足音。ひとつ。

 誰かが、こちらへ向かって歩いてくる。銃声も、警報も、止んでいた。まるで、その足音だけが残されたかのように。

 次の瞬間、聞き覚えのある声が、静かに響いた。

「よう、神崎」

 神崎は反射的に顔を上げた。視界の中に、黒い影がゆっくりと現れる。黒ずくめの男。懐かしいシルエット。

「……待たせたな」

 神崎は、わずかに目を見開き、そして静かに安堵の息を吐いた。

「司……おまえか」

「また生きて会えたな」

 司がニヤリと笑った。


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