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第51話「秩序の番人」

 端末の表示が明滅を続ける中、冷たい電子音声が室内に響き渡っていた。

『アクセスを確認。監視官・慧。想定到達時間を超過。プロトコルは収束段階へ移行します』

 神崎は身を強張らせながら、表示された文字列を見つめた。

「……監視官、だと?」

 その肩書きに反応したのはマリアだった。

「まるで……あなたが、ここに来ることが前提だったような言い方ね」

 リュウジが神崎に近寄り、画面を覗き込む。

「ってことは、やっぱりあんたはこの島の関係者ってことかよ?」

 神崎は一瞬だけ言葉に詰まったが、

「少なくとも俺は、自分を監視官なんて思ったことはない」

と吐き捨てた。

 そのとき、端末が再び反応を示し、側面の壁がわずかに開き始めた。また隠されていた扉が現れたのだ。その奥には、滑らかな金属で囲まれた新たな通路が続いているのが見えた。

「ここまで来て、この先に、まだ何かあるって言うの?」とマリア。

「どうなるかわからないが、今は行ってみるしかないだろう」

 そう言って神崎が先に足を踏み入れだ。

 その通路は狭く、足元に薄い誘導灯が灯っていた。三人は言葉もなく、慎重にその先へ進むとやがて、視界が開けた。

 そこは、今までの施設とは明らかに異なる空間だった。白い光を湛えた中枢制御区画。壁面には幾何学的な模様が彫られ、中央には巨大なホログラム装置と、円形に配置された操作端末が並んでいた。その中心に、ひときわ大きな柱状の端末が鎮座していた。その上部が淡く光り、静かに起動を開始する。

『接続完了。監視官・神崎慧。最終アクセス認証を確認』

 神崎は思わず一歩後ずさった。

「やはり、俺のことを知っているってことか」

『監視官。あなたは、この島における秩序評価と精神反応数値の観測役として割り当てられました』

 部屋中に機械的な声が響いた。

 リュウジが苛立ちを隠せずに言う。

「意味がわかんねぇ。島に送り込まれたのに、今度は監視役? どういうことだよ」

 神崎は静かに首を振る。

「俺も知らなかった。だが、最初から誰かの意図でここに導かれてたのかもしれないな」

 そのとき、天井のドームから投影が始まった。暗転した空間に、複数の映像が浮かび上がる。拘束された人間たち、歪む意識の波形、そしてそれを観察する記録映像。

 マリアの表情が強張る。

「これは精神干渉の実験記録よ。しかも、国家レベルの認可がなければ行えないタイプの」

 神崎が眉を寄せる。

「じゃあ、やはりここは政府直属の……」

 リュウジが呟いた。

「この島そのものが、国家による実験場だったってわけか」

 映像の一角に、奇妙なコードが浮かび上がった。

《Protocol: EVE》

 それに続いて、冷ややかな機械的な声が響く。

『プロトコル“イヴ”。秩序の番人——次段階への適合判定を開始します』

 三人は思わず、互いに視線を交わした。

 神崎は、胸の奥に広がる言いようのない緊張を飲み込みながら言った。

「俺たち、いったい何を踏み込んじまったんだ」

 直後、ホログラム装置の背後にある円柱型の端末が静かに点滅を始めた。

 すぐさまマリアが端末に駆け寄り、操作パネルを展開する。

「このコード、上位管理レベルにアクセスしてる。もはや通常の施設制御じゃないわ」

 リュウジが辺りを警戒しながら呟いた。

「つまり、島の本当の主が目を覚ましたってことか……」

 そのとき、装置から再び電子音声が流れた。

『監視官の判断を確認中。EVEは最終プロトコルへの移行準備を完了しました』

「いったいEVE——ってのは何もんだ? どこから俺たちを見てやがるんだ」

 神崎は手元の映像に映る、無数の被験者の顔を見つめながら呟いた。

「ひょっとしたら——」マリアが端末のログを見ながら神崎の耳元で囁くように呟いた。「人間にしてはいろんなことが妙に反応が早すぎるのよ」

「それはまさか、人間じゃないって言ってるのか?」

 神崎も声を潜めた。

「わからない。でも可能性はあるわ」

「まさか、AIだっていうのか?」

 マリアが神崎を見つめながら、微かに頷いた。

「いっちょ試してみるか」

 神崎は中央の端末に向き直った。

「おい、EVE……この島における秩序とは、何を意味している?」

 機械の声は即座に応答した。

『秩序とは、統制された意識群の安定。予測不能な行動を排除し、精神波形の平均化を維持することです』

 マリアが目を細める。

「つまり、この島で行われていたのは、やっぱり精神の同期実験で間違いないわね」

 リュウジが吐き捨てた。

「こいつら、人間を機械みてぇに揃えようってのかよ!」

 神崎は一歩前に出た。

「もしそれが、政府の目的だったとしたら、俺は、ここで止めなきゃならない」

 神崎がそう言った瞬間、制御室全体に警告灯が点滅し、重い音と共に外壁がゆっくりと閉まり始めた。

「やべえ」

 そう言ってリュウジが駆け寄ったときには、全てのドアが閉じられていた。

『発言を確認しました。監視官の意思は、逸脱と判断されました——』

 神崎はゆっくりと息を吐き、睨むように端末を見つめた。

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