表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/61

第29話「開戦前夜」

 夜が更ける。島全体が静まり返る中、アジトの奥では神崎、司、リュウジの三人が最後の打ち合わせをしていた。

 張り詰めた空気の中、誰も余計な言葉を挟まない。

「犬どもは、今夜動くはずだ。間違いねぇ」

 リュウジが低く呟く。

「問題は……藤堂がどう動くか、だ」

 神崎は広げた地図に目を落としたまま頷いた。

「向こうも、もう動くしかねぇ。島の均衡が崩れるのを、藤堂は何より恐れてるはずだ」

「だからこそ……藤堂は表には出てこねぇ。やる以上は奴を引っ張り出さなきゃ意味はねえ。奴の手下の動きを見ておけば、藤堂の隠れ家にも近づけるはずだ」

 司の読みは鋭い。リュウジも小さく頷く。

「問題は、どこでぶつけてくるか、だな」

 リュウジが煙草をくわえたまま地図を覗き込む。神崎の指が、地図の一点をなぞった。

「犬どもがまず狙うとすれば藤堂の補給路……ここのはずだ。物資が集まる資材置き場を叩けば、藤堂の首を締められる」

「じゃあ、俺たちもそこに乗る……か」

 司が地図を睨んだ。

「ああ。犬どもに藤堂の注意を向けさせて、その隙に俺たちが藤堂を一気に叩く」

 神崎の声は静かだったが、そこには迷いがなかった。

 リュウジがニヤリと笑った。

「派手だな。だが、もう後には引けねぇ。どうせなら盛大にやろうぜ」

「問題は……タイミングだ」

 神崎は顔を上げ、二人を見た。

「犬どもが動き出したら、すぐに仕掛ける。間違えば、こっちが巻き込まれる」

「任せろ。奴らの動きは俺が押さえる」

 リュウジが頷く。

「司、お前はアジトを捨てる準備をしておけ。どうせ長くは持たねぇんだ。ここの守りに人を割く理由はねえ」

「だな。……わかった」

 司は短く返した。

「で、お前は?」

「俺は藤堂の手下を追う。どこでどう動くか見極める」

 神崎の声は低く、決意に満ちていた。

 リュウジがふっと笑った。

「お前、無茶して死ぬなよ」

 神崎は肩をすくめる。

「まだ死ぬつもりはねぇさ」


 その頃——

 島の裏手、かつて資材置き場だった一角には、犬どもの残党がすでに集まっていた。

「今夜だ。……もう後戻りはねぇ。覚悟はいいな」

 リーダー格の男が低く言い放つ。

「おう。……どうせこのままじゃ、藤堂に消されるだけだ」

「先にやるしかねぇ」

 短銃を手にした男たちが、次々と頷いた。目には決死の覚悟が宿っていた。

「いいか、藤堂の補給路とその先の物資置き場を叩く。まずは斥候のお前が物資置き場に火をつけろ。全部燃やせ。……それが合図だ」

 緊張感に包まれた中、指をさされた男が頷いた。

「……俺たちが島の連中を巻き込むことになる。二度と後戻りはできないぜ。本当にそれでもいいんだな?」

 もう一人の男が言う。

「上等だ」

 リーダー格の男は歯を剥いた。

「全部ぶっ壊してやる。この島ごと、な」

 その言葉に、誰も反論する者はいなかった。

「おもしれえ。じゃあ、おっ始めるか」

 誰かが言うと、1人、また1人と黙って立ち上がり、音もなく夜の闇へと消えていった。


 その一部始終を見下ろしていた影が、素早く動いた。藤堂の私兵——密偵のひとりだった。

 男は犬どもが動き出したことを確認すると、すぐさま藤堂の元へと走り出した。


「さあ、動くとすればそろそろだな」

 リュウジが呟いた。

 神崎はふたりを見渡した。

「じゃあリュウジ、お前は犬どもの動きを追ってくれ。タイミングを見て奴らと合流しろ」

「ああ。任せとけ」

「司、アジトは捨てる準備はできてるか」

「ああ、大丈夫だ。藤堂の奴らが知らずに踏み込んだら、ちょっとした爆破が起こるように仕掛けもしといた」

 司は静かに返した。

 そして、神崎は拳を強く握った。

「俺は……藤堂の動きを見極める」

 リュウジが少し眉をひそめる。

「神崎。……無理すんなよ。奴ら、今度こそマジで容赦しねぇぞ」

「わかってる」

 神崎は短く頷いた。

「だが、誰かがやらなきゃならねぇ」

 しばしの沈黙。その場の全員が、この夜の先に何が待っているかを悟っていた。

「……行くか」

 誰ともなくそう言うと、神崎が先に立ち上がり、それから夜の島に三人はそれぞれ散っていった。

 打ち合わせ通り、リュウジは裏道から犬どもの動向を追い、司は仲間たちとアジトの整理にかかったはずだった。

 そして神崎は一人、闇に身を溶かして藤堂の一味がいるはずの場所へ向かう。

 重く沈む星一つない空を見上げながら、神崎は静かにポケットの中の写真を確かめた。

(マリア……どうせどこかで見てるんだろ?)

 神崎にはマリアが今もこの島のどこかで、すべてを見ている気がしてならなかった。

 神崎は小さく息を吐いた。

「……さぁ、マリア。始めようぜ」

 低く呟いたその声は、夜の闇に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ