表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/61

第二章「監獄の亡霊」第18話「裏切りの兆し」

 翌朝、神崎は鈍い頭痛とともに目を覚ました。

 廃工場の天井は、相変わらず薄汚れた鉄骨の網を見せている。だが、昨日までとはどこか空気が違った。いや——空気ではない。神崎の胸に、昨日からの不穏な予感が重くのしかかっている。

 あのリスト。処分済と記された名前の数々。司が語った言葉が、頭から離れなかった。

 ——俺たちは、次のリストに載ろうとしている。

 神崎は、嫌な予感を払うように体を起こし、外へ出た。

 まだ朝早いというのに、工場の中にはピリピリとした緊張が走っているのがわかる。誰もが無言で作業をしているが、その目は落ち着きなく周囲をうかがっていた。

 ——お互いに疑い始めている。

 昨日までは結束していたはずのレムナントの内部に、確実に疑心が芽生えているのは間違いない。

 その時、背後から声がした。

「来たか、神崎」

 司だ。その顔にも、普段の冷静さにはない険しさが浮かんでいた。

「司……何かあったのか?」

「ああ。俺たちの動きが、どう考えても外に漏れている。……誰かが、藤堂に情報を流してる」

 やはりか。神崎は、昨日からの予感が的中したことに背筋が冷たくなるのを感じた。

「誰が?」

「まだわからない。だが……ここの奴らの誰かだろうな」

 司はゆっくりと、工場の奥を指さした。

「今から、俺たちは内通者を炙り出す。……その前に、お前に見せたいものがある」


 神崎は司に連れられ、工場のさらに奥へと進んだ。そこには、昨日の“処分リスト”が張られていた部屋よりも、さらに古びた小部屋があった。

 司が扉を開けると、埃と錆の匂いが漂ってくる。薄暗い部屋の壁には、古い地図のようなものが張り付けられていた。

「これは……?」

「この島の古い管理図だ。廃工場や処刑場、管理区画……全部載ってる。だがな、見ろ」

 司が指をさした先には、見慣れない“線”が走っていた。

 地中を通るその線は、いくつもの場所と繋がっている。

「……地下通路?」

 神崎は地図を見つめたまま、ふと司に視線を向けた。

「なぁ……司。この地図、どうやって手に入れたんだ?」

 司はしばらく黙った後、ぽつりと呟いた。

「昔、俺が“影”として動いていた頃だ。藤堂の命令で、この島の地下構造を調べたことがあった」

「藤堂が……?」

「ああ。あいつはな、何よりも抜け道を恐れていた。裏切り者が島から逃げる手段がないか、徹底的に潰そうとしていたんだ」

 司は皮肉げに笑った。

「だが、全部は潰しきれなかったらしい。この図面は、俺が密かに写し取ったものだ。もしもの時の保険としてな」

「……つまり、藤堂はこの存在を知っているかもしれない」

「ああ。だからこそ、危険なんだ」

 神崎は小さく息を吐いた。

 抜け道を探したのは藤堂自身——それが皮肉にも、今の自分たちの“命綱”になろうとしている。

「今夜、地下通路の一つを探る。怪しい動きがあるかもしれない」

 司は地図から目を離し、神崎を見た。

「ついて来い」


 夜になり、神崎は司と共に、地図に記された地下通路の一つへと向かった。そこは、工場裏手の瓦礫の下に隠された入口だった。狭い階段を降りると、湿った空気が全身を包み込んでくる。

「ここは……」

「誰にも知られていないはずだ。だが、本当にそうか……」

 司の声が暗い通路に低く響く。

 二人は、慎重に奥へと進むと、司がぴたりと足を止めた。遠くで小さな光が揺れるのが見えた。

 誰かが——いる。

 神崎が足を止めた瞬間、司が口元に指を当て、慎重に進んだ。

 光源の向こうには、確かに人影があった。

「間違いない……誰かが、この通路を使っている」

 その瞬間、弾けたように、司が飛び出した。

「動くな!」

 声と同時に、影が一つ逃げる。司と神崎もすぐに駆け出した。通路を駆け抜ける影。だが、出口は一つしかない——

「追い込め!」

 二人は一気に距離を詰めた。やがて、逃げる男が足を滑らせ、転がる。神崎は男の腕を掴み、床に押し倒した。

「誰だ! 何をしていた!」

 震える男の顔が、薄暗い光に照らされる。レムナントのメンバーの一人——昨日、神崎に敵意を向けていた男だ。

「……違う、俺は……!」

「言い訳は聞かねぇ」

 司が低く呟く。

「藤堂に……情報を流していたんだな?」

 男は震えながら、かすかに頷いた。

「どうする、司……?」

 神崎の問いに、司はしばらく沈黙した後、冷たく言った。

「処分する」

「——!」

「こいつを逃がせば、次はお前も俺も終わりだ」

 神崎は唇を噛みしめた。これが、この島の現実。裏切り者に情けはない。生き残るためには——

「……わかった」

 その時だった。神崎の耳に、あの声が再び囁いた。

「神崎さん……」

 これは、あのマリアの声だ――

 振り返っても、そこには誰もいない。だが、神崎の胸の中に、確かな警告が響いていた。マリアは何か伝えようとしているのだ。

——まだ、何かが隠されている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ