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08 一日の終わり


「「ごちになりました‼」」

「ええってことよ!」

私は三人分の食事の支払いを受け持つ。価格は銀貨6枚と幾ばくかの銅貨。

今日の稼ぎは吹き飛んだが、女神様から渡された軍資金はまだ残っている。また明日から、コツコツ日銭を稼いでいこう。


...それとジャックは、あの後フツーに負けた。

さらば、掛け金の銀貨1枚。


食事会で意気投合した私達は、ギルドを出ても話し込んでいた。周りは月明かりが優しく街を照らしていてノスタルジックな気持ちになる。


「ねえ、フタバ。もしよかったら私達としばらくパーティを組まない?」

ケイトはそんな話を持ちかけてきた。


「パーティか…」

私は考える。とてもありがたい誘いだ。


「あなたはドスコッコを一人でやれるほど腕が立つ。前から優秀な前衛を探していたの。ジャックだけじゃ持たないから。」

「そんなことない。俺は最強だ。でも、フタバがいてくれると心強いな。」


腕前を頼ってくれているのか。でも私の戦い方は<2倍>あってこそなんだ。

そして、パーティを組むとなると私は能力を開示しないといけないだろう。命を預ける仲間になるのだから。


「…ごめん。私はしばらく一人で冒険者をやってみたい。」

私はケイトの誘いを断ってしまった。


<2倍>は危険な力だ。女神様も言っていたが、転生特典はバレると権力者に狙われる。

彼女らはそれを知るだけでトラブルに巻き込まれてしまうだろう。だから、ここは距離を取らなければならない。


「そんな顔で謝らないでよ!今日はフタバと出会えたいい日なんだから。笑って!」

ケイトは私に微笑む。


そうか、いい日か。私も笑ってみる。

「パーティは無理だけど、私の友達になってくれないかな?」

「勿論!」「当然だ!」

どうやら異世界で、二人の友達に出会えたようだ。


私は、こっちを見て手を振りながら歩く二人を見送る。宿に帰るのかな、またギルドで会えるといいな。

そう考えながら、私も体を休めようと宿に向かう。


あ、宿取ってないわ。

私は二人の後を追いかけた───!


...

.....


二人は快諾して、泊まっている宿を紹介してくれた。3階建ての大きな宿だ。

「一人部屋、3日毎に自動更新であってるかい?」

私に確認をする宿の女将さん。

「はい、それでお願いします。」

私は3泊分の前払いとして銀貨5枚を渡す。まとめて払うと安くなるシステムだ。


チェック輪を終えると、ジャックとケイトはロビーで待っていた。2階に二人部屋を取っているそうだ。

「「「じゃ、おやすみ!」」」

私と二人はお互いの部屋の位置をチェックした後、今度こそ解散した。



私は部屋の鍵を開けて中に入る。

広さは3畳くらいでベッド・机・椅子・木製の窓が備え付けてある。

部屋に直接の照明はないため暗い。

月明かりが頼りだ。私は窓から満月を見る。



「……『月明かりを<2倍>』発動!なんてね(笑)」




フラーッシュ!

少し遅れて月が輝き出した!


挿絵(By みてみん)


「うおっ、やっべ!」

私は慌てて能力を解除したが、もう遅い。

月とこの星には光の届く速度に時差がある。反応が遅れたのもあってだいぶ長いこと光らせてしまった。

あわわ。外がざわついている…


…なんてこった。まさか本当にできるとは思わなかった。

『一度に一つだけ、あらゆるものを<2倍>にする』とは文字通りの意味らしい。


そして、今のは本当に迂闊だった。

月明かりは太陽光の反射だ。太陽光や熱エネルギーまで倍になっていたらこの世界は消し炭になっていた。女神さまは、私にとんでもない力を寄越しやがった。



バクバクする心臓が落ち着いてからしばらくすると、ドアがノックされた。

ジャックかケイトだと思って開けると、12歳くらいの男の子が桶を持って立っていた。

どこか宿の女将さんに顔立ちが似ている。息子さんかな。


「こんばんは、ルームサービスの桶水をお持ちしました。明日からは前の桶と交換します。」

桶の中には水、淵にはタオルがかけてある。なるほど…これが風呂の代わりか。

「ありがとうね。」

私はそれを受け取り、ドアを再び施錠した。


「…桶水かー。」

大きい宿でも風呂はないんだね。しゃーなし。郷に入っては何とやらだ。

私は体を拭くために胸当てとポーチ付きのベルトを外す。


身が軽くなったと思ったら急に疲れが襲ってきた。

今日は樹海を歩いたしな。先程世界を滅ぼしそうになった緊張もあるかもしれない。


体を洗おうと思ったが眠気と疲れが勝ってしまう。もう今日は寝てしまおうか。

私は桶水(フロ)キャンセル界隈に足を踏み入れてしまったのだ。

窓を閉じて、ベッドで横になる。


…今日はいろいろなことがあった。

幼女を庇いトラックに跳ねられた。

そして女神さまから<2倍>を不本意ながら頂いて、転生。

それから持ち金を全部盗まれそうになった。

あの獣人の少女は生きていけるのだろうか。食べるものに困らないだろうか。おまじないをして迷惑じゃなかっただろうか。


ああダメだ。寝る前はネガティブなことばかり考えてしまう。


振り返りに戻ろう。

服を破り捨てて、防具屋で服を買って、ノリで冒険者になって、冒険に出て、二人の友人が…でき…て……

ぐう。


私は長い1日を終えた。


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ジャックは自分が弱いことに気がついてないのか?笑
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