表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/38

07 行動時間(ターン)2倍


「今日の夕飯は奢ります、好きなものを頼みなさい!」

「「ごちになります!」」

なんだか飯を奢る雰囲気になってしまったので私はジャック、ケイトと共にテーブルを囲んでいる。

今は、メニューを眺めて何を食べるか考え中だ。ざっと見て興味のそそる物ばかりだが、初日からキワモノを食べることは避けたい。


む、ツノ兎の焼肉定食が良さそうだな…銅貨7枚(700円)でパンとスープがセットで付いてくる。コスパ良さげなこれにしよう。

私は二人にメニューを渡すがもう決めているらしい。彼らはギルドの酒場で食べ慣れてるだろうからメニューは暗記しているのか。私は手を挙げて給仕さんを呼ぶ。


「私は、ツノ兎の焼肉定食とリンゴジュースを。」

ジャックとケイトがオーダーを続ける。

「「特上オークのプレミアム霜降りステーキセットと黄金エール‼」」


私は横転した。


特上オークの霜降りステーキセットは銀貨3枚(3000円)だった。ちょっと痛い出費だが、その価格で高級部位の霜降り肉が食べれると思うとお安く感じる。

とにかく、この上野双葉に二言はないのだ。

ただし料理の待ち時間には魔物について情報収集をさせてもらう!


ジャックとケイトは魔物について丁寧に教えてくれた。

絶対に警戒するべきは、集団で狩りをするレッサーウルフ、噛まれると毒状態になるポイズンスパイダー、単純に体力とパワーが高いオーク。この辺りはやばそうだ。

幸い、強い魔物は樹海の奥にしか潜んでいないそうなので、自ら飛び込まなければ大丈夫だろう。


「お待たせしましたー!ツノ兎の焼肉定食と特上オークのプレミアム霜降りステーキセットでーす!」

給仕さんがワゴンで注文した料理を運んできた。


ぐわぁつ ぐわぁつ...‼

二人はオークのステーキに喰らいている。焼き加減はミディアムレア。

オークは豚と違って十分な加熱はいらないのだろうか。

とにかく肉厚で美味そうだ。


私も早速、ツノ兎の肉をナイフで切り分ける。照りと焼き目のついた表面が軽やかに裂け、中からジュワッと肉汁があふれる。

ご、ごくり。


口に運ぶと、香ばしい風味とジューシーな鶏肉の旨味が一気に広がる!

...鶏肉だ、これ。美味いけど脳内食レポはいらんな。ツノ兎は食べ慣れた安心する味だった。


次に私は厚めに切られた2枚の黒いパン見る。

中世ヨーロッパではライ麦で作られた黒パンが多く食べられていたらしい。ゆっくり魔○沙が言ってたから間違いない。

そして私は、歴史の教科書や資料集で平安時代の食事の写真とかが出てくると、憧れを抱いてしまうタイプの高校生だ。無論この黒パンも例外ではない。

早速、かじる。


ゴッ ガリッ


...かじれなかった。

歯が砕けるかと思うくらい硬い。

「あはは、パンはスープにつけて食べるんだよ!」

黒パンと格闘する私を見て、ケイトはサーロインを頬張りながら野菜スープで実演を始める。

なるほど、それが流儀か。私も続こう。

スープに浸すと少し食べやすくなった。パンの食感は消え失せたが歯が砕けるよりはずっといい。黒パンは苦味が強く、悪い意味でオカズが進む感じ。黒パンか芋がこの世界の主食らしいので慣れていくしかないね。


挿絵(By みてみん)


私達は食事を終えて、二人に冒険者の必需品や取り扱っている店について聞いていると後ろから声をかけられた。

「おい、ジャック!さっきはよくもやってくれたな!」

昼間のチンピラだ。


「俺が本気になればあんなのわけないぜ。」

ジャックは席から立ち上がり、チンピラに相対する。なんでお前はそう強気なんだ。


「俺様はあの時かなり酔っていたんだ。まぐれに決まってる。今の俺を見ろ!完全にシラフだ!リベンジマッチを申し込むぜ。」

彼は、昼の時と違って酒が抜けているようだ。戦いになった場合、『体内のアルコール<2倍>』で急アルにする方法は使えないだろう。


「断っときなよ、ジャック。」

「ふん、何度やっても同じだぜ。まぐれじゃないって教えてやる。」

「オイオイオイオイ!」

そしてジャックはチンピラと共にギルド中央の台座に立つ。変わったオブジェだと思ったがリングだったのかよ。


...

......


ギルド内は冒険者達の歓声が響く。ジャック対チンピラの対決を見物しているのだ。

夕方なのもあってみんな酔っ払っている。


チンピラは、リングの上で堂々と身体強化魔法を詠唱して、マッシヴなポージングを取っている。

お前その見た目でバッファーなのかよ。そして、バフありルール無用ということか。


「なんだか今日は調子がいいぜ!」

ジャックはシャドーボクシングをして威嚇する。私はジャックにこっそり『筋力<2倍>』をかけているのだ。

冒険者はみな好きでケンカをやってるので放っておいてもいいのだが、私はジャックに銀貨1枚を賭けている。チンピラのオッズは1.01、ジャックのオッズは20だ。

賭けの元締めは昼にいた僧侶のおじいちゃん。ヒーラーのくせに暴力推奨派のようだ。


ケイトがどこからかゴングを持ってきて鳴らす!

「試合開始ィィッ‼」


まずはジャックが仕掛けたッ!

「しゃあっ ジャック・ソード!」

ジャックは大振りの剣の如き拳を放つ───ッ!


「なめてんじゃねぇぞ!こら!」

チンピラはそれを軽く躱し、腹へカウンターを入れる。


「グエーッ!」

まともに食らったジャックは二、三歩下がりよろよろとしている。

一方で、チンピラは追撃をかけずに彼が立ち上がるのを待っている。昼間と違って随分と行儀のよい戦い方だ。完璧な勝利をして昼間の雪辱を果たすつもりだろうか。


さて、ジャックが勝つにはどうすればいいか。私が賭けに勝つにはどうすればいいか。


昼のケンカで彼はチンピラへダメージを与えられていなかった。

そして彼の攻撃はいつも外れていた。ドスコッコとの戦いもそうだった。


確実に命中すれば...『命中<2倍>』?

いや、ジャックの元の命中率は10パーもないな。

そして、一度に一つしか発動できないので同時に『攻撃<2倍>』は出せない。


なんにせよ彼は、再びチンピラからカウンターを食らってダウンしてしまうだろう。

正確で力強く、尚且つ相手を躱せる<2倍>。そんな都合のいいものは……


うーん...アゴに手を当て考える。私のクセだ。

ん?アゴに当てている手の甲がゴツゴツする。気になるのでシャツの裾を捲ろう。

ああ、前世から持ち込んだ母さんの形見の腕時計か。


...時計?...時間?


あっ!まさかッ!


瞬間、私に電流走る─────ッ!



挿絵(By みてみん)



ジャック、勝利の呪文を授けよう。

『私とジャックの行動時間(ターン)<2倍>』発動!


CLOCK UP!

私は周りの時間が遅くなっていることに気づく。歓声は低く聞こえ、スローな動き。

いわゆる0.5倍再生で動画を見ているような感覚。しかしその中で私は1倍速で動くことができている。

今、周りの5秒は私にとっての10秒だ。


まさか本当にできるとは。

<2倍>は概念にも有効なのか。

...あかん、『行動時間(ターン)<2倍>』は強すぎる。それに異常がジャックに気づかれてしまう。


私は解除をしようとジャックの方を見る。

彼はチンピラの遅い右ストレートを潜り抜け、強烈なアッパーを叩き込んでいた。

実質2倍の速度で繰り出す一撃だ。チンピラは宙に吹き飛ぶ。


「やった!ジャックが初めてケンカで一撃を与えたよ!」

ケイトは1倍速で叫んでいる。先ほど時間の流れを戻したのだ。

ギルド内の冒険者達も、彼の身のこなしに歓声を上げている。


「...フタバ?どうしたの、顔色が悪いけど。」

「あっ、何でもないよ。大丈夫。」

私は能力の解釈を広げてしまったことに動揺している。

この転生特典(2倍)は思った以上に恐ろしい力なのかもしれない。


冷や汗をかいていると、ステージの上で横たわっていたチンピラが起き上がった。

「くそ...てめぇ、やるじゃねぇか。見直したぜ。」

「今のは走馬灯か...二週間ぶりだな…」

ジャックは時間がゆっくりに感じたのを走馬灯だと思っているらしい。勘違いしてくれているのは助かった。


「フタバもほらっ!ジャックを応援してあげて!」

ケイトに呼びかけられてハッとする。今は試合に集中しよう、なにせ彼には銀貨1枚を賭けているんだ。


『行動時間<2倍>』はジャックに能力がバレる可能性があるので、私は再び『筋力<2倍>』を彼へ掛け直す。

「いけーっ!ジャック!」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ボーイッシュな女の子が主人公なのが感情移入しやすくて面白かったです。 普段は転生ものは見ないのですが読むほど引き込まれたした。 ジャックは最初、普通にクールな性格だと思ってましたがあまりの弱さに笑って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ