06 誓いの握手
ジャックに回復ポーションを飲ませた後。
彼が回復するのを待ちながら、私は初キルのピロートークを始めていた。
「コッコってあんなに強いんだね。屋台で焼き串を売ってたから、もっと可愛いもんだと思ったよ。」
心臓はまだ早鐘を打ち、指先まで熱い。アドレナリンがドバーッっとあふれて、興奮している状態だ。
「ごめん...あれは本当はコッコじゃないの。あなたが倒したのはドスコッコ、要は親玉だよ。」
ケイトはいきなりおかしなことを言い始めた。私は何故か違う魔物とマッチングしていたようだ。
「え、どゆこと?」
「...冒険者は身の丈に合わないことをしてすぐに死んでしまう。だから私はあなたにドスコッコをけしかけて、死が迫るを経験して欲しかった。」
ケイトは申し訳なさそうに話しを続ける。
「でも、あなたは強いね。間合いの詰め方がずば抜けている。余計な心配だった」
...確かにあの鋭いくちばしはゾッとした。<2倍>が無ければ、死んでいたかもしれない。
興奮が冷めた私は、ドスコッコの死体を見ながら鳥肌を立てる。
「ありがとう、ケイト。あなたのおかげで私は自分の慢心に気付けた。心のどこかで自分は大丈夫だと思っていたよ。」
私はケイトに右手を差し出す。
「でもそんなことはもう二度と思わない。これは誓いの握手。」
「よかった!絶対だよ!」
ケイトは私の手を握って笑った。
...
......
「ジャック、もう歩けるの?」
「ああ、問題ない。俺は強いからな。」
「う、うん。」
ジャックは回復ポーションを飲んでから、動けるようになるまで20分程かかった。骨折が完治するにしては異常な速度だが、戦いながら回復ポーションを使うことは難しそうだ。
戦闘中の被弾は致命傷になるということは、念頭に入れておいた方がいいだろう。
そう考えながら、私はドスコッコの死体を観察する。
サイズから推察するに、体重は150キロくらいあるんじゃないだろうか。
「ちょっと聞いておきたいことがあるんだけど、この獲物をどうやって持ち帰るの?」
「え?魔石を知らないのか。」
ジャックはドスコッコから、私の槍を引き抜く。すると死体は割れたガラスのように崩れ、それが集まって小さな結晶になった。倒すとドロップアイテムになるのか。
そして、彼はそれを割れ物を扱うかのように慎重に拾い、カバンに入れる。
「俺の魔石ポーチ、一度も使ったことが無いから丸ごとお前にやるよ。割ると中から死体が出てくるから気をつけろよ。」
「あ、ありがとう...」
魔物のドロップアイテムをしまう容れ物を使ったことがないってことは...いや彼なりのプレゼントの渡し方だろう。多分。
...
......
私達は樹海の深くから浅いところまで戻り、また狩りを再開した。
そして、ツノ兎2匹と普通のコッコを1体を連携して討伐した辺りで日が暮れてきた。
特筆するべきこととして、ケイトの弓の腕前はずば抜けていた。すばしっこく動くツノ兎の眉間を20m先から精密に撃ち抜いたのだ。なぜか剣術も習得しておりジャックの剣を奪ってコッコの頭を容易く跳ねて見せた。
この腕前ならドスコッコをけしかけた後に私を守るのも訳ないことだ。そして、ジャックが生きてこれたのは彼女が守っていたからなんだろう。
そんなわけで、私達は今日の成果に満足しながら街へ帰った。魔石を冒険者ギルドの買取カウンターに提出して換金してもらったのだが...二人は私に、ドスコッコの報酬分を全て私に譲ってくれた。
結果、私の取り分は金貨一枚と少しと言ったところ。2mのドスコッコを仕留めたにしては安い買取価格に首をかしげるが、どうやら税金でガッツリ持っていかれているらしい。ファンタジーな冒険と言ってもその辺は現実を観なければいけないようだ。
私は本日の給与にホクホクしていると、ギルドに併設された酒場から焼けた肉の匂いがしてきた。
「ぐぅ~......」
腹が減ってきたぞ。思えば、樹海を長時間歩いてかなりエネルギーを使っている。
私は酒場で食事を取ることをジャックとケイトに伝えると、二人は何故か期待した目でこちらを見ている。
あっ。
今日は、はじめての給料日。
そして食事をとることを提案した。
これは、私が奢る流れ────!




