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40 ヌードル・オブ・マッポーカリプス


甘味異常者(クレミ)を適当にあしらっていると、お使いに出したライノ君らが帰って来た。


「フタバねーちゃん、商業ギルドへのラーメン配達終わったぞ。」

「お疲れ様です。会長さんにレシピも渡せましたか?」


「雑に極秘情報を握らされて、めちゃくちゃ怖がってた!」

「やっぱり顔くらいは出しておくべきだったかな...」


商業ギルドの会長さん──デュエルマモノーズの開発でお世話になった人だ。スラム街の子達を雇用してくれた上、製造や流通も受け持ってくれている。

かんすいを用いたラーメンも含めて、彼ならナトロン鉱石を上手く運用できるだろう。


「そういえばよ、金になる情報を外に流しちゃっていいのか?」

「駆け引きや難しい事を考えると頭痛がするんですよ。信用できるクチにぶん投げるのが楽チンです。」

「何だかもったいないなぁ...」


私には向いてないのでしょうがない。それに、前世の知識でイキるのはちょっぴり後ろめたくもある。こういうのは皆んなでシェアする方が気分もいい。


「それじゃ、全員揃った事ですし。これから屋台は忙しくなりますよ。」

「忙しくなるって...今は昼過ぎだぜ。次のピークは夕方じゃないか?」


「重心が若干偏ってる客がたくさん来ます。激戦に備えてください。」

「どゆこと?」


...

......


「この屋台、なんか気になるのよね。体が勝手に引き寄せられるような...」

「へいらっしゃい!」


「後ろ髪を引かれるっつーか...吸い込まれるっつーか...」

「へいらっしゃい!」


「お腹空いてないのに、不思議と並びたくなっちゃう...」

「へいらっしゃい!」


「フタバ姉、何かやってるでしょ。」

「へいらっしゃい!!(圧)」

「...知らない方がいいこともありそうね。」


探し物を見つける≪ナビ≫...指定した方向へ、重心を倍にする応用技である。

私はそれを手当たり次第にぶっ放して、通行人を屋台の方へ誘導している訳だ。差別化のためにも≪呼び込みちゃん≫と名付けようか。


「お客さん、呪文はどうします?」

「じゃあ──“ニンニク、ヤサイ、アブラ、カラメ、全部ドラゴン盛り!”」

「はい、よろこんでーっ!!」


「ムラサキちゃん、こっちもオーダーよろしく!」

「はい、よろこんでーっ!!」


集客力が格段に跳ね上がったので、忙しいったらありゃしない。調理や皿洗いに年長組が参加しているので、何とか営業できている。


ガシャーンッ!

「あぅ...お皿割っちゃった...」

「リーファちゃん、怪我してないですか!回復ポーション使いますか!?」

「大丈夫...それにありがと...」


バシャァンッ!

「わりい、フタバ姉の槍にスープかけちゃった。」

「テメェ【冒険者スラング】ッ!!!!!!!」

「めっちゃキレるじゃん。」


それから大勢のお客さんを捌いていると、あっという間に夕方になった。

ここからは飲食店のゴールデンタイムだ。腹を空かせた冒険者や仕事帰りの商人たちが、次々と暖簾をくぐってくる。


「フタバ姉、さっきから冒険者ギルドの方を気にしてるけど。どうかしたの?」

「探しているギルド職員がいるんです。必ずここを通ると思うのですが...」


もう日は暮れている。

そろそろ、“彼”が夜勤に出る時間帯のはずだ。


「アイエエエ!?フタバ殿!?」

「あっ、カゲゾーさん!待ってましたよ!」


「アンブッシュだと!?またチ◯コを狙っているのか!!それとも女体化させる気かッ!?」

「フタバ姉、この人に何したの...?」


私を見つめる彼は、膝がガクガク震えている。

完全にトラウマになってるな...


「カゲゾーさん、本日はお詫びを用意したんです!あなたにラーメンを振る舞わせてくださいっ!!」

「ムムッ...!ら〜めん...!」


その瞬間、彼の目がギラリと光った。視線はまっすぐと鍋の方へと吸い寄せられている。


「なんだか唆る響きだ。とりあえず頂こう。」

「あいよーっ!一名様ご案内!」



挿絵(By みてみん)



ドーモ、夜勤のカゲゾーです。

拙者は今、盆に乗せられた"ら〜めん"とやらへ視線を落としている。


闇夜にゆらめく湯気、鼻腔を撃ち抜く芳醇なる香気。ニンジャ五感が、これはスゴイぞと訴えかける。


「フタバ殿、この白濁としたスープは一体...!?」

「それはスガキ屋クランの和風豚骨によるチャクラです。」

「ナルホド。いただきます。」

状況判断した拙者は、スープをスプーンですすり込む。


「アバーッ!?」

コッコとオークのエントリーだ!煮込まれたコク味がダブル・ジツ・ブロウ!!

マッポーめいたスープだが、獣臭さは控えめ。塩気は程よく、奥ゆかしい甘みすら感じる。

これは極上のアトモスフィア・インパクトッ!!


「カゲゾー=サン、こだわりの麺もどうぞ。」

「ワッザ!?」

黄金の糸がつるりと舌を駆け抜ける。チャクラを纏ったスープとともに滑り、喉奥へと爽快に消えていく。

ズルッ......ズルズルッ.........。

強靭なコシこそない。だが、だからこそいい。このスープとの相性を考えた時、柔の構えこそが最適解だったのだ!


次に襲い掛かるは伝説の三忍!

「ドーモ、トッピング=サン。カゲゾーです。」


壱の刺客──オークチャーシュー!

厚切りで濃厚なる味付け、ジッサイ美味い。噛むたびにエネルギを補充して、牙が喜ぶ。


弍の刺客──ほうれん草!

緑のチャクラは目の保養だ。シャキシャキとした食感が心地よく、よきアクセントとなる。


参の刺客──味付きコッコエッグ!

半熟黄身がトロリ、スープに溶かしてもヨシ、

麺に絡めてもヨシ。最終的に全部食べれば良いのだ!

 


......そして、すべてを平らげた時。丼の底には静かな達成感だけが残っていた。

拙者は空になった丼を前に、深く一礼する。


「ごちそうさまでした。またイクサで会おう、ラーメン=サン。」


...

......


どーも、店主のフタバです。


カゲゾーさんはラーメンをおかわりしている。

日系人っぽい顔つきだったから、気に入ってくれるだろうなと思っていたんだ。


そして何より、彼はニンジャだ。

ニンジャの好物がラーメンなのは、常識だってばよ。


「...フタバ殿。このスープは醤油を使っているようだが、一体何処で手に入れたのだ?」

「使ったのは魚醤です。醤油が手に入らないんで、風味が近付くようにアレンジしたんですよ。」


「ということは......お主は同郷の者かッ!?」

「───ッ!!」


醤油を知っている、同郷の者。

...なるほど、そういうことか。


私が異世界にいるということは、同じような境遇の人間が居ても何ら不思議な事でない。

そもそも、なんで異世界にニンジャがいるんだよ。明らかにおかしいだろ。


私は、今更ながらこの異常な状況に気づいた。

そして覚悟を決めて彼に質問をする。


「......カゲゾーさん。貴方も転生者ですか?」

「てんせいしゃ?何だそれは?」


あれ、違うのか?

醤油を知ってるなら、少なくともアジア系だと思うんだけれど。


「日本出身だったりもしませんか?」

「ニホン?拙者はジャポンという島国で生まれ育ち、漂流してここにやって来ただけだ。」


またまた違う。ジャポンって何処だよ。

しかし、それよりも更に気になる言葉が出てきた。


「漂流...!これまでに何があったんです?」

「語らねばなるまい。あれは13年前のこと──」

「あ、長くなりそうだ。200文字以内でお願いします。」


「ウ、ウム...拙者は釣りが趣味でな。海へ小舟を出した所、遭難して命からがらこの大陸に流れ着いたのだ。

言葉すら通じぬ土地──現地民に迫害されて、密偵だと思われたのか王国騎士団にも追われ、長い逃亡生活を送っていた。

だがそれも長続きせず、四皇『闇騎士コンフリクト』に追い詰められてしまい死を覚悟した。その瞬間、通りすがりの酔っ払った冒険者が奴をボコボコにして拙者を助け出してくれたのだ。」


「通りすがりの酔っ払い冒険者が四皇をボコボコにした!?」

「冒険者時代のギルド長殿だ。」

「何やってんだあの人...」


私が呆れていると、カゲゾーさんは真剣な面持ちで背筋を正した。


「拙者は命の恩人である彼女に忠誠を誓った。そしてパーティメンバーに加わり、今も支えるために冒険者ギルドの夜勤を勤めているというわけだ。」

「なんだか大変な人生だったんですね...」


しかし、なるほど。カゲゾーさんの変な言葉使いは、独学で現地の言葉を学んだ故の訛りであったのか。

そして、仮にもお尋ね者であるから顔の一部を額当てや面頬で隠していると。


「じゃあ、あなたはニンジャではないんですね。本物かと思ったのですが、ちょっと残念です...」

「いや、拙者はニンジャだ。」

「アイエエエエ!?」


異世界にもニンジャっているんだな。

どうやら私の知見が浅かったらしい。


「そしてフタバ殿、お主はギルド長殿を<2倍>の力で助けてくれているようだな。感謝する。」

「いえ、助けられたのは私の方です。彼女は私に生きる理由をくれました。」


「そうか...詳しくは聞くまい。しかし、我らは似たもの同士のようだな。」

「ええ、そうみたいですね。」


カゲゾーさんはラーメンの杯を掲げた。

そして私も同じく、コップを掲げる。


「 「ユウジョウ!」 」



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