03 身支度をしよう
複雑な路地裏と広場の境界線。私は顔をそろ〜りと出して様子を伺う。
今の私は、前世から持ち込んだ上着を破いてしまっている。当然着替えなんて用意してないし、人目につかないように新しいものを調達しなくては。
「げっ。」
「なんだお前、その恰好は...」
路地から顔をを出した途端、ケモミミ少女を捕まえるのに助力してくれた冒険者のおっさん達が待ち構えていた。
「身包み剥がされたのか?」
「身包みは剥がされてないですね。」
「激闘を繰り広げたのか?」
「激闘を繰り広げてないですね。」
「痴女?」
「痴女じゃないですね。」
質問攻めにする3人は奇怪な目線を私に飛ばす。スポーツブラが珍しいのだろうか?
いや、格好に問題があるのは分かっている。
これにはやむを得ない事情があるんだ。そんな可哀想な目で私を見ないでくれ。
「で、何があったんだ。」
「実はあれこれそーゆーわけでしてェ…」
私は一気に状況を報告する。
お金を取り戻したこと、ケモ耳少女の怪我をちぎった上着で手当てしたこと。
おっさん達は腕組みをしたまま、少し呆れたように頷く。
「...お人好しすぎないか?」
「ここで私を待ってたあなた達も大概ですよ。」
「あのな、飯に困っている奴は大勢いるんだ。少しの慈悲だけじゃどうにもならんぞ。」
うん...きっとそうなんだろうな。格差はこの世界ではより顕著になっているのだろう。
とにかく、こんな虚しい話はやめだ。何せ今は、もっと大事な用事がある。
「その、服売ってる店を知りませんか?」
「あぁ...うん、引き留めて悪かったな。」
...
......
「アイアンメイルに...レザージャケット...?]
私は彼らに近場の服屋を教えてもらったはずなのだが...そこにあったのは武具屋であった。
おかしいぞ、住所は間違ってない。突き当たりにあるって言われたし。
いや、私はユニク○みたいな服屋をイメージしていたんだ。
女の子が服を取り扱う店を聞いているのに、真っ先に武具屋が出てくるのは違うだろう。
「お客様...!?その恰好は一体?」
「アッ...その...なんでもいいんで、着るもの売ってください...」
私は顔をひきつらせた店員さんに呼びかけられて、中に入ってゆく。
「コチラなんていかがでしょうか、よくお似合いですよ。」
店員さんに勧められた空色のポロシャツを試着して、私は軽く体をひねる。
おお...伸縮性があって、運動性に優れているな。
「冒険者用に設計された生地でございます。一般の方にも人気なんですよ。」
ごっつい鎧が出てくると身構えていたが、普通の服もあるようで安心した。ワー○マンで妙に機能性のある普段着を取り扱っているようなものだろうか。
「この服、気に入りました。おいくらですか?」
「こちら、銀貨5枚になります。」
この世界で初めての買い物だ。レートを知らないゆえに、安いのか高いのか分からない。
そして、女神様から貰った初期費用は有限である。ここで出費するか、もっと安い服を調達するかは慎重に考えるべきで───
いや...待てよ。逆に考えるんだ。
ここはあえて、倍プッシュだ!!
「よし、これ買います! それと......短槍、胸当て、ポーチあたりを見繕ってくれませんか?」
せっかく異世界に来たのだ。
ここは装備を固めて"冒険者"として日銭を稼いでいこうじゃないか!
「お任せください!」
店員はにこやかな笑みを浮かべ、私を防具売り場へとエスコートする。
...そこからは早かった。私は店員の華麗なセールストークに魅入ってっしまい、埃の被った装備をオススメされて、冒険者スターターキットと称した雑貨まで掴まされてしまった。防具売り場からレジまで、まるで流れるベルトコンベアの上である。
多分いくらかボラれている気がするが...細かいことはしない。
新しい冒険の始まりって、こういうもんだろう。
「お買い上げありがとうございます!」
金貨8枚を出して、銀貨3枚のお釣りか...レジの会計を一つずつ見ていたので、金銭感覚が掴みかけてきた。金貨は諭吉で銀貨は英世前後と言ったところだと思う。
「冒険者ギルドは、この通りをまっすぐ行ったところですよ。頑張ってくださいね。」
「何から何まで、ありがとうございました!」
私は背負った"相棒"と共に店を出て、歩みを進める。
「今日からお前は『ライジングドラゴンスピアー』だ。共に伝説となろう。」
私は前世で、少しだけ槍術に覚えがある。手に馴染んだコイツに、命を預けることにしたのだ。
「ここがあの冒険者達のハウスね......!」
巨大な冒険者ギルドの前で、私は気合いを入れる。
きっと、力がモノをいう職業だろう。ここはガチムチ脳筋野郎の溜まり場と相場は決まっている。
女が一人で入っていけば悪目立ちするに違いない。...ちょっと緊張するな。
よし、私は『勇気を<2倍>』にして大きな扉を開くことにした。
「たのもーっ!」