26 転生者、背負うは<2倍>
昨晩、乱心した私は冒険者ギルドの巨大なドアを粉砕した。
後先考えない行動だ。死ぬつもりだったのだから。
でも、考えが変わった。
だから──ギルド長とカゲゾーさん、3人がかりでドアの修理に入った。
...修復作業は夜明けギリギリまで掛かってしまった。修理中に『行動時間<2倍>』を3人全員にかけていたことを考慮すると、実質昼くらいまで作業した計算になる。
私達は満身創痍だ。
しかもギルド長は、後ろに出勤時間が迫ってきている。
...流石に悪いことをしたなと思った。
まずはカゲゾーさんに土下座を繰り出した。
すると彼は泣きながらそれを止めた。完全に私と報復を恐れている。いつか別のお詫びを用意しよう。
ギルド長には『デュエル・マモノーズ』の"ブルーアイズ・ホワイト・コッコ"のイラスト違いバージョンも渡すと約束した。
すると彼女はニッコニコになりながらキレ散らかして残業に戻った。器用な人だ。
そして私は───
「ただいマイルーム!」
ようやく宿に戻ってくることが出来た。めちゃくちゃ眠たい。
今すぐベッドにダイブしたいが、まだやるべきことがある。
私は部屋で『あるもの』を探し始めた。
前世から持ち込んだ『あるもの』を。
...
......
私は厳密には転生者でなく、転移者と言った方が適切だ。
一度死んではいるが、女神様に元の体を再生してもらってこの世界にやって来た。
だから私は魔力を持っていない。この世界の人間と体の作りが違うんだ。
体内にソレを作り出す器官を有していないというべきか。
しかしおかげで、死亡時に身につけていたものを持ち込むことが出来た。
衣類、スニーカー、母の形見の腕時計などである。
それと、実はもう一つだけ。
こちらに持ち込んだものがある。
「財布、どこ置いたっけ。」
あ!転生初日にベット下へ隠したんだった。
異世界で一万円札を持っていたってしょうがないからね。
私は前世から持ち込んだ財布の中身を漁る。
「えーっと、学生証...定期券...米田コーヒーチケット...味噌カツファンクラブ会員証...初代リザーゴンのエラーカード......」
「...あった!」
私が一番大切にしているもの。
高校の入学式で撮った母との写真だ。財布に入るサイズにプリントしたものだから、少し小さい。
そして、こればかりは形見の腕時計と違って持ち歩けない。無くしたら母に会えなくなってしまうから。
「...お母さん、お久しぶりです。今まで目を逸らしてきてごめんなさい。」
「ようやくあなたの顔をっ...また...見れるようにっ、なりましたっ!」
「ぐすっ...」
「お母さん、ちょっとタイム。泣きそうだから。」
ぎゅるるるる...
「あと変なエビフライ食って腹痛いからトイレ行って来ます...」
...
......
「ふぃ~。お母さん、この世の終わりみたいな腹痛から、かろうじて戻って来たよ。」
「私は今、訳あって異世界で暮らしています。冒険者をやったり、芋を揚げたり、パチモンのカードゲームを流行らせたり。毎日が刺激的です。」
「って、これは報告する必要はないか。お母さんはずっと天国で見守ってくれているもんね。」
「......私ね、この世界で好きな人ができたんだ。冒険者ギルドでギルド長を務めている人。」
「あ、LOVEじゃないよ。LIKEの方。それに、私にはライジングドラゴンスピアー君がいるから。」
「ほら、ライジングドラゴンスピアー。お母さんに挨拶して。」
「ん゛ッんー...コンニチワ フタバノ アイボウデス。」
「それでね、ギルド長はちょっとズレてるけど、すごい頼りになるんだ。お母さんを思い出しちゃうくらい。」
「だから、色々と悩みを打ち明けたの。そして決めたんだ。」
「私ね。転じて、生きることにしたよ。」
「ずっと自分が嫌いだった。死にたかった。消えてしまいたかった。でもそれは昨日まででおしまい。」
「私は前に進めるようになったんだ。お母さん、愛してくれて本当にありがとう。」
「だから、誓うよ。」
「私は<2倍>の命を背負って生きていく!これからも見守っていてね!」
『私は転生特典を<2倍>にしてもらいました!』
【第一章】 完
ここまで読んでいただきありがとうございました!
大変申し訳ないのですが、作者の都合により『今年の秋頃まで更新速度がガタ落ち』します。
おそらく月に一つ出せればマシなくらいの頻度になります。気長に待っていただけると幸いです。
また、評価ポイントやブックマーク、感想を頂けると泣いて喜びます。よろしければ是非!
それでは、双葉の物語を引き続きよろしくお願いします!