表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/46

23 ギルド襲撃

草木も眠る丑三つ時。私は冒険者ギルドの前にいる。

ギルド長は緊急時に備えて、いつもここで寝泊まりしているそうだ。だから他の職員が全員帰るまで待ってから、来た。


...もう、この世に1秒たりとも長居してはいけない。さっさと殺してもらおう。

決意を秘めた私はギルドの扉を押す。


「あ!?ドアが開かない!」


鍵が掛かっているようだ。まあ、防犯対策なら当然だよな。

よし、派手にぶっ壊そう。


「『ドアのサイズ<2倍>』発動!」


途端にドアは大きくなろうとするが、外枠の壁に阻まれる。

膨張を続けるドアは、強固な壁側の圧力によって一瞬で自壊した。


やはり生物と違い、『物体に自動補正は取られない。<2倍>と指定されたものだけが変化する。』

...おっと、これから死ぬのに能力を考察する必要はないな。いつものクセでやってしまった。



私が冒険者ギルドの中に入ろうとすると、天井から何かが降ってきたように見えた。

そしていつの間にか、忍者装束の大男が私の前に立っている。


「ドーモ。夜勤のカゲゾーです。」

「ドーモ。カゲゾー=サン。ダークフタバです。」

とりあえずアイサツだ。アイサツは大事だ。古事記にもそう書いてある。


挿絵(By みてみん)


...まさか夜勤のギルド職員がいたとは。完全に誤算だ。


そして、カゲゾー。名前だけは既に知っている。

一度目の定期掃討中、岩の裏に隠れていた私を察知した人だ。実力者だろうし、力での突破は無理だな。


「フタバ殿、何用があってここに来た。」

「ギルド長に会わせてください。」


「断る。今のお主は様子が異常だ。一度落ち着いてから出直す...」

「もういい。新技の餌食にしてやる。」


えいっ!


「ム!?少し待て、何か下半身に違和感がある…」

動揺するカゲゾー。そして前屈みになる。


やがて、彼は顔を真っ青にして『男の象徴』を介護し出した。


「あなたの『チ◯コのサイズを()()()<2倍>』にしました。」

「アイエエエエエ!?拙者のチ◯コ!?チ◯コナンデ!?ジッサイコワイ!」


今やったのは<2分の1>だ。


『対義語を使うと<2倍>の効果が反転する。』

大きさではなく小ささ、長さではなく短さなどを指定することで可能になる。


まあ、裏技みたいなもんだ。

対して役に立たないと思って封印していたが、世の中には小さいと困るモノもあるらしい。


「どっ、どうやったのかは知らんが、なんたる非道!ここまでされる謂れはないッ!」

冷や汗ダラダラのカゲゾーは私に対して構えを取り直す。


「おやおや?私に従わないと、ムスコさんは二度と元の大きさに戻りませんよ。」

「グッ...なんと卑劣なっ...!そ、それでも拙者は夜勤を完遂して見せるッ!」


彼は涙目になりながらも構えを解かない。男のステータスを半減されたというのに大した奴だ。

だが、ダークフタバの前には全て無力。追撃をかけよう。


「よーし、それじゃあ次はチ◯コちょん切っちゃおうかな〜?カゲゾーちゃんにしちゃおっかなァーッ!」

「オーマイブッダ!人の心がないのか!?そ、それだけはっ!何でもするから勘弁してくれッ!」


今のはハッタリだ。私の<2倍>で生物の部位切断は出来ない。

しかし、彼がそれを知る由はない。怪奇現象を見せた後のため、簡単に信じてしまった。


「それじゃ、カゲゾーさん。道を開けてもらいましょうか。」

「...いや、待て。やはり欺瞞だな。お前にチ◯コ切断などできないはずだ。」


は?なぜバレた。

しかし焦るな。ここは冷静に、冷静に...


「あわわ...なぜそう思うのですか!?」

「顔に出ているからだ。そして、今の動揺で確信した。」

「ぐぬぬ...!」


ちくしょうめ。コイツをどうやって無力化すればいいんだ。

<2倍>でチ◯コ切断なんて出来ないし、するつもりもないし...


あっ!そうだ!


本当にカゲゾーちゃんにしちゃお。

私の力は生物に対して自動補正がかかる。だから『アレ』が可能なはずだ。


「カゲゾーさん、道を開けてください。従わないのなら、私はエグいことをしますよ。」

「アイエッ!?...しかしそれもハッタリと見た。やれるものならやってみるといい!」


ではお言葉に甘えよう。


「『カゲゾーのX染色体を<2倍>』発動!」

「エッ?アッあっ、えっ!?」


カゲゾーの体型、顔つき、声、髪の長さが一瞬のうちに変化する。


「お、女になってるぅぅぅぅッ!?!?」


挿絵(By みてみん)


...高校で習った。

男はXY染色体、女はXX染色体を持っていると。そして、この違いが性別を作っている。


男はX染色体を1つ。女はX染色体を2つ持っている。

また、男だけが持つY染色体はX染色体より小さく遺伝子情報が殆どない。


つまり、男のX染色体を<2倍>にすれば女になるのだ。


「うわーッ!!拙者のチ◯コがッ!拙者の鍛え上げた肉体がッ!全部無くなってしまったッ!」

「ワザマエ!ダークフタバの卑劣な術だ!カゲゾーの尊厳は爆発四散!」


「なんて理不尽なッ!おなごの体になってしまうとは...うぅっ...」

「おやおや、なかなか可愛い容姿ではないですか。何が困るのです?」


「困るに決まってるだろう!?」

「そうですかね?私の故郷ならTS物として需要がありそうですけど。」

「お主は何を言っているんだ!?」


カゲゾーはさらに取り乱し始める。急にホルモンバランスが崩れた影響だろうか。


「うぁぁぁ...わけわかんないよぉ!どうなってるのぉ!」

「お、落ち着いてください。えっと...カゲゾーちゃん?」


「わッ...わァ...ぁ...」

「泣いちゃった!」


「フタバ殿ぉ...た、頼むぅ!元に戻してぇ!なんでも言うこと聞くからぁ...!」

カゲゾーは私の足元に擦り寄り懇願して来た。


「すんませんマジでやりすぎました...あとでちゃんと戻してあげますから。」

「ホントか!?約束してくれるか!?」

「約束してあげますから!さっさと道を開けてください!」


彼、いや彼女?は泣きながら私をギルド内に通した。


...

......


随分とはしゃいでしまった。


これから死ぬというのに。

ギルド長に殺してもらうというのに。

私の重ねた罪を、精算する時が来たというのに。


やれやれ、お調子者もつらいね。

しかし、そんな悩みも今日で終わりだ。


私は暗闇の中、罪を噛み締めるようにギルドの階段を登る。

ゆっくりと。確実に。


そして、階段の段差を踏み外して転げ落ちた後。


私は、明かりの漏れる執務室の前にたどり着いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ