20 熱きパクリスト
「俺のターン、ドロー! マナチャージ、キングゴブリンでシールドブレイク!」
「トラップ発動! メガミ・ゲート! ブロッカーとしてセイントゴーレムを2体を召喚するよ!」
ルールを把握した獣人の少女が、個性的な髪型の少年と『デュエル・マモノーズ』で火花を散らしている。
遊戯◯とデュ◯マのどちらをベースに作るか迷ったが、ルールがよりシンプルな後者にしたのは正解だった。敷居が低いため、他の子供達もすぐにデュエリストになれたのだ。
えっ?ポケモ◯カードの方が分かりやすい?
私はコイントスと、先行から殴ってくる水タイプがトラウマになっている。奴らを異世界にまで解き放つ予定はないよ。
おっと、鍋が吹きこぼれている。自問自答も程ほどにしなければ。
「そろそろ晩飯の時間だぞー!明日から忙しくなるからさっさと食って寝なよ!」
「「「「はーい!」」」」
…
……
次の日、私はギルド長にデュエル・マモノーズを布教した。
そして、どハマりした彼女にお願いして一通の紹介状を書いてもらった。
宛先は──商業ギルドの会長さん。
回りくどいことは得意じゃないので、トップの懐に一本勝負で飛び込むことにしたのだ。
「失礼します。地区大会5回連続初戦敗退、最強のデュエリスト、フタバです。」
「デュエ...?まあ、入りたまえ。」
会長さんは私を部屋に招き、座るように促す。ソファーは沈むようにフカフカで、かなり儲かっていると見える。
「さて、そちらのギルド長から紹介状は受け取ったよ。しかも最高級の菓子折り付きで。一体どんなものを見せてくれるというんだい?」
「取り敢えずこれを見てちょーだいな。」
私は彼に、片方のデッキを渡す。
これは昨日のうちに子供たち作り上げた、プロトタイプ製品だ。
「これは...魔物の絵? かなり精密だ。そして何か下に書いてあるな。」
会長は興味を示してくれた。ここからは私のセールストークが試される。スラム街の子供達のためにも気張っていこう。
全速全進だッ!『プレゼン能力<2倍>』を発動!
「最初はちょっと難しいんで、ポテトチップスでも食べながら聞いてください。」
私は新商品のポテチを皿に出しながらゲームの説明を始めた───
「なるほど。トランプと違って互いが全く別の持ち札を使うのか。戦略性が広がるな。」
「ええ!カードは多種多様。そこから自分だけの40枚を選ぶんです。」
「おお。カードに色々書いてあってとっつきにくいと思ったが、やることは実にシンプルだ!」
「ルールは一見複雑そうですけど、実際には簡単なんです!」
「ふはは!甘いぞ、フタバ!! トラップ発動! 破壊魔法のデーモン・御手手だッ!」
「ギャーッ!私のドスドステラワロスコッコがッ! ににににににんっ!」
すぐにルールを把握した会長は私と熱き決闘を繰り広げた───ッ!
「......というわけでこれを量産して売りたいんですよ。1パック5枚入り、ランダム排出で(小声)」
「カカカ!フタバ、お主も悪よのう。」
「更に同じカードでも、ごく稀に別のデザインが出るようにします。」
「コレクション要素もあるのか。射倖心を煽る、正に悪魔的発想...!」
「どさくさに紛れて魔物を擬人化させたエロいイラストもぶち込みます。これは超低確率で。」
「ウッヒョ〜!なんだか興奮してきたな。」
「後は定期的に運営主催の大会を開いたり、カードによって世界の命運が決まる物語を作ったり、プレイヤーの清潔感を指導したり......」
「いやー、素晴らしい。全面的に協力しよう。」
「ガッチャ!楽しいデュエルでした!」
私達は固い握手を交わす。
「しかし、君は天才だな!その若さでこれを思いつくとは。さぞかし努力もしただろう......
ん?なぜ目を逸らす?なぜ急に黙る?うおっ、汗が噴き出ているぞ!大丈夫か!?」
こ、答えは沈黙─────ッ!
...
......
「さて、フタバ君。ここからは商談だ。お互い、じっくり話し合いをしようじゃないか。」
「お、おお......?」
会長さんから、先ほどまでとは違う緊張感が漂い始めた。
商品説明が終わり、協力の約束も取り付けた。しかし、その詳細の取り決めはこれから決めるということか。
「君はカードの製造に、スラム街の子供たちを雇って欲しいと言ってたね。それは本当に素晴らしいことだと思うよ。」
「ですよね!まさにみんなハッピー!」
「しかしね、こちらとしては人材を育成するコストが見合ってない。ウチ専属の木工職人で替えは効くし、細かい文字だって銅板を使えば打ち込める。」
「うっ......それは......」
子供たちは雇えないと言いたいわけか。
向こうだって慈善事業でやっている訳じゃないだろうし、競争社会を生き残るには当然の判断だ。
「おっと、勘違いしないでくれ。君がこれから出す条件を飲み込めば、子供たちは雇うさ。」
「今のは交渉材料ってやつですか。肝を冷やしましたよ......」
それを聞いて安心するが、もはや向こうのペースに飲まれているな。
やはり素人に商談は厳しいか。会長さんが書き始めた契約書を見ながら、私は少し後悔をする。
「この条件に納得してくれたら、契約成立だ。」
「うっ......これは......!」
先に結論を言うと、悪くない。
全ての売り上げは商業ギルドに入り、雇われた子供達には毎月一定の給与が入る。流通や生産は全て向こうの負担なのだから、健全な取引だろう。
あわよくば私にマージンが入れば......なんて甘いことは考えてない。
「うーん、もうちょい子供達の給料上げてくれませんかね?これじゃ新しい服や薬も買えませんよ。」
「一日二食は、まともなものを腹いっぱい食べれるだろう。未成年労働としては破格の給与だと思うがね。」
残念ながら、会長さんの意見が"正論"だ。
薄汚いガキが正規の仕事に就けるなんて、それだけでも夢のような話だろう。しかし......
「会長さん。私と一つ、勝負をしてくれませんか?」
「給与アップを賭けてか。先に内容を聞こうじゃないか。」
私はテーブルに飾ってあった、記念通貨をつまむ。
表に女神リーヴェ、裏に豊作の小麦が刻まれたものだ。
「私がこのコインを3回投げます。全部表のリーヴェ様が出たら、子供たちの給料を倍にしてください。」
「......もし一度でも外したら、どうするね。」
「半分の給料で契約書にサインしますよ。いかがです?」
「大した度胸じゃないか。いいだろう、その勝負乗った!」
「では行きますよ。まずは1回目───ッ!!」
...
......
「フタバ姉!これってどういうイカサマなの?」
「なあに、種も仕掛けもございませんよ。二分の一の確立を毎回引き当ててるだけです。」
「"休憩終わりーッ!各員は作業に戻れーッ!"」
商業ギルドの所有する工房にて、スラム街の子供たちは一生懸命に働いている。
かくいう私も、ゲームバランス調整班として一時的に参加しているのだ。
「どうだ、フタバおねーちゃん。俺の考えたカードはすごいだろ。」
「攻撃力999999のドラゴン!?場に出ただけで勝利!?しかもこれ1ターン目から出せるじゃねーかッ!!」
とんでもないものを持って来た子供に、私は頭を抱える。
こういうオリジナルカードは、誰しもが作ってみたくなるらしい。
「通るかっ...!こんなもん...!不採用に決まってんだろッ!」
「通るっ...!」
「通らねえよっ!このタコッ!」
「か~ら~の~?」
「予定変更だッ!テメーを墓地に送ってやんよ!!」
私はクソガキとデュエルに突入する─────ッ!
「はい私の勝ちーwww」
「ちくしょー!あと少しだったのに!」
カードゲームを始めたばかりのガキンチョ相手なんて余裕だと思ったが、あやうく負けるところだった。私が弱いはずがないし、きっと彼も最強デュエリストなのだろう。
「というわけで、場に出ただけで勝利のぶっ壊れドラゴンは不採用です。」
「でもよ、神話に出てくるドラゴンはこれくらい強いんだぜ。世界を滅ぼしかけたんだ。」
「ダメダメ!ゲームバランスも滅ぼしちゃうよ!」
こんなやり取りを続けて早一カ月。カードのパックが販売され始めた頃に、私は冒険者生活に復帰することにした。面倒を見てくれる職人さんもいるし、子供達も仕事に慣れてきた。
私が居なくてもやっていけると安心できたからだ。
そして、この後の『デュエル・マモノーズ』の成功と子供達の生活向上を詳しく語るのは、私の分担ではないだろうから割愛させてもらう。
だって、これから先を切り開くのは子供達なのだから。




