17 いい湯だな
定期掃討が終わった日の夜。私は、極寒の川に服を着たまま身を投げ出す。
『体温<2倍>』で日課の入浴ををこなしているのだ。
「ひゃっほう!」
「お、おい大丈夫か?そんな自暴自棄になって...ホントはまだ抱えているものがあるんじゃないか?いくらでも相談にのるぞ。」
同行するギルド長は、河岸で心配そうに見ている。
「見ての通り、私にはまだ秘密があるんです。聞いてくれますか?」
「...やはりか。お前さえよければ話してくれ。」
私は定期掃討の帰り道、彼女に「信用している」と言った。だからすべて話しておくのがスジだろう。
えいっ! 『私とギルド長の体温<2倍>』発動。
「んっ!?体が熱い…♡ なんだか頭もぼーっとしてほてってきちゃった♡ 一体私に何を...」
「そういうのいらないんで早くこっち来て下さいよ」
私はギルド長にも入浴を促す。
「ひゃっほう!」
彼女も服を着たまま極寒の川にダイブした。
「おお、なかなか気持ちいいぞ!一部の地域では体全身を熱い湯にひたす文化があるそうだが、これがそうなのか。」
ギルド長も気に入ってくれたみたいだ。
そして彼女は続ける。
「さて、今ので確信した。お前の能力は『時間遅延』じゃないんだな。」
「そうです。当ててみてください。」
ちょっとした遊びだ。反応を見て少しずつヒントを出していこう。
「...うーむ。なんでも<2倍>にできる?」
「きっしょ、なんで分かるんですか...」
即答した彼女に私は戦慄する。エスパーかなんかか?
「いや、お前が当てろと言ったんだろ…というかマジ?」
「マジです。『一度に一つだけ、ありとあらゆるものを2倍にできる。』そういう能力です。」
それを聞いたギルド長は機能停止した。
そして5分後くらいに再稼働した彼女は、ゆっくりと口を開く。
「…3日前に月を輝かせたのはお前か。」
「そうです。私です(笑)」
「お、お前ェェェェェェッ!」
ギルド長は私にアームロックを仕掛けてきた───ッ!
「があああっ!お…折れるう〜〜〜!腕が変な方向に曲がってしまうッ!それ以上いけない!それ以上はいけないッ!」
「黙れクソムラサキ!どうせお試し感覚でやったんだろ!」
「そうですすすッ!できるかなーって思っちゃっいででででッ!」
「頭イかれてんのか!?それは世界を滅ぼす危険な力で…危険…な…」
ギルド長は私を静かに解放した。常に爆弾を抱えている私を憐れんだのだろうか。
「...能力の発動はどうやっているんだ?」
「強く念じるだけです。幸い、本心からそうしたいと思わない限りは発動しないセーフティが掛かっているみたいです。」
「そうか...保険があるのは安心したよ。」
彼女は、ほっと胸をなでおろす。
「ギルド長に力の全てを話したのは私のエゴです。誰かに相談しないと潰れてしまいそうだったので。そしてごめんなさい。また貴方に重荷を背負わせちゃいました。」
「いや、むしろ肩の荷は軽くなったぞ。お前が使えるのが『行動時間<2倍>』だけの方がヤバかった。誰もが欲しがるからな。
しかし、今のお前は歩く抑止力だ。無詠唱で『世界の海水量を<2倍>』にできるイカれ女は誰も欲しがらないし、無理に従えられない。」
あ、そうか。私には悪意の手が迫ったら世界を巻き込んだ自爆というカスの切り札をチラつかせることができるのか。そして私と繋がりのあるギルド長に危険が迫ることも無くなった。
やった!完全に不安要素が消えた!
「というか、<2倍>がバレたらお前は危険人物として処刑されるぞ。そうなったら私は知らんぷりするからな。共謀罪で巻き添えはごめんだ。」
ちっくしょ!不安要素が特大に増えた!
…
……
私とギルド長は河川から上がり、76度の体温でビッシャビシャの服を乾かしながら帰路についている。
「フタバ。お前が処刑でもされたら目覚めが悪い。もう少し自重して、ただし懸命に生きろ。」
やはり貴方は優しい人だ。私のことを案じてくれている。
「あ、でも次の定期掃討も来てくれよ。『行動時間<2倍>』は街と冒険者の安全確保のために必要だ。」
「勿論です。繰り返しになりますが、私を頼ってください。」
貴方を信じていますとは恥ずかしいからもう言わない。
「それに私も最強の<2倍>を試してみたい!どんな魔物も即死にできそうなのを思い付いだんだ!」
...後は狂ってさえいなければ完璧なんだけどなあ。
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