15 定期掃討
私とギルド長は今、『行動時間<2倍>』発動しながら樹海を進んでいる。
強い魔物のみを討伐して街周辺の安全を確保する定期掃討が始まったのだ。
「ギルド長、オークがいますよ!」
「雑魚じゃないか。定期掃討のターゲットを報告してくれ。」
「ギルド長、でかいゴブリンですよ!」
「あれはキングゴブリン、樹海の生態系に必要だし中堅冒険者グループなら問題ない。無視だ無視。」
「あ、ドスドステラワロスコッコだ。可愛いなあ。」
「なんだと!奴は人間を優先的に襲う害獣だッ!あれは後ろに続く奴らがやる。私達はもっと深くに行くぞ。」
そう言って、ギルド長は高い口笛を数回吹く。
「キヒャヒャ!ドスドステラワロスコッコ...みーつけたァ!!」
ヒステリックな叫び声と共に、後ろから衝撃が響いた───ッ!
...私たちは更に樹海の奥へ奥へと進む。
倍速による効果で、他のギルド職員や冒険者よりも、かなり先行して進路の確保を続けていた。
すると突然、正面の大木の裏から巨大な人影がぬるりと現れる。
「あ、あれは…!ミノタウロス!?」
視界の先には身長3.5m越えの筋肉モリモリマッチョマンの半牛半人。
そして歪な大斧を振り回しながらこちらに突進してくる。
そして何より恐ろしいのは奴の動きはスローに見えないことだ。
元から素早いためなのか『行動時間<2倍>』があまり通用していない。
現状で時速40km程のスピードを出している。
私は足がすくむ。
勝てない。<2倍>でどうにもならない圧倒的な力の差を確信したのだ。
「本来樹海には出ないのによく知ってるな。ああいうイレギュラーを我々が狩って街の人々や新人冒険者を守っているんだ。ちなみにミノタウロスの肉はなかなか美味で」
「その説明今じゃないとダメですかッ!?ヤバいですよ!こっち向かってきてますよ!」
「問題ない。お前は打ち合わせ通り、近くで見学してろ。」
そういうとギルド長はミノタウロスに真正面から突っ込んでいった。1人で。
「魔物の動きが遅くなるのはありがたいな。お前の強化魔法がなかったら苦戦したかもしれん。」
よく言うよ。
先程ギルド長はミノタウロスの顎に飛び膝蹴りを入れた後、ヤツの顔面を槍でメッタ刺しにした。
「一度職員に連絡をする。お前は身バレしないようにそこの岩陰で隠れてろ。」
彼女は緑色の煙幕を焚きながら私に指示を出した。そして、言われるままに隠れていると何者かがやってきた。
「"カゲゾー"、何か異常はあったか?」
私は隠れているため見えないが、ギルド長は誰かと状況確認をしているようだ。
「いつもより中型の魔物が多いです。加えて負傷者が既に3人出ました。」
......負傷者が出たのか。
「やはりか。こちらはもうミノタウロスが出た。お前はここより奥のエリアはAランク以上のみが受け持つように伝えろ。それと、ヒアル爺へ出動要請も頼む。」
「御意。ところで後ろの岩陰に隠れている方は?」
こっちから見えてないのになんで分かるんだよ。
私は冷や汗をかきながら、フードをより深く被る。
「頼れる助っ人だ。詮索はするな。」
「はっ!直ちに業務に戻ります!」
そして職員は音もなく一瞬で消えた。
「待たせたな。さ、ついて来い。」
彼女そう言ってまた樹海の奥に駆け出して行く。
それからギルド長は見たこともない数多の魔物達を蹴散らしていった。目にも止まらぬ槍捌きが全てを貫く。Sランク冒険者の肩書は伊達ではないようだ。
私も戦いの渦中にいるので危険ではあるが、彼女が近くで常に守ってくれるため安心感の方が優った。
そして今、ギルド長はメタルゴーレムとやらを執拗に槍で削ってアヴァンギャルドな彫刻にしている。
「ケケケーッ!動きが止まって見えるなァァッ!お前を芸術品にしてやんよ!」
今は魔物よりギルド長の方が危険かもしれん。
…
……
私達は樹海奥の開けた所で昼休憩をとる。まだ10時ごろだが、『行動時間<2倍>』を常時発動し続けているため2倍の速度で腹が減るのだ。
私は携帯食を取り出す。モン◯ンで憧れていたので買っておいたのだ。どんな味だろうか。
グシャグシャ… ジャリジャリ…
汗のような味と砂を口に含んでいる感覚。
食べ物の姿か?これが。
しかし、こちらも食わねば無作法というもの。
私は強引に水筒の水で流し込む。
ギルド長は隣で私の槍を手に取って眺めていた。
「お前の槍は少し貧相だな。これはアームドスネークの鱗には通用しないぞ。」
「いやいや!このエッジの効いたエロい刃を見てくださいよ。アームドなんたらは知りませんが、小型の魔物なら一撃必殺です!そんなライジングドラゴンスピアー君をどうぞ褒めてやってください。」
私は隣で相棒の素晴らしさを熱弁する。
「どらごんすぴあー?ああ、神話に出てくるドラゴンから命名したのか。変わった名前をつけているな。」
あれ?この世界でもドラゴンは創作上の生き物なのか。魔物がいるのに変わってるな。
そう考えていると、突然ギルド長は私の槍を茂みの奥へ豪速球で投げた。
私は彼女が狂ったのかと思って頭に回復ポーションをかけることを勧めたが、槍を取りに行けと言われたので嫌々茂みの奥に入る。
...アームドスネークらしきものが死んでいた。硬い鱗のある喉に槍がブッ刺さったまま。
私が槍と魔石を拾って戻ってくると彼女は呟いた。
「いい槍だな、訂正するよ。軽くて投げやすい。」
やはりギルド長は狂っていた─────!




