14 葛藤
時刻は夜。私は極寒の川に服を着たまま浸かり、考えごとをしていた。
…私は<2倍>で碌なことができない。
結局『成長速度<2倍>』で芋の遺伝子組み換えをする案は成功するか分かってない。机上の空論だ。
そして何より。
『行動時間<2倍>』を掛けられる人数に、おそらく上限はない。
もし王国軍に捕まったら、私は暴力の行使を拒むことができるだろうか。
強要するための拷問や洗脳に耐えられるだろうか。
いつかこの力を使って人を殺してしまうのではないだろうか。
私はこの力を振るうのが怖くなってきたのだ。
あ、『体温<2倍>』は別ね。これがないと川で入浴と洗濯を同時にできないから。
そして、明日はギルド長との約束がある。定期掃討の日だ。
『行動時間<2倍>』で私はギルド長と樹海の脅威を排除する。
約束は約束だ。それに正しい力の使い方なら構わない。
私はビチャビチャになった服を72度の体温で乾かしながら宿へ向かった。
…
……
次の日。
「諸君、今日は定期掃討の日だ。魔物の脅威から街の人々を守れ!あと...えっと...なんだったか。
もういいや!大物をぶち殺せッ!以上!」
「「「「「オオーッ‼」」」」」
「ギャハハ!今回のMVPは俺だァァァァッ!」
「しばき倒すぞゴルルルァッ!」
「きひゃひゃ...ドスドステラワロスコッコはあーしが殺るーッ!」
「ジャックは置いてきたわ!この戦いにはついていけないッ!」
ギルド長が発破を掛け、職員や腕の立ちそうな冒険者が血眼で樹海へ駆け出していった。
その暴走集団が通り過ぎた後。
私は身バレ防止のフードを被り、ギルド長と合流する。
「やっほーフタバ、ギルド長がきたよ~ん。」
「初日とキャラ違いませんか?」
「いやすまない、大物を狩ることを考えるとあまりに昂ってしまってな。私は普段事務作業ばかりだから鬱憤がたまっているんだ。」
彼女は仕事の話をする一瞬、この世の終わりみたいな顔をした。相当ブラックな職場の様だ。
「ところでギルド長おひとりですか?パーティーメンバーがいるのかと思いました。」
「冒険者時代は居たんだがな。だから『行動時間<2倍>』は私とお前だけに使えばいいぞ。」
「了解です。」
「じゃ、早速頼むよ。私も早く暴れたいんだ。」
ギルド長はごっつい槍を握って、私に狂気の笑みを見せた────ッ!
構成上、今回の話は短めです。次からは元の文章量に戻ります。