13 魔術ギルドと図書館
また朝が来た。おはよー異世界。
...あれ?何かしなければいけないことがあった気がする。
寝る前に凄いことを思いついたような…
「あ!昨日歯磨きしてない!」
そうだ。歯を磨かず寝てしまったんだ。
この世界で虫歯になったら大変だからね。しっかり磨こう。
「フタバ、起きてるー? 朝ごはん一緒に行こーっ。」
「ふごふご...食事の後に歯を磨くべきだったな...」
朝の支度を済ませた私は、宿の食堂で朝食を取る。
今日の献立はコッコエッグ、オークソーセージ、山盛りのキャベツ、蒸した芋。
ご機嫌な朝食だ。
いや、まてよ......蒸かした芋?
「そうだ、芋を栽培するんだ!『収穫量<2倍>』で遺伝子組み換えのやつを!」
「え、芋がなんて?フタバは農家になるの?」
私のひらめきに、隣でおどろくケイト。うっかり考えを口に出していたようだ。
「いや、その…芋ってどれくらいでの期間で収穫できるかわかる?」
思わず立ち上がっていた私は席に座り直す。
「よぐわがんねーや。」
向かいでイモをかじっているジャックは即答。
「んー、半年くらい?感覚だけど。」
ケイトはしばらく考えて答えてくれた。
半年…たしかにそれくらいかもしれない。二毛作って言葉があるくらいだし。
私も大体同じ見通しだ。
「詳しいことは魔術ギルドの図書館か、郊外で農家の方に聞いてみると確実かも。」
「ありがとうケイト!この後図書館に行ってみるよ。」
農家さんに声をかければすぐ分かるが、他にも調べたいことがある。
私はこの国の地理や法律、政治事情すら知らない。この際、図書館でまとめて頭に入れてしまおう。
今日はお勉強の日だ。
…
……
私は魔術ギルドに来ている。冒険者ギルドの2ブロック隣だ。
魔法で大量の水を出してくれなど、魔術に関わる依頼はこちらで仕切っているらしい。
そして、大量の書庫を研究の為に管理している。
レンタル料を払えば、私のような一般人でも本を手に取ることが出来るそうだ。
早速、農作物に関連する本を読み始めよう。
「ふむふむ...芋の栽培には90~120日かかるのか...」
意外と短い期間だけれど、大変なのは変わらないな。
問題は、私は品種改良のために『収穫量<2倍>』を長期維持しなければならないことにある。
能力を維持すること自体は大丈夫だ。
体に負担がないのでその気になれば、数年でも保てると思う。
問題なのは...芋が育てきるまでの間、他のことに<2倍>を使えないのだ。
もし他の事に使うとその瞬間に、ただの芋に戻ってしまう。
これは『1度に1つだけ』という制約があるためだ。
とてもじゃないが今の私に、3カ月以上も自由時間は作れない。
そもそも、日々冒険者として戦って生活費を稼がないといけない。
『行動時間<2倍>』がないと小型の魔物にすら後れを取ってしまうだろう。
このバフを用いて、定期掃討を手伝って欲しいというギルド長との取引もある。
ならば...『成長速度<2倍>』の芋を作るのはどうだろうか。
そうすれば45~60日の栽培期間で済む。それに、収穫量が倍になるイモと本質的には同じだろう。
まあ、それでも現状は難しいだろうな。
一番の壁は農家を始めるにあたって土地がいることだ。
ダーフル王国は封建制度を取っている。土地は国や領主のもので、私みたいな庶民は自由に買えない。
「あー、アイデアはいいと思うんだけどなァ。」
もどかしいが、これはとりあえず保留だ。
焦ることはない。私の異世界ライフはまだ始まったばかりだ。
せっかく図書館に来たんだし、今日は残りの時間でこの世界について学ぼう。
私は本を交換してもらい、ページを開く。読むのはこの国の歴史書だ。
「げっ、この世界も戦争があるのか。人類は愚かだねぇ…」
残念なことに、この世界の脅威は魔物だけじゃないらしい。
私のいるダーフル王国は、2つの隣国と数十年に1度くらいの間隔で大規模な戦争をしている。
対立の原因は宗教的な対立や、人や獣人など種族の違い、資源の争奪など。
あまり難しいことは分からないけれど、地球と大体おんなじだ。
違いがあるとするなら、戦争で優劣を決めるのが魔法にあるということだ。
資料を見る限り、魔法には絶対的な力がある。
炎で遠方の敵を焼き、補助魔法で近くの味方を強化する。
剣で戦う世界に、銃やパワードスーツが出てくるような感覚だろう。
......やはり、私の転生特典<2倍>は絶対に隠し通すべきだ。
私が無理やり軍に徴兵されたら、『軍隊の行動時間<2倍>』を使わされるだろう。
もし、そうなったらおしまいだ。
1日で2日行動できる上に、身のこなしが爆速の、最強兵士を量産してしまうことになる。
ああ...ギルド長に力の片鱗を見せたのは迂闊だった。
彼女には重い秘密を背負わせてしまった。
予測できたリスクだろうに、もっと考えて行動すればよかったな。
私は誰も殺したくない。誰も巻き込みたくない。そしてこれ以上…
「フタバさん、予約していた魔術適正検査の用意ができましたよ。」
「おっと、今行きます。」
職員さんが、本を読んでいる私へ声をかけに来た。
ここは魔術ギルド。魔術適正の検査を受けることができるのだ。
暗い気持ちを切り替えるのに丁度いい。私の魔術センスを職員さんに見せつけてチヤホヤしてもらおう。
なんならお願いされれば天才魔法少女として活躍してやらんこともない。
私は本を返却し、颯爽と検査室に向かった。
...
......
職員さんの指示で、綺麗な水晶に手をかざす。
特に色が変わったりしないが、そのまま動かないように言われた。既に検査は始まっているらしい。
「フタバさん。知っての通り、魔術というのは50人に1人程度の人が生まれつき扱える特殊な才能です。親から第一子にだけ引き継がれたり、血縁に問わず突発的に発現したりと未だに謎で溢れています。」
「あ、ああ...そうなんですか...」
誰もが土を生成したり、傷を癒せるというわけじゃないのか。どうりでそんなに見かけないわけだ。
ジャックとの試合で強化魔法を使っていたチンピラって、実はすごいやつだったんだな...
「ただし、体内の魔力を練り上げる素質があるのなら...高度な訓練次第で後発的に魔術が発現する可能性があります。そして、それを魔術適正と呼ぶのです。」
「おお!それで私の適正はどれくらいなのですか!?」
私は知っている。このような力を測る場面でのお約束というものを。
そう。圧倒的な数値が出てきて、周りがオーバーなリアクションを取ってくれるのだ。
「フタバさんの魔術への適正はゼロですね。」
「......ゼロですか。」
「そもそも体内の魔力がゼロです。こんな人初めて見ましたよ。」
「......1か2くらいありませんか?」
もし多少でもあるなら<2倍>でカサ増しできるはずだ。
そして私をちょいとでもチヤホヤしてくれ。
「一切ないですってば。あなたは魔術を使うための魔力すら持っていません。ここまで才能がない人は一周回って大変貴重ですし、題材にすれば50本は学術論文が書けますよ。どうです?論文の共著者欄にフタバの文字を入れ...」
「か、勘弁してください!検査ありがとうございましたーッ!」
私は涙目で退散した─────ッ!