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神々の庭園


 シオンと私、カナデは【神々の庭園】の入り口から配信をスタートした。配信ドローンが、私たちの姿を視聴者たちに届けはじめる。


 一度決めたらすぐに行動するのがシオンらしい。

 コメントは大盛り上がり。同接も順調に伸びていく。


 その数字はあっという間に私たちの最高同接数を超え、10万人を突破した。


 それはそうだろう。

 あの絶賛話題沸騰中のダンジョンを攻略するのだから。


 とはいえ、今日はあまり深入りするつもりはない。

 さすがのシオンもそこまで無鉄砲じゃない。

 ……まぁ、私が強く止めたんだけどね。


 私たちの目標はただ一つ。

 ――あのブログに書いてあることが本当かどうか確かめる。


 そのためには、最低でも第一階層に踏み入る必要がある。

 あのS級クランの【エバーライト】が探索を断念したという、第一階層に。


 彼らが探索を断念したというニュースが流れてから、このダンジョンは長らく話題に上がることはなかった。


 隣に立つシオンは、今日の企画の趣旨を視聴者たちに説明している。私はどこか落ち着かない気持ちでそれを眺めていた。

 

「……カナデ、準備はいい?」

 

 そのパンドラの箱とも言えるダンジョンの入り口に立ち、シオンが私に向かって確認する。


 正直、とても怖い。

 だけど私はぎこちない笑顔で頷いた。


 私だってA級探索者だ。

 それに、シオンはつい先日S級にランクアップした。


 ……私たちならやれる。きっと、必ず。


《ここが神々の庭園……》

《なんかめちゃくちゃ神々しいな》

《二人とも気をつけて》

《シオンさまなら大丈夫だって!》


 コメントを横目に見て、私は覚悟を決めた。


「さて……それでは行きましょうか」


 シオンは生粋の探索者だ。

 今ではアイドルみたいな扱いをされることもあるけど、本当はダンジョン探索が大好きなだけの真っ直ぐな女の子。

 そしていつだって、どんな困難だって乗り越えてきた。


「『ぼっちのダンジョン攻略記』によると……まず、第一階層に現れるのは天使型のモンスター……」


 そんなシオンが、ぶつぶつと小さく呟く。

 これは彼女が集中している時の癖。独り言が増えるのだ。本人は気づいていないみたいだけど。

 コメントが盛り上がる。《いつものアレだ》《覚醒シオンキタコレ》《覚醒たすかる》。


 シオンの片手には、ダンジョン内でだけ使えるスマホ型デバイスが握られていた。あのブログを表示させているのだろう。


 昨日、【神々の庭園】を攻略すると決めた後、私たちはそのブログをとにかく読み込んだ。


 第一階層に現れるのは、天使型モンスターだという。

 ブログの主はそのモンスターを《アークエンジェル》と呼称していた。


 ――《単体で現れた場合、冷静に対処すれば問題ない。一度倒せばリスポーンまではしばらく時間がかかる。一階層につき、3体までしか存在できない。しかし同時に二体現れた場合は対処が難しくなる》


 もし記事が本当なら、そこまで危険度は高くなさそうだ。

 ダンジョンで一番危険なのは、モンスターに囲まれ退路を断たれること。そう言う意味では、《アークエンジェル》は安全と言える。


 現に、【エバーライト】は大きな被害を出すことなく撤退することに成功している。


「いくよ、カナデ」

「……うん。いこう、シオン」


 愛刀を構えたシオンに強く頷き返す。

 私も使い慣れた盾を構え直し、一呼吸。


 決して、油断はしない。

 シオンは私が守る。


 荘厳な装飾が施された扉に、シオンが手をかざす。

 すると、ギィィ、とイヤな音を立てながら扉が開いた。


 少し冷たい空気が頬を撫でていく。

 扉の先の光景を見て、このダンジョンが【神々の庭園】と呼ばれる理由が分かった。


 天国だと錯覚するような景色。そこに白く、美しい天使がいた。

 まるで彫像のような、均整のとれた顔。

 その目は閉じられていて、私たちを見ていない。しかし、その天使が私たちに気付いていることは分かる。


 ――殺気が、飛んできているのだ。


「……あれが、アークエンジェル……?」

「そうみたい。カナデ、動ける?」

「う、うん」


 事前に読み込んだ情報のおかげで、私はいくらか冷静さを保つことができた。もし《アークエンジェル》のことを知らなかったら、あの異様な圧に呑まれていただろう。


 そう言い切れるほど、このダンジョンは他とは違う。――なにもかもが。

 

「それじゃ、予定通りにいくよ」


 シオンの声に、私は無言で頷き返す。

 攻略記事を読み込み、私たちは作戦を立てた。


 ――《アークエンジェルは、最初に必ず雷光のような攻撃をしてくる。片手を上げたのを見たら、すぐさま攻撃に移るのがベスト。詠唱が完了するまで、約3秒。ここで勝負を決めよう》


 あのブログにはこう書かれていた。

 簡単に書いているが、3秒という時間はとても短い。

 迷っている暇はない。すぐに動き出さないと間に合わないだろう。


「……きたっ!」


 《アークエンジェル》がこちらに気づいた。

 そして記事の通り、《アークエンジェル》は片手を上げ、詠唱をはじめる。


 ──ここまではあのブログの通り。


 

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