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side 仲間、そしてライバル


「カレンさん、そっちはお願いします!」

「任されましたわっ!」

「シオンはあっちを!」

「了解っ!」


 《幻影の塔》、第七階層。

 ビジョンリッチの群れと戦いながら、私はカレンさんとシオンに指示を飛ばす。


 この階層は、マサルが大怪我をしたとニュースがあった階層。

 そのニュースにもあった通り、モンスターの数がとても多い。少しでも気を抜けば取り囲まれてしまいそうだ。


 二人の位置とモンスターの位置、そして常に周囲に気を配りながら、戦闘を続ける。


 この階層で、主に現れるのは、《ビジョンリッチ》。

 《霧化》という厄介な特性を持つ、危険度Aクラスのモンスターだ。普通の探索者なら苦戦は免れないだろう。

 

 だけど《霧化》の対処法は、すでに佐藤さんから聞いている。


 ビジョンリッチは攻撃をする時に必ず姿を現す。そしてそこをカウンターして倒す、というのがこのモンスターの攻略法らしい。


 とはいえ、普通ならそんなことは出来っこない。現れるのはたったの一秒にも満たないという話だし、そもそもビジョンリッチ自体が強力なモンスターなのだ。


「見切りましたわ!」

「私も!」


 ……だけど、シオンとカレンさんの二人は別だ。

 佐藤さんから聞いた攻略情報を、すぐさま実行に移している。もう二人が倒したビジョンリッチの数は数え切れない。


 あたりに転がる、たくさんの魔力結晶がここまでの戦いの苛烈さを物語っていた。


「そこですわっ」


 最後の《ビジョンリッチ》に、カレンさんがトドメを刺す。まるで背中に目がついているような、そんな動きだった。


「ふぅ……やっぱり、このダンジョンも異常が起こっているみたいですわね」

「だと思う。こんなに群れるビジョンリッチなんて、聞いたことないし」

 

 二人が言うように、普通なら群れることのない《ビジョンリッチ》が群れをなしている時点で、このダンジョンでも異常が起こっているのは間違いない。マサルたちが大怪我をしたのも、このせいだろう。


「二人は大丈夫? かなり長い時間戦ってたけど……」


 この階層に入ってから、かれこれ1時間ほどは経つだろうか。先に進むにしても二人の体力が心配だ。


「平気平気! こういう時のために鍛えてますから!」

「私も大丈夫ですわ。鍛えてますので」


 シオンに張り合うように、カレンさんが言う。

 さすがは一流の探索者。無駄のない動きを徹底しているからか、疲れも少ないみたい。


 とはいえ、見えない疲れが溜まっている可能性もある。ここは一度、休息を挟んだ方が良さそうだ。


「分かりました。……なら、10分だけ休憩しましょう」

「はいですわ」

「りょーかい!」


 睨み合っている二人に声をかけると、あっさりと了承してくれた。


 いがみ合っているように見えるけど、お互いをライバル視しているだけで、本当は仲良しな二人だ。じゃなかったら、お互いの背中を任せ合うなんてできるはずがないからね。


(いいなぁ……)

 

 二人が羨ましい。

 私は二人に並び立てるような存在になれるだろうか。

 二人の役に立てているだろうか。


 地面に腰を下ろし水筒の水を飲みながら、そんなことをつい考えてしまう。このダンジョンの攻略だって、言い出したのはシオンだし、初めに佐藤さんに認められたのは、カレンさんだし……。


 ――私だけのなにかって、一体なんだろう?


「どうしたの、カナデ? 顔色悪いよ? 体調悪い? それとも心配ごと?」

 

 そんな私のちっぽけな自己嫌悪に気づいたシオンが、心配そうに声を掛けてくる。


「あら、大丈夫ですの? ええと、確かカバンの中に……あ、ありましたわっ!」


 カレンさんがどこからともなく取り出したのは、一枚の板チョコだった。え、どこから出したの……?


「あ、ありがとうございます……」


 不思議に思いながら受け取り、パクリ。

 口の中に甘さとほんの少しの苦さが広がって、気分が落ち着いていく。


 ――ああ、やっぱり敵わないなぁ。

 佐藤さんの隣に立つに相応しいのは、強いだけじゃなくて、人を思いやれる二人みたいな人なんだろうな。


「無理しないでね。カナデのおかげでここまでこれたんだし」

「はい。あなたの的確な指示があるから、私たちは安心して戦えているのですから」

「えっ……?」


 私も二人の役に立てているのかな……? そう思ってもいいのかな……?

 もしそうだとしたらとても嬉しい。尊敬する二人に認められることが私の目標だったから。


「あ、ありがとう」

「ふふ、こちらこそですわ! さ、もう一枚チョコを差し上げます」


 まるで手品のようにまたチョコが出てきた。さすがSS級探索者、そんなこともできるんだ……。

 

「えっとえっと、私は……」

「ふふ、シオンには出来ませんわよねぇ?」

「くっ……! カナデ、ほらこれ!」


 悔しそうなシオンが、カバンから取り出したタオルを渡してくれた。

 そんなことで張り合わなくてもいいのに、と思わずクスリと笑みがこぼれてしまう。

 

「ちょ、カナデ! 笑わないでよぉ」

「ご、ごめん。二人が仲よさそうにしてるのを見てたら、なんだかおかしくって」

「な、仲良くなんてありませんわっ」


 口では否定しているけど、どことなく嬉しそうなカレンさん。ここまでわかりやすい人、初めて見たかも。

 シオンも分かりやすいほうだけど、カレンさんはそれ以上だ。

 

 

 そのあと、私たちは休憩しながらいろいろと話した。

 シオンが気になっているのは、どうやらカレンさんと佐藤さんがどうやって出会ったのかということらしい。……私も気になるな。 


「そうですわね……あの出会いを運命と呼ぶのでしょう」

「あ、そういうのいいですから」

「なっ」


 シオンは少しずつカレンさんの扱い方を理解してきたようで、なんだか楽しそうだ。

 口調も少しずつ砕けてきて、いつものシオンって感じになってきている。


「私も気になります。カレンさんってもともと海外で探索者をしていたんですよね? どうして日本に?」

「それは当然、あの配信がきっかけですわ」

「あの配信?」

「ええ。タイチがあなたたちを颯爽と助けた、あの配信ですわ」


 あの配信……カレンさんも見てたんだ。

 話題になっていたのは知っていたけど、まさか海外まで影響があったなんて。


「あのときのタイチは、それはもう凄かったですわ! 見たこともないようなモンスターをあっという間に倒してしまうんですもの」

「ホント、凄かったよねあのときの太一さん。私たちを助けるために動いてくれたのも嬉しかったし」

「……羨ましくなんてありませんわっ」


 どう見ても悔しそうなカレンさんを見て、シオンがにししと笑う。そうだ、佐藤さんに会ったのは私たちの方が早かったんだった。


「アレがきっかけだったんだね? てことは、カレンさんが太一さんと出会えたのは私たちのおかげってことかな?」

「ぐぬぬ……」

「それで、日本に来て佐藤さんと出会ったんですか?」

「そうですわ! 最初にタイチと会ったのは《神々の庭園》の入り口で――」


 その後、カレンさんは楽しそうに佐藤さんとの出会いを語り出した。


 佐藤さんは最初、カレンさんのことを知らなかったらしく、色々とはぐらかされたこと。

 サインをもらったこと。

 そのあと、《神々の庭園》内ですぐに再会したこと。

 現れたモンスターを倒すため、初めて共闘をしたこと、などなど。


「いいなぁ……」

 

 その話を聞いて、今度は私たちが悔しがる番だった。

 なにせ、佐藤さんと初めて共闘したのはカレンさんなのだ。羨ましいに決まってる。


「その後、お家にも行きました。あのとき食べたカレーはすごく美味しかったですわね」

「わ、私たちだって食べたもん。……ね、カナデ?」

「う、うん」


 そのあと、私たちも佐藤さんとパーティも組めたし(カレンさんもいたけど)私的にはそこまで悔しくはない。カレンさんは昔からの憧れだったというのもあるかもしれない。


 数年前、女性初のS級探索者が誕生したと聞いたときは、本当に興奮したっけ。カレンさんが世界初のSS探索者になったときは、自分のことのように嬉しかった。


「どうしたんですの、カナデ?」

「……え?」

「なんだか嬉しそうですわね?」


 ……そうか。私は嬉しいんだ。

 カレンさんには私の気持ちがお見通しみたい。分かりやすいのは、どうやら私もだった。


「まぁ、私はあなたたちに負ける気はないですけれどねっ」

「はい。私も負ける気はありませんよ?」

「ふふ、それでこそライバルですわ!」


 ライバル……いい響きだ。

 カレンさんは、今まではただの憧れだった。

 だけど今は、こうやって私のことを認めてくれている。ライバルとして、そして恋敵として。


「それじゃそろそろ行きましょうか」

「ええ、タイチに良い報告ができるよう、頑張りましょう」


 立ち上がり、ダンジョンの奥へと向かう。

 その先からは今までにないプレッシャーが感じられた。

 おそらく、この先にはたくさんの困難が待ち受けているだろう。


 だけど、不思議と負ける気はしない。

 二人が一緒なら、なんだってできる気がする。


 待っててください、佐藤さん。

 あなたと並び立てるよう、頑張りますから。

 ――ライバルとして、ね。

 


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