決意
「太一さんって料理もお上手なんですね!」
「ま、まぁね……」
「すごく美味しいです。お店に出てきてもおかしくないくらい……」
三人でスマシスを堪能した後、俺は二人に特製カレーを振る舞った。
反応は上々……どころか、ベタ褒めである。
シオンはリズム良くカレーを口に運び、反対にカナデはゆっくりと味わっていた。
食べ方一つとっても二人の個性が見えて面白い。
そうこうしてるうちにたくさん作ったはずのカレーもすぐになくなってしまった。
二人が意外と量を食べるのには驚いた。
こんなにたくさん食べるのにスタイルがいいのは羨ましい限りだ。俺は食べたら食べただけ太る体質だからなぁ……。
「「ごちそうさまでした」」
二人は満足そうに手を合わせる。
食べ終わった食器は二人が片付けてくれた。「俺がやるからいいよ」と言ったけど、「ごちそうになったので、片付けさせてください」と二人に強く言われたのでやってもらうことにした。
憧れのアイドル配信と一緒に自宅でカレーを食べることになるなんて、ちょっと前までの俺が聞いたら信じないだろうな……。
片付けを二人に任せている間、手持ち無沙汰になった俺は、テレビのリモコンに手を伸ばした。
普段ほとんど見ることのないテレビだけど、さすがに待っている間パソコンを触るなんてできないしちょうどいい。
『――速報です。つい先ほど、S級探索者の新山マサルさんが、ダンジョン攻略中に大怪我を負ったとのことです』
たまたまつけたニュース。そこではニュースキャスターが慌ただしい様子で速報を伝えていた。
新山マサル……。
S級ってことはかなりの実力者だな。だけどダンジョンは何が起こるか分からない。油断すれば、どんな実力者だろうと大怪我……それどころか命を落としてもおかしくない。
『幸い、命に別状はないとのことですが、しばらく探索者としての活動はできないとの見方です』
『新山マサル氏といえば、現在《幻影の塔》を攻略中とのことでしたよね』
コメンテーターらしき人物が補足説明を入れている。《幻影の塔》といえば、かなり昔から存在するS級ダンジョンだ。やっかいな特性を持つモンスターが多く、日本でも有数の高難易度ダンジョンとして有名だ。
『はい。つい先日も、《幻影の塔》の攻略情報について発信していましたね』
『となると、別パーティが攻略を進めることになりそうですが代わりのパーティはいるのでしょうか。ダンジョンは放置すると危険ですし、このままでは色々と問題が起こりそうですね』
コメンテーターが不安そうに締めくくる。
彼が言う通り、ダンジョンは常に誰かが攻略していないと崩壊の危機に晒される。しかも《幻影の塔》は都心部に存在することもあって、かなり攻略優先度の高いダンジョンとされていたはず……。
「……大変なことになりましたね」
洗い物を終えた二人が、いつのまにか隣でテレビを見ていた。シオンとカナデに挟まれるような格好だ。話しかけてきたのはシオン。真剣な瞳でテレビ画面を見つめている。
「あ、ああうん。幻影の塔はかなり厄介なダンジョンだし、放置はできないな」
「攻略できるパーティは、日本国内だと限られているはずです。ですが他のパーティはそれぞれの持ちダンジョンで手が離せないはず……」
今度はカナデ。
持ちダンジョンというのは、それぞれのパーティが担当するダンジョンのことだ。A級以上のパーティにだけ認められる権利で、優先的にダンジョンを攻略することができる。
このシステムがダンジョンの独占に繋がっているという批判もあるが、探索者にも生活があるから仕方のないことである。
今回のようにパーティが攻略を継続できなくなった場合、後任のパーティにダンジョンの情報なんかが引き継がれるはずだけど……。
「……太一さん。一つ考えがあるんですけど」
意を決したようにシオン。俺は黙って続きを待つ。
「このダンジョン、私たちで攻略したいんです」
「私たち……ってことは、シオンとカナデと、カレンさんとってこと?」
「はい。おそらくこのレベルのダンジョンを攻略できるパーティはほとんどいません。それに、《神々の庭園》で起こっているような異変があるとするなら……」
「……攻略レベルは、SS級に及ぶね」
国内でも数少ないS級ダンジョン。
さらには何が起こるか分からない異変。
その二つが組み合わさるということは、危険度は跳ね上がるだろう。
それを、シオンたちが攻略する……。正直言って、心配だ。だけどシオンの瞳には熱がこもっていた。
隣にいるカナデに視線を移す。
一瞬驚いたような顔をしたカナデだったけど、すぐに覚悟を秘めた表情になる。シオンと同じ気持ちを持っているということはすぐに分かった。
こうなれば、俺がいうことはない。
二人は一流の探索者。その覚悟を否定するなんてことは、俺の探索者としてのプライドが許さない。
それに……直感もある。
この三人なら、必ず成し遂げられる。そんな直感が。
「――分かった。《幻影の塔》の攻略は三人に任せようと思う。俺は引き続き《神々の庭園》の攻略を続けるよ」
「……信じてくれるんですか?」
「もちろん。みんなの実力はこの目で見てきたからね」
「ありがとうございます。……私たちで、必ず《幻影の塔》を攻略してみせます」
「ああ。俺も三人なら出来ると信じてるよ」
「「はいっ!!」」
俺が本心を伝えると、二人は心底嬉しそうに微笑んだ。カレンさんにも、後で応援のメッセージを送っておこう。
シオンとカナデは早速カレンさんにメッセージを飛ばしているようだ。
「……俺も頑張らないとな」
――その二人を見ながら、俺は一人呟くのだった。




