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傲慢が生んだ絶望


 その後のことは正直あまり覚えていない。

 カレンさんの時と違って緊張しまくったし、なにか変なことも口走ったかもしれない。


 そして、俺は気付けば二人と一緒にスマシスをやっていた。


「ちょ、シオンっ!? なんで私ばっかり狙うの!?」

「こういう時は下手な人から狙うものなの!」


 カナデは初めてこのゲームをやるみたいだったけど、シオンは容赦がなかった。

 というのも、勝ったらなにかご褒美が欲しいという話になって、そこからシオンの目つきが変わったのだ。


 俺はステージの端っこの方で二人の戦いを眺めていた。二人からは全く狙われることはなく、ただぼうっと二人の戦いを見ているだけ。


 シオンの操るキャラが距離を詰め、逃げまわるしかできないカナデ。

 シオンもめちゃくちゃ上手いというわけではないが、カナデはキャラを動かすのに精一杯といった様子。


 どちらが勝つかは火を見るより明らかだ。

 なんとなく心の中でカナデを応援しながら(判官贔屓というやつだろうか)、行く末を見守る。


 どんどんとステージの端に追い詰められていくカナデ。あと一撃で撃墜しそうな体力だ。


 しかしカナデは諦めない。

 今日初めてプレイするとは思えない反応で、シオンの攻撃を全て回避する。


「ちょ、ホントに初めてなのっ!?」

「…………」


 カナデは無言。

 かなりの集中力だ。

 ちらっと横目で見てみれば、瞬きひとつせずに画面を見つめていた。


 ……ダンジョン配信をしているときと同じくらい集中してないか? カナデは負けず嫌いなのだろうか。なんか意外だな。


 ――スガガガガッ、ヒュンッ、ズバァッ!!


 目にも留まらぬ速さで駆け引きが行われ、二人が操作するコントローラーのボタン音だけが部屋に響く。

 

 俺はそれなりにこのゲームをやりこんでいるけど、すでに二人には勝てる気がしない。これがセンスというやつだろうか。


 そして、とても初心者同士の戦いとは思えない高度な戦いもついに終わりを迎える。


 シオンの攻撃によって場外に吹き飛ばされたカナデ。

 もうダメージは撃墜圏内まで蓄積していた。


 それを見逃すシオンではない。

 キャラクターが華麗に飛翔し、カナデにトドメを刺そうと武器を振り上げる。


「これでトドメ――あっ!?」


 しかし、それをすんでこところで回避したカナデ。

 シオンの攻撃は完璧なタイミングで、避けれるとは思えなかった。


 だが、カナデのとてつもない反応速度がそれを可能にしたのだ。


 ――刹那。


「そこッ!」


 回避と同時に反撃を繰り出すカナデ。

 シオンのキャラクターは硬直時間で回避することができずに、その攻撃をモロに受けてしまう。


 致命的な一撃により、シオン撃墜。

 残機が減り、シオンの圧倒的なリードが崩れ、カナデは笑った……気がする。

 

「くっ……! やるわね、カナデ」

「シオンこそ……!」

「でも、絶対に負けないから。太一さんのご褒美のためにも……!」


 いや、俺のご褒美の価値ってそんな高いの?

 せいぜい、手作りカレーを振る舞うくらいのイメージだったけど。

 いや、そもそもカレーはみんなで食べた方が美味しいよな。なにか別のご褒美を用意した方がいいのか……?




 ◇




 太一たちがスマシスで熱戦を繰り広げているのと同時刻。


 S級クラン、エバーライトを率いる新山マサルは新たな脅威に苦戦していた。

 

「くそッ……! いったいどうなってるんだ……!?」

 

 幻影の塔、第七階層。

 大きな鎌を構えた《ビジョンリッチ》の群れが、マサルたちに襲いかかる。


 【霧化】に対する間違った攻略方法を広めたことで恥をかいたマサルは、その鬱憤を晴らすべく幻影の塔に潜っていた。


 そこで現れた《ビジョンリッチ》の群れ。

 包囲された時の対策が不十分だったマサルたちの陣形はたちまち崩れ去り、危機に陥っていた。


 ダンジョン内でモンスターに包囲されることは《死》を意味する――。普通なら、そうはならないように隊列を組んでダンジョンを潜るはず。


 しかし、有力な新人ユウトが怪我をしたこと、そしてエバーライトを支えていた古参メンバー、シゲルの脱退により、チームの連携は崩壊していた。


 今回のこの危機は、マサルが先行しすぎたことと、ダンジョンの異変が重なって起こった。


 ダンジョンの異変については《ぼっちのダンジョン攻略記》により周知されていたし、ダンジョン協会からも通達があった。


「どうしてモンスターが群れに……! それに、この数……ッ!」


 しかしマサルは、そういった報告を知らなかった。

 探索者なら怠ってはいけないはずのダンジョンに関する情報の収集も、不測の事態に備えることも怠っていたのだ。


 マサルは驕っていた。

 最年少でS級探索者になれたというプライドが、危険に対する認識を鈍らせていた。


 そしてメンバーの忠告を無視して先行した彼を待ち受けていたのは――久しく忘れていた《恐怖》であった。


「いやだ……誰か、誰か俺を助けろおおおッ!」


 マサルは慟哭する。

 しかし、マサルに同行していたメンバーたちも《ビジョンリッチ》の脅威に晒されている。すぐに救援に駆けつけることなどできない。


「はぁ……ッ、はぁ……ッ!」


 マサルに死の刃が迫る。

 ギリギリで持ち堪えているが、《ビジョンリッチ》たちの統率された動きに翻弄され、傷が増えていく。


 鮮血が舞い、視界が暗くなっていく。

 絶望と恐怖で体が震える。

 気付けばマサルのその両目からは涙が溢れていた。


「あああ、ああああああーーーッ!!」


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