ネットミームになった男
「えっ」
今とんでもない発言が聞こえた気がするけど、俺の聞き間違いか?
「ええと、だからその、太一さんのお家に――」
「お断りします」
うおおおお!!
そんなことしたら大炎上間違いなし!!
無理!! 絶対無理!
ていうかそもそも片付けてないから無理!!
「ご、ごめんなさい……」
悲しそうに顔を伏せるシオン。
「ああいや、二人が嫌いとかそういうワケじゃくて。……ただ、二人が炎上したらイヤだなぁと思って」
「炎上?」
「そうそう。二人は有名人なんだから、そんなことしたらスキャンダルになるでしょ」
俺の必死の説得に、沈黙を保っていたカナデがついに口を開く。
「カレンさんも有名人ですよ?」
「…………」
た、確かに。ぐうの音も出ない反論だ。
いやでも、カレンさんはただの探索者――。
「探索者としてだけじゃなく、モデルとかの仕事もしてますし。アイドルではないですけど、十分スキャンダルだと思います」
――え、そうなの?
探索者として有名とは聞いてたけど、まさかそんな有名人だったとは。水瀬さんのお姉さんってこともあったし、勝手に親近感を覚えていたけど、もしかしてとんでもない人なのか?
「カレンさんは太一さんの家に行ったって言ってましたけど、私たちはダメなんですね?」
念を押すようにシオン。心なしか悲しそうに見える。
くそ、心が痛い……!
「……とりあえず、ここは目立つから移動しない……?」
道ゆく人たちが俺たちに注目している気がする。
こんな道の往来で、女の子二人に詰め寄られている俺の姿はさすがに目立つ。
◇
というわけで、やってきたのは神々の庭園の入り口付近。
人がいないところと言えばここだろう。
そう思ってやってきたのだが――。
「よってらっしゃいみてらっしゃい!」
「Ninja 饅頭、6個入りで1000円で〜す!」
「激レアのNinja スーツ、一着5万円からです!」
今までは人一人いなかった不人気ダンジョンの入り口に、驚くほどたくさんの人がいるではないか。
……なにこれ。いったい何が起こってるんだ。
「……たぶん、太一さんの配信の影響ですよ」
「ふふ、佐藤さんの影響力は計り知れませんね」
いや、そんな冷静に分析しないで?
ていうかもう商売になってるの? 商魂逞しすぎない?
「というわけで、そろそろ観念してください?」
「……ハイ」
シオンの瞳には有無を言わさぬ力強さがあった。
こんなことになるなら部屋を片付けておくんだった……。
◇
俺の運転で走ること30分ほど。ついに家に到着してしまった。二人を乗せているということにやたら緊張してここにくるまでの記憶がない。怖い。
「ここが太一さんのお家……」
シオンが俺の家を見上げながら一言。
隣ではカナデも興味深そうに俺の家を眺めている。
ここまできたら仕方がない。
できるだけ早く帰ってもらえるよう頑張るしかない。
……まぁ、なんとかなるか。




