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休日


 とはいったものの、俺は誰かと一緒に出かけたりした経験がない。なにせ生粋のぼっちである。今日も適当に町をぶらぶらするくらいの予定だった。


「……とりあえず、入る?」

「はい!」

「分かりました」


 なんだか街行く人たちの視線を集めているような気がしたので、目の前にあった喫茶店に入ることにした。いつもより人通りが多い気がするのは気のせいだろうか?


 


 店員に案内され、このあいだの四人席に三人で座ろうとしたところ、なぜかシオンは俺の隣に座った。思わず「え?」と声に出しそうになったが、寸前で飲み込む。


 もしかしたら俺が知らないだけで、これが普通なのかもしれない。カナデも何も言わないし。ぼっちゆえの無知の可能性が高い以上、ここは黙って受け入れよう。


 隣に座ったシオンを横目で見ると、俺の視線に気付いたようで目が合った。


「ん? 佐藤さん、どうしたんですか?」


 その屈託のない笑みを見て、ああやっぱりこれが普通なんだと分からされた。ぼっちは一つ賢くなった。


「そういえば佐藤さん、配信すごかったですねっ!」


 空気に徹するようにメニューを眺めていると、いつもは冷静なカナデが興奮気味に口を開いた。同調するようにシオンも頷いている。


「ま、まぁね……ハハハ……」

 

 俺にとってあの配信は事故だ。

 まさかあんなにたくさんの人に見られるとは思ってもいなかった。


「あの配信の影響で、この街にもたくさんの人が来てるみたいですね」

「へえ……どうりで人が多いと思った」


 やっぱり人が多いのは気のせいではなかったらしい。

 よかった、顔が映ってなくて。知らない人に声なんか掛けられたらたまったもんじゃない。


「海外でも大人気みたいですよ? なんでも、ミーム? 化してるとかなんとか」


 シオンが続ける。……ミームってなんだ?


「ニンジャミームですね。真っ黒の衣装に、二刀流の姿で動画を撮るのがインスタで流行っているみたいです。……ほら、これです」


 補足しながらスマホを取り出したカナデ。

 その画面には陽気そうな外国人が忍者装束のような服を着て剣を振り回している動画が写っていた。


「#Ninjaで、こんな感じの動画が昨日からすごい勢いで増えていて……って、佐藤さん、大丈夫ですか?」

「……ダイジョウブダヨ」


 遠い目をしていたらカナデに心配されてしまった。


「なんでも、このブランドのジャージが爆売れしてるらしいです」

「もちろん私も買いました!」


 シオンが胸を張ってドヤ顔を決めている。

 俺の一張羅であるただの真っ黒なジャージが、なんかすごいことになってるんですけど……。たぶん二千円もしない安物だよ?


 

「なんでも、海外からの注文が殺到してすぐに売り切れたらしいですよ? 向こうではニンジャスーツって呼ばれてるみたいです」

「……な、なるほどね?」


 本当に顔が映ってなくてよかった。この調子だと顔がバレたら街も歩けない気がする。



 そんなこんなで俺たちはコーヒーと軽食を楽しみながら談笑し、(俺は二人の会話に相槌をうっているだけだけだった)気付けばお昼になっていた。


 そろそろ出ようかな。さすがに長居しすぎたかも。


「……ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるね」

「はーい」

 

 俺は立ち上がり、トイレに向かう。

 その間にレジで会計を済ませておく。


「ごちそうさまでした」

「あ、はい。ありがとうございます、3520円になります」


 スマホを取り出し、ブログの広告料でたまったポイントを使って会計を済ませる。


「ねぇ、君たちルナスターズの二人だよね〜?」

「こんなところで何してるの〜? 配信? 企画?」


 席に戻ると、シオンとカナデが柄の悪い男二人組にに絡まれていた。


 シオンは完全スルーを決め込み、カナデは気まずそうに俯いている。


「ねぇ、どうして黙ってるのさ? 俺たちのこと知ってるよね?」

「そりゃそうでしょ。なんてったって俺たちは登録者20万の《カムドット》だよ?」

「ああ、ちなみにこれ撮影中だから。変なこと言うと炎上するかもよ〜?」

 

 二人組の男はシオンとカナデにスマホを向けてニヤニヤと笑う。


 カムドットかなにか知らないが、二人に迷惑をかける奴は見過ごせない。

 俺は軽く()()を飛ばす。


「「……ひ、ひいぃッ!?」」


 すると二人は青ざめ、なにかに怯えるようにガタガタと震え出す。たぶん俺のイメージした()()の殺気が、今にも自分を食い殺そうとしているような感覚になっているんだろう。


 二人はそのまま後退り、真っ白な顔で店を出て行った。


「……大丈夫?」

 

 席に戻った俺は二人に声をかける。

 二人は突然のことに目を白黒させていた。


「大丈夫です!」

「は、はい」

 

 シオンはなにも気にしてない感じだけど、カナデはちょっと怯えた様子だった。そりゃそうだ。あんな柄の悪い男に絡まれたら怖いに決まってる。


「今の、太一さんが追い払ってくれたんですよね?」

「ああうん、まぁね」

「やっぱり! どうやったんですか?」

「ちょっと殺気を飛ばしただけだよ」

「殺気だけで……! す、すごい……!」


 殺気という言葉にキラキラと目を輝かせるシオンとカナデ。


 そのあと、二人は揃ってお礼を言ってくれた。役に立てたならよかった。


 というか、やっぱりこの二人はどこにいても目を惹くな。あまり人が多いところにいるとまた絡まれるかもしれない。


 次はどこにいこうか。

 ゆっくりできそうで、人の少ないところ……。うーん、難しい。


「あの」


 店を出ながら次の目的地を考えていると、シオンが口を開いた。


「……私たち、太一さんの家に行ってみたいです」



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