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ルナスターズ


 水瀬さんに事の顛末をゆっくりと丁寧に報告した後、(ほとんど映像に残っていたからいらないかと思ったけど、水瀬さんがなかなか離してくれなかった)俺は帰宅した。


 報告を聞いた水瀬さんが、「上に報告しておきます。……まぁ、あれだけ話題になったら必要ないかもしれませんが」と苦笑いしていたのが印象に残っている。


「ふぅ……今日は色々あったなぁ……」


 いつものように騒がしく出迎えてくれたフゥちゃんに最高級のエサをあげながら、一つ伸びをする。


 今日はこのまま寝てしまおうかな、と思ったけど、重い腰を上げてパソコンの電源をつけた。ブログの更新のためだ。


 あれだけ話題になったら別に必要ない気もする。

 だけど、なんとなくやらないと気持ち悪いというか。ダンジョンに行った後はブログを書くという流れが、もうすっかりルーティンに組み込まれてしまっている。


「ええと……『ダンジョンに起こっている異常と、神々の庭園、第九層に現れたモンスターについて』……っと」


 今日ダンジョンであったことを打ち込んでいく。

 それだけでなく、ここ最近起こっているダンジョンの異常についても改めて周知しておくことにした。


 配信はたくさんの人が見てくれたし、ブログのアクセスも順調だから、これでかなり情報の共有ができるはずだ。師匠もこれなら文句はないだろう。


「……よし。こんなところかな」


 ふっふっふ。我ながらいい記事が書けた。

 あの俺の分身との戦いを鮮烈な文章と臨場感で表現したこの記事は師匠にも読んでもらいたいくらいだ。


 ――ピロンッ。


「……ん?」

 

 記事を書き終え更新ボタンを押した直後。

 俺のスマホが通知音を鳴らす。


 ポケットから取り出し確認してみると、一件のメッセージが届いていた。


 ――

 水瀬カレン

 素晴らしい記事ですわっ! さすがタイチ、強いだけではなく文才もあるのですね!

 ――


 ……おお。

 文才についてはよく分からないけど、ここまで褒められると嬉しいな。


 ――ピロンッ。

 続けてスマホが通知音を鳴らす。


 ――

 水瀬カレン

 ルナスターズのお二人も感激してきますわ!

 ――


 シオンとカナデも!?

 どうやら三人は一緒にいるみたいだ。そういえば二人とはまだ連絡先を交換していなかったっけ。


 とはいえ、二人と知り合えただけでも十分嬉しいし、あくまで俺はただのファン。出過ぎた真似はできない。これからも距離感を間違えないようにしないとな。



 ◇



「あ、タイチさん! おはようございますっ」

「お、おはようございます……!」


 次の日。

 久しぶりにダンジョン探索を休み、街(田舎)に繰り出した俺を待ち受けていたのは、シオンとカナデだった。


 オフ仕様なのか落ち着いた色合いの服を着た二人は、つい先日作戦会議に使った喫茶店の前で手を振っている。


「お、おはよう……?」


 ……なんで二人がここに?

 という疑問を飲み込み、俺は挨拶を返す。アイドルでもある二人のことはあまり詮索するのは良くない気がした。


「タイチさんもお休みなんですか?」


 シオンがゆっくりこちらに近づきながら尋ねてくる。


 神々の庭園が発見されてから、すぐに誰も挑戦しなくなったせいもあり、俺はほぼ毎日ダンジョン攻略に時間を使ってきた。


 ここ最近は休みなく動いていたこともあって、さすがに疲れが溜まっている。一日くらい休んでもバチは当たらないだろう。探索もキリのいいところまで進んだし、次はいよいよ最終層。万全の体制で挑みたい。

 

「はい」


 ――と言う気持ちをこの一言に込める。

 するとシオンは悲しそうな顔になった。

 

「ど、どうして敬語なんですか……? カレンさんにはタメ口なのに……!」

「……確かに?」


 言われてみれば。俺は頭を捻る。

 カレンさんは距離感を詰めるのが上手いし、なんとなく話しやすい雰囲気があるからだろうか。


「私たちにも敬語はいらないですよ?」

 

 シオンは笑顔でそう言うが、そもそもこれまではカレンさんやルナさんといった第三者がいたからなんとか会話が出来ていたけど、今日は二人きり……いや三人きりだ。どうしても緊張してしまう。


 この状況自体がそもそも俺にとってはあり得ないことで、タメ口なんて馴れ馴れしいことできる気がしない。ぼっちを舐めないで欲しい。


「……善処します」


 だからそう返すのが精一杯だった。

 二人は顔を見合わせてから、「……まぁ、それでいいです」「佐藤さん、人見知りなんですね」と笑っていた。くそ、なぜだか負けた気分だ。


「それじゃ俺はこれで……」

「え、もう行っちゃうんですか?」


 なんとなく気まずいので立ち去ろうとした俺をシオンが呼び止める。こんなところをファンに見られたら大炎上しそうだ(俺が)。


「いやまぁ、二人を邪魔するのも悪いし……」

「別に大丈夫ですよ? 私たちもオフですし、今日は一日暇ですから」

「いやでも、買い物とかしてブラブラする予定しかないし……」

「私たちもですよ? なんとなくブラブラしてただけです。ねぇカナデ?」

「そ、そうだね」

「いやもう本当にしょうもない用事しかなくて」

「大丈夫です! ご一緒します!」


 どうやらシオンは譲る気はないらしい。

 いつのまにかご一緒することになっていた。

 

「……ごめんなさい佐藤さん。シオンは一度決めたら曲げないタイプなんです」


 カナデが隣で申し訳なさそうにしている。ここまで言われたら流石に断るのも忍びない。俺はシオンの提案を了承した。


「わぁ、ありがとうございますっ」


 満面の笑顔のシオン。

 炎上のリスクは怖いけど、シオンの笑顔のためなら炎上も辞さない覚悟だ。それに一応二人も軽く変装しているし、まぁ大丈夫だろう。


 ……いざとなれば、さっさと退散しよう。


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